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【越境EC最前線!】第7回 ~正しい越境EC運営してますか? 抑えるポイントとは(3)~ 株式会社unbot

お話:福積亮 株式会社unbot  General Manager

インタビュアー:濱野智成 株式会社トレンドExpress代表取締役社長

これまで2回にわたってEC運営について現場の経験を株式会社unbotの福積亮General Managerに伺ってきました。3回目、最終回は最後のポイント「プラットホーム・バイヤーとの付き合い方」。さらに、近年のECプラットホームの動向についても聞いていきます。


バイヤーも必死。それを活用するシステムを

ーさて4つ目のポイント「プラットホームおよびバイヤーとの関係構築」ですが、これは?

福積 これをご理解いただくためには、まず大手サイトの構造を知っていただく必要があります。

京東(JD.com)であれば北京、天猫(T-mall)であれば杭州に本部があります。それらの本部には、それぞれ多くのバイヤーが在籍しています。

バイヤーは、商品セグメントごとマネージャーが存在しており、その下にブランドごとに決められたバイヤーが配置されます。

例えば化粧品であれば、化粧品のカテゴリーマネージャーがおり、その下に資生堂やポーラ、エスティーローダー等、ブランドごとにバイヤーが配置されるわけです。天猫ではこのブランド担当のバイヤーを「小2(発音:シャオアー)」と呼んでいます。

プラットホーム中ではこのバイヤーたちとブランド、そして私たちのようなTP会社の間で大量のコミュニケーションが発生します。

 

ー具体的にどういったコミュニケーションなのでしょうか?

福積 バイヤーたちはブランドに対し、常に情報を求めます。例えば、「新商品はいつ?」、「キャンペーンやらないの?」、「WeChatWeiboのSNS連動イベントの企画は考えてる?」といったブランドのPR戦略を常に気にかけています。

なぜなら彼らには各バイヤーの裁量で使える「無料広告枠」というものが存在し、それを利用して販促を仕掛けたい思惑があります。

実はそれには理由があります。カテゴリーマネージャーはどのブランドが売れても、化粧品全体の売り上げが上がればよいと考えるのですが、ブランド担当の小2たちは、自分が担当しているブランドの売り上げによって自身が評価され、売り上げの悪いバイヤーはクビになる可能性があるようです。

そのため、バイヤーは自分が担当しているブランドの売り上げを上げることに必死です。

 

ーそれはまた、シビアですね。

福積 そうですね(苦笑)。ただ、より重要なのはその時の対応です。こうした無料広告枠の利用を持ち掛けられてからの入稿決定と、バナーを提供するまでにプラットホームから与えられる時間はわずか30分程度です。その時間内に決められなかった場合は、その枠は他ブランド、すなわちブランドにとっては競合に与えられてしまうのです。

そのため、ブランド側も広告枠を使って売り上げを伸ばしたいのであれば、告知する商品と価格・売り方・その広告バナーのデザインなどをわずか30分で調整し、バイヤー、すなわちプラットホームに提供することが求められます。

無料広告枠のチャンスを与えられた時に「じゃあ、社内で稟議を」や「検討します」などと言っていては、30分はあっという間に過ぎてしまいます。

 

ーそういった話というのはブランドに直接来るのでしょうか?それもと運営会社さんに?

福積 これはケースによって異なります。バイヤーはより話がしやすい方とコンタクトを取るようです。ただし、話をかけられた側はすぐにもう一方と相談して決めなくてはなりません。

 

ー効果的な対応策というのはないのでしょうか?

福積 弊社では、北京の京東オフィスに弊社スタッフを常駐させる形で対応しています。スタッフは在庫数と、競合商品の販売価格、そしてデザイナーのリソースを見ながらバイヤーと直接コミュニケーションをとっています。また、京東に外部業者で毎日常駐しているのは、弊社だけだと京東バイヤーから聞いております(笑)。弊社と京東とは非常に長い付き合いで、かつ、日系の京東運用会社といえば、「unbot」と京東バイヤーの方々から言っていただいており、このように認識してくださっているからこそ外部業者の私たちを常駐させてくれているのだと思います。

また、私たちは委託してくださるブランド様と事前に意思統一を図っており、定められた規約の一定の範囲内でブランドとして対応をすることを任されています。

 

ーブランド側とキチンとした取り決みがあれば、対応が早くなるというわけですね。

福積 そうです。実はバイヤー側も無理難題を押し付けてくることはありません。彼らが見ているのは主に競合商品の価格ですね。その動きを見ながらブランドに話を持っていくのです。

 

ーバイヤーも売り上げを上げるためにあの手この手を考えるんですね。それと上手に対応していけば売り上げアップにつなげられそうです。

「担当バイヤーとのコミュニケーションがチャンスを握る」と説明する福積General Manager

多種類のECプラットホーム。その使い分けは?

ーさて残った時間、日本ブランドのEC店舗におけるいくつかの問題点についてご意見を伺いたいと思います。一つ目はブランドそのものが育っていない店舗の場合、どのようにして認知度を上げ、集客を図っていくべきでしょうか?

福積 非常に難しい問題ですね。今回「ポイントは4つ」と申し上げましたが、実はもう一つあるんです。それは「ECサイト外での広告」です。

旗艦店はブランディングにおいて非常に有益です。ただ、知名度上げるためにはやはりサイト外で回遊している消費者にどのようにアプローチしていくかだと思います。例えばSNSなどを活用したプロモーションはトレンドExpressさんが得意としている部分ですよね(笑)。特に旗艦店だけでなく、専売店やその他の小売店で販売している場合、かえって消費者が分散化してしまいます。そうした消費者に対してまとめてプロモーションしていくことが必要であり、運営側の課題だと思います。

 

ーありがとうございます(笑)。ちなみに、福積さんからご覧になられて、最近のECプラットホームについて、それぞれの特徴といいますか、差別化のようなものはありますか?

福積 そうですね。例えば天猫(T-mall)であればアパレルや美顔器などの美容機器に強いECサイトという点ですね。また、淘宝(Taobao)で言うと「ニセモノでもいいから価格重視」というユーザーが多く見受けられます。天猫と淘宝のアパレルカテゴリーだけでいいますと、本物比率は、23.7%と極めて低いですが、それでもユーザーに支持されております。

それに対して京東は「本物保証」、そして「物流スピード」が差別化される特徴です。京東はもともと家電ベースで始まったプラットホームでしたので、ユーザー比率も男性が多かったのです。ですが、売りの「本物保証」という点で「本物でなければいけない商品」、つまり化粧品といった肌に直接使用するものや、ベビー・マタニティ用品など、サブスプリクション型商材の売上とそれを求めるユーザーが急増しており、現在ではそれらに日用品を加えた商材が家電の売上比率を超えています。なお、京東の本物比率が全BtoCプラットフォームで1位の90%となっております。

 

ーこうしたプラットホームの使い分けなどは?

福積 天猫(T-mall)はユーザー数と商品数の多さが魅力ですね。なので、天猫で新商品をローンチして、京東(JD.com)で売上を立てていく、といった使い分けをするブランドも存在します。

ですが、最近では各サイトの得意分野の差が少なくなっているように思います。例えば京東はアパレル系が弱かったのですが、現在はコスメ・ファッション分野を得意とする唯品会(VIP)に出資し、弱みであった女性ユーザーを共有し合う形で上手く弱点を補っています。

実際に、唯品会への流入が、京東のトップナビから送客することができ、京東にも女性ユーザーが多く流れてきていると京東のバイヤーが言ってました。

 

ー最近話題の「小紅書(RED)」はいかがです?

福積 いいですね。小紅書(RED)はもともとメディアという強みがあります。コンテンツも充実していて、若い消費者は小紅書で飲食店などの情報を取っているくらいですから。そこにコマース機能が加わったので、非常に強いと思います。また2017年にはPOP旗艦店モデルを導入し、ブランド出店がしやすくなりましたから、ブランドにとってもより使いやすくなったと思います。

旗艦店で思い出しましたが、天猫は旗艦店の出店ハードルが高く、天猫の自社WEBページに記載されているブランドを優先的に誘致しており、そのリストに載っていないブランド様の旗艦店開設の可能性は3%と言われております。そのため旗艦店を検討されてるのであれば、BtoCシェア第2位の京東になるでしょう。

 

ーなるほど。ちなみに出店した場合、いかに評価を上げていくかも重要になってくると思いますが。

福積 そうですね。淘宝(Taobao)などでは評価点数を4.8以上取っておくことがおすすめと言われますが、実はユーザーは評価点数をあまり気にしていないようです。見ているのはレビュー内容。

これは先のCSに関わってくるのですが、実際に購入したユーザーの評価(口コミ)を見ています。「サービスがいい」、「物流が早い」、「品質がいい」、「お買い得だ」、「商品&梱包がきれいだ」といった評価をしっかりとチェックしてから商品を購入しています。レビューにはさらに購入者が撮影した写真があるとより効果的です。

しかし、もっと大切なのは「悪い評価への対応」です。ちょっとした誤解などから「だまされた」などと書き込むユーザーが稀にいますが、多くのブランドがこうしたマイナスの書き込みを放置してしまっています。これでは逆効果。悪い評価に対してこそ真摯に対応することで、それを見ているユーザーの評価は上がってくるものです。

 

ー最後にまもなく618がやってきます。その戦い方とは?

福積 まずはプラットフォームによって変わります。天猫ではW11と同様に、6月17日深夜までカートに入れ、18日が来たら一気に購入するというシステムです。

それに比べ、京東は商戦自体が今年は5月25日からスタートしています。その予熱期、専場期を経て、17日、18日(もしくは19日)にメインイベントである高潮期を迎えます。その後、数日間は残った商品を売る反潮期などもあり、長丁場の戦いになるでしょう。それを有利にしていくためにも、競合よりも早めにプロモーションを仕掛けていくことが重要になってくると考えています。

 

ー中国の越境EC、今後もさらに注目されていきますが、そのなかでunbot福積さんのお話は貴重な情報になると思います。今回はありがとうございました。