中国トレンドExpress

越境ECの最新動向からソーシャルバイヤー活用法まで。新たな中国市場アプローチを語るセミナー現場リポート(1)

越境EC。すでに説明の必要もないほど定着したこのビジネスですが、そこで成功を収めている企業というのはまだまだ少数。そうした越境ECの悩みを解決するセミナーが4月18日、株式会社トレンドExpressで行われました。

今回のテーマは従来の越境ECセミナーとは若干様相を変え、「越境ECの今」、現在注目を集めている「ソーシャルバイヤー」について討論が行われました。

当日、100人ものビジネスマンが詰めかけた本セミナー、今回はまず中国越境EC市場の最新動向を伝えために同市場の最前線で活躍される2人をゲストスピーカーとして迎えたセミナーの第一部をお伝えします!(全3回)

<第一部ゲストスピーカー>

株式会社BENLY代表取締役社長・中瀬浩之氏

日本貿易振興機構(JETRO)ものづくり産業部生活関連産業課課長代理・草場歩氏

 

<第一部モデレーター>

株式会社トレンドExpress 取締役 中澤 吉尋氏

中国越境ECで売れる商品とは?

草場歩氏(以下、草場氏):特に好評なのは化粧品などの美容商品ですね。天猫(Tmall)など越境ECのモール内で取引されている内の3割が化粧品・美容関連商品だと言われていますが、日本の商品に限って言えば、中国向け商品の6割を占めている最大手です。

 

中澤 ちなみに、我々が話す上では「日本」という国単位でのくくりで考えられることが多いのですが、中国の消費者は日本や、韓国、また欧米など国単位で捉えて商品を見るのでしょうか?

 

草場氏:確かに日本製が良いといった、国単位での見方もありますが、やはり重視されるのは「ブランド」単位だと思います。やはり、知人が使っている、もしくは使ったことがあるといった実体験に基づく評価、知名度が重要視されています。

中瀬浩之氏(以下、中瀬氏):化粧品はもちろんありますが、アパレルやトイレタリー商品、またアニメグッズも売上として多くなっていると見られます。

 

中澤 アパレルだと、色やサイズ展開でSKUが増え、ハードルが高くなりがちな印象ですが、それでも人気が高くなってきているのでしょうか?

 

中瀬氏:確かにSKUは増えますが、アンダーウェアなどでは「ジャパンフィット」と言って、欧米の商品よりは日本人の体型に合ったものの方が、中国でも人気があります。

 

中澤 なるほど。また、トイレタリー用品については、具体的にはどのような商品が人気でしょうか?

 

中瀬氏:これは商品というよりブランドでの人気です。日本の花王やユニ・チャームといったトップメーカーの商品であれば常に信頼が高く、銘柄指定で買われている現状です。

 

中澤 しかし化粧品やトイレタリーなどは、「そもそも人気のある」分野だ、といった印象も否めません。例えば他に芽が出そうだとか、これからの時代の流れを感じるものはありますか?

 

中瀬氏:どの分野が売れてくるか、というよりは、どんな商材がどう海外の目に触れていくか、が重要なのではないかという気がします。

多岐にわたって、様々な分野の商品が売れています。中国の人口は日本の10倍ですから、例えば日本では非常にニッチな分野であっても、一定レベルの市場にはなります。

どんな分野が売れるか、よりも、今ある自社商品をどうやって中国の消費者にリーチしていくか? そのアクションが非常に重要ではないかと思います。どの分野でも、アプローチさえ適正にしていけば、モノが良ければ売れる、と言えます。

 

中澤 ありがとうございます。どんなものでも、日本の10倍もある大きな市場、その潜在的な需要に商品の良さがしっかりとアピールできれば、やり方次第で売れる、ということですね。

中国越境EC、どんな問題点が?

中澤 2つ目の議題として、現在ある越境ECでの課題、そして、もしあればその解決方法などを伺えればと思います。

 

中瀬氏:中国で言えばやはり配送と税関の問題です。

中国では越境ECでの販売については金額の上限が決まっているため、ECサイト出品時の価格設定よりも高めに調整されてしまうことがままあります。一般貿易であれば先に中国側にモノを全部送ってそちらから配送になりますが、ECの場合は日本からの配送までも含めて、海外向け商品の個数・価格設定を鑑みながら決めていくようになります。

 

中澤 「どのくらい売れるか?」がわからない状況においては、日本からのEMSやUGXを利用した直接配送になりがちですが、その点何か課題はありますか?

 

中瀬氏:EMSで言えば、税関で素通りできる時と、関税が別途かかってしまうときとがあります。購入者側から見れば、ECサイト上で購入した時の値段にプラスして税金分が請求されるので、これを受取拒否されることがあります。

UGXになると事前に登録をして、関税も元払いに出来たりするので、上記のようなトラブルは防げますが、逆にある程度の分量を発送していないと、コストがかかりすぎてしまうといった側面も持っています。ただ、今後としてはUGXも主流になってくると思います。

また、中国の運送会社も日本に進出してきています。企業としては自社の商材がどのくらい売れるのか見通しを立てながら、商材の重さや大きさ、分量によって、どの配送方法を使うかを判断してもらえればと思います。

 

草場氏:中国側から見れば、「市場の健全発展」が課題になっています。すでに2014年には「保税区型」の越境ECが制度化されて、独自に管理は行われていますが、これは税金の確保と消費者の保護を目的としています。

「越境EC市場の健全発展を課題してみている」と中国政府の取り組みを説明するJETROの草場歩・課長代理

中瀬氏:中国政府が関税をちゃんと取れる仕組みとして、販売者側に、商品の価格に関税分を上乗せして販売するよう制度化していく流れがありますね。それで必ず販売者側から税金が取れるという。施行についてはまだスケジュールが出ていませんが、この部分にも今後注目が必要です。

 

中澤 関税という部分では、中国政府は従来の一般貿易について関税を下げています。越境ECは実質税金がかかるようになっている今、中国政府の思惑としては一般貿易を推奨して、越境ECの発展には歯止めがかかることになるのでしょうか?

 

草場氏:中国としては輸入も拡大していく見込みで、越境ECが縮小されることはないと思います。逆に、一般貿易と越境ECの差をなくしていき、活性化させていく流れかなと思います。

 

中瀬氏:越境ECと一般貿易の並行輸入も増えてきています。まずは越境ECで始めて、中国市場でブランド認知があってから一般貿易を拡大していく流れを整えていく形ですね。

中国越境ECの参入や売り上げ拡大のポイントは?

草場氏:ECではブランドの認知度・知名度が圧倒的に重要となっていることです。

消費者としては、実店舗では商品の実物を見て選べますが、ECサイトでは基本的に並んでいる類似商品を比較検討するよりは、自分が知っているものを買いたい、と指名検索してその商品のみを購入します。やはりまずは知ってもらうことが重要です。

 

中瀬氏:私は販売チャネルの拡大と、見せ方、の2つが重要と思います。

たくさんのプラットフォームに自社の商品を出すのはもうECでは王道ともいえるでしょう。日本でも、楽天、Amazon、自社HPなど複数のサイトから購入が出来ることが主流です。

中国では、淘宝、京東などの大手ECはもちろんのこと、ソーシャルバイヤーのSNSやKOLの動画チャネルも視野に入れること。また、日本側も中国専用のECサイトを作っていたりしますが、知名度のないプラットフォームで展開してもまず買われません。「良質」なチャネルを選ぶことも大事ですね。

見せ方とは、中国向けと、台湾向けとでECサイトの作り方が異なります。台湾は情報をじっくり読んで検討する傾向にありますが、中国はファーストインプレッションが大事だったりします。そのため、どこへ向けての商品かで、広告やサイトのデザインが売上に影響する傾向があります。

 

中澤 例えば中国でそのファーストインプレッションを与えられるのは、具体的にどういった見せ方が効果的でしょうか?

 

中瀬氏:一言で商品が理解できる、イメージがわく、といったセンテンスであったり、写真などの見た目で購買意欲がわくビジュアルが大事です。また、ディスカウントに関するインパクトも良い効果があります。

何より、サイトを見たときに、ユーザーに「スクロールをする」というひと手間をさせないことです。長々と本文が貼ってあってもまず読まない。ページが表示された瞬間に視覚的にバッとわかることが重要です。一言での説明が出来ないなら文章を書くより動画を見せてしまってください。

「商品が一目でわかる工夫を」と語る株式会社BENLYの中瀬浩之・代表取締役社長 

今後、越境ECはどうなる?

中瀬氏:越境ECは自社商品を海外へ売る時のファーストトリガーと言いますか、一般貿易を見据えた認知度の拡大という役割が今後は王道になっていくと思います。

マーケットリサーチとしてまずは越境ECを始めて、どのくらい売れていくのかという判断の基準にするのが通例となるかと思うので、これからも拡大していくと思います。

 

草場氏:縮小するということは考えられないだろうと思います。今年は11月の5日~10日まで、上海で『中国国際輸入博』も開催される予定でして、中国側も力を入れて、輸入促進計画を立てています。これからどんどん拡大していくという認識で良いかと思います。

 

中澤 中瀬氏の「越境ECはマーケティングリサーチである」という考え方は面白いですね。まずは越境ECで中国市場の反応を確かめてから、一般貿易に踏み切る。拡大していく越境EC市場の中で、これからはこういった形もひとつの主軸になっていくのではないでしょうか。

本日はありがとうございました。

モデレータを務めたトレンドExpress取締役・中澤氏も「越境EC~一般貿易の新しい道筋を見いだせた」と本セミナーの意味を語る。

次回は、越境ECの新しい形『微店』と、ニュースにもなった「中国人の爆買い」を生み出したソーシャルバイヤーとは何者なのか? について徹底的に解説します!


▼つづきは

越境ECの最新動向からソーシャルバイヤー活用法まで 新たな中国市場アプローチを語るセミナー現場リポート(2)