中国トレンドExpress

インバウンドの現在と未来について語るセミナー「インバウンドとグローバルマーケティングのこれから〜国境の先に、新常識を〜」レポート

2024年9月25日、東京都千代田区にあるグロービス経営大学院 東京校にて、NOVARCA主催のセミナー「インバウンドとグローバルマーケティングのこれから〜国境の先に、新常識を〜」を開催しました。この記事では、セミナーの内容をほぼ全編ご紹介。当日来られた方も、来られなかった方も、インバウンド業界の現在と未来について考えてみませんか?

<モデレーター>

株式会社NOVARCA 濱野智成 代表取締役社長CEO

<登壇者>

花王株式会社 野原聡氏 ヘルス&ビューティー事業部⾨ ヘアケア第1事業部 ブランドマネージャー DX推進リーダー

資生堂ジャパン株式会社 谷川有加氏 Transform戦略推進部 部⻑

大正製薬株式会社 宍戸正臣氏 マーケティング本部⻑

株式会社三越伊勢丹 近藤詔太⽒ 取締役執⾏役員 営業本部 伊勢丹新宿本店⻑

目次

登壇者のご紹介

濱野 まずはそれぞれ自己紹介をお願いします。

花王株式会社 野原聡氏
ヘルス&ビューティー事業部⾨ ヘアケア第1事業部 ブランドマネージャー DX推進リーダー

野原 花王の野原と申します。今、シャンプーなどのヘアケア製品や、お風呂で使うインバス製品の事業責任者をしております。普段は日本人向けマーケティングを担当しております。

実はその前に中国花王に駐在しておりまして、その頃からどうやって日本発の商品を中国で売っていくかということに取り組んで参りました。現在も国内のマーケティングをやりつつ、インバウンドに向けたチャレンジをやらせていただいております。

資生堂ジャパン株式会社 谷川有加氏
Transform戦略推進部 部⻑

谷川 資生堂ジャパンの谷川と申します。日本事業のTransform戦略推進部で、事業戦略や事業企画を担当する責任者を務めております。2024年7月にツーリストマーケティングチームを発足しまして、そこからインバウンドに深く関わらせていただいております。

大正製薬株式会社 宍戸正臣氏
マーケティング本部⻑

宍戸 大正製薬はあまりこういう場に出ることがない秘密主義な会社なんですが、濱野社長とのこれまでのご縁もあり、濱野社長の顔を立てて登壇させていただきました(笑)。

私はマーケティング本部で責任者をやっているんですけど、とにかく国内のマーケターがゼロサム思考過ぎると考えています。国内の需要が伸びないから競争戦略を取ろうと。だから新製品を出したら競合より少し安く売ってみませんかと。馬鹿なことを言うなと。日本のマーケターは絶対ポジティブサムにならないといけません。その際、どこに機会を見出すのかというのが責任者として決める必要があり、バジェットをアロケーションするわけです。

そういう意味では、インバウンドはマーケターをポジティブサムに切り替える、ものすごいチャンスだと思っています。

株式会社三越伊勢丹 近藤詔太⽒
取締役執⾏役員 営業本部 伊勢丹新宿本店⻑

近藤 現在、伊勢丹新宿店の店長をやらせていただいております。本日はマーケティングに携わる方が多くいらっしゃると思いますが、私はそういうことに携わったことがほとんどありません。入社30年目になりますが、そのうち25年間は百貨店で紳士服を担当しておりました。

ですので、今日どんな質問が来るのかドキドキしています。一方で、コロナ禍が明けてインバウンドの売上は伸びていますし、課題もいろいろありますので、自分も気付きが得られるのではないかと楽しみにしております。

株式会社NOVARCA 濱野智成
代表取締役社長CEO

株式会社NOVARCA 笹川剛志
執行役員 ブランドサクセス本部長

インバウンド市場の最新状況

10か国・地域の2024年8月までの訪日観光客数推移

 

 

濱野 まずはインバウンドの最新事情について、私からお話させていただきます。2024年8月、中国が韓国を抜きまして、グッと伸びてきているという状況です。

10か国・地域の訪日客数の比率

 

訪日客数では、韓国、中国、台湾、香港、アメリカの5エリアで90%を占めています。これはファクトデータなので、インバウンドでどこをターゲットにするかというと、まずはこの5エリアが重要になってきます。

 

またASEANもすごく伸びております。8月はベトナムがグッと伸びているということも観測されております。総じて、アジアおよびアメリカはとても大事なターゲットになってくると思います。

10か国・地域の訪日消費金額とその比率

消費額でも、同じく5エリアで80%を占めているという状況です。インバウンドを見ていく上ではこの5エリアはとても重要ですが、私は次のダークホースはどこなのかということを見ております。意外とベトナムやタイ、シンガポール、フィリピンあたりが伸び始めている状況であるということは、しっかりと捉えていいのではないかと思います。

小紅書「訪日ショッピング」クチコミ数の推移と2024年Q2訪日消費状況

このデータは、左は口コミのビッグデータ、右は在日外国人の費目別旅行消費額となります。消費額のなかでも、買い物と買い物以外に切り分けていくことが大切で、その観点で見ていくと、中国は消費総額が4,420億円に対して、2,200億円と約半分近くが買い物に使われているという特徴がございます。

一方で、同じく消費金額が大きいアメリカを見てみますと、消費総額2,781億円に対して買い物が433億円で、約20%くらいということになります。1,200億円が宿泊費に使われていたり、飲食代に600億円が使われているということで、買い物よりもそちらのシェアのほうが大きい。買い物を目的とされているのはアジア方面となり、メーカー様にとっては今後大事になってきます。

中国大陸における訪日観光の潜在性と航空便回復状況

今後の伸びしろですが、パスポート人口やビザの解禁状況みたいなことを鑑みると、やはり中国が大きいということが言えると思います。

小紅書における「訪日目的地」投稿と「訪日ショッピング」投稿の件数推移

最近よくモノ消費かコト消費かと言われますが、中国のショッピング需要と目的地需要の口コミビッグデータを解析したところ、絶対件数ではまだ買い物のほうが大きいことがわかります。

これは⼩紅書という中国のInstagramのようなSNSのデータです。訪日観光と目的地に関する口コミ投稿が8月ベースで7,800件、買い物に関する投稿というものが8月ベースで1万2,000件と、かなり差があります。すなわち、買い物のシェアのほうが大きいということになります。

コト消費に流れていっているからモノ消費がなくなるということではなく、モノ消費もどんどん伸びています。ただし、コト消費に比重が置かれてきているトレンドがあるというのは事実なので、モノを買っていただくためには、きちんと消費”体験”を演じていかないと、モノが買われなくなってくるという現象が起こっています。