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【ダブルイレブン】 ECキャンペーン×ニューリテールは衰退する中国実体店の救世主になるか?

現在、中国を語る上で外せないキーワードが「ニューリテール」。アリババが提唱し、推し進めようとしている新な小売りモデルです。すでに多くの試みがなされており、日本でも注目されていますが、今年のダブルイレブンでも実体店とECのイベントを連動させる施策が数多く展開されました。

中国トレンドExpressはダブルイレブンに合わせて現地取材を敢行、EC上の盛り上がりとともに、衰退が叫ばれていた実態店の様子を見てきました。


アリババのニューリテール戦略。今年のダブルイレブンでも

近年、中国で注目されているのがアリババのジャック・マーが提唱した「ニューリテール」です。

同社が確立した中国のECと既存の実体店(同時に商品を動かす物流)を融合させ、消費者に対して新たな体験、サービスを提供していこうという概念です。

すでにアリババは中国国内に「無人コンビニ」を展開したり、モバイルと実体店を組み合わせた新型生鮮食品店舗である「盒馬生鮮」をオープンさせたりとその動きを加速させていますが、今年のダブルイレブンでも昨年に引き続き、より大掛かりなイベントを展開しました。

その一例が、上海市内でも有数の商圏である「中山公園エリア」に位置するショッピングモール「龍之夢」。

同店ではダブルイレブンシーズンに合わせて、看板のQRコードをスキャンすることで店内各テナントのダブルイレブンキャンペーンの模様が把握でき、なおかつ紅包をゲットできる機能を展開したり、カプセル状の設備内で舞い狂う花弁のような紅包QRコード付き紙吹雪をゲットできたりと、T-Mallのイベントと連動したアトラクションを設置していました。

 

(看板のQRコードで店内の各テナントが行っているダブルイレブンキャンペーンが確認できる)

 

 

メーカーもネット連動型の割引イベント

こうしたダブルイレブンと連動したイベント、百貨店・モールのみではなく、こうした実体店に出店するテナントでも盛んにおこなわれていました。

一例をあげると、前述の龍之夢にテナントを構えている韓国のコスメブランド「innisfree」。

同ブランドの実体店舗ではダブルイレブンキャンペーンに合わせて「すべての買い物で一律30元OFF」という値引きプランを展開するほか、モールと連動してダブルイレブンの紅包を配布したりすることで、ECサイト上だけではなく、実体店に足を運んだ消費者も取り込む戦略を行いました。

 

こうした動きが功を奏したのか、同ブランドはコスメ分野で売り上げ9位にランクイン。入れ替わりの激しかった今年のダブルイレブンで昨年のランキングを死守しています。

なぜ「ニューリテール」か~地盤沈下していた大都市の「商圏」

こうした実体店におけるダブルイレブン連動型キャンペーン。

ダブルイレブン当日、上海市内で話を聞いた30代の女性は、今回のECイベントキャンペーンによる店頭の賑わいに「飲食以外で実体店が賑わっているのを久しぶりに見た」(上海市民)と語ります。

今、中国の消費者にとって、こうした百貨店やモールは「友人と食事をする場所」、「外食しか使わない場所」となりつつあるのです。それは実体店が抱える深刻な問題。多くは「ECの登場によってそうなった」という見方がありますが、実はそうではありません。

ECの台頭のほんの少し前から、特に大都市における商圏には「商圏ブランドの地盤沈下」という変化が起こっていたのです。

中国における所得の増加によって消費能力も高まり、購買意欲も大きくなりました。それによって百貨店やショッピングモールも数を増やしましたが、別の悩みが生まれてきました。それは百貨店やモールの数は増えたものの、それぞれの店舗に入っているブランドに大きな違いが無く、消費者にとっては「どこに行っても同じ」という現象が起こっていたのです。

上海の老舗と言われる百貨店に足を運んでみると、どこのテナントも「UNIQLO」、「ZARA」、「H&M」といった人気のファストファッションがテナントの主力となっており、飲食においても「McDonald’s」、「ケンタッキー」、「スターバックス」が入っているのが当たり前に。店舗の違いが不鮮明になり、消費者としては「その店に行く理由」が薄らいでいきました。

また上海の消費者が「店頭価格にはテナント料や人件費、店内での広告費などのコストが入っているから高い」(30代、女性)と語っていましたが、その収益構造に対しての不満なども、徐々に高まっていったのです。

こうした理由が重なり、上海や北京などの大都市における百貨店・ショッピングモールの価値、特に消費者にとっての重要性は徐々に低下していきました。

そしてTaobaoをはじめ、T-Mall、JD.comなどのECの台頭が、確かに従来型の実体店への興味を失っていた消費者の目を一気に引き寄せ、実体店の衰退を加速させたのです。

中国EC発展の10年は、実体店にとってはまさに苦難の10年。それが今、ようやくECイベントとの連動という形で息を吹き返しつつある、少なくともそのきっかけを得たことになります。

またECとしても、市場の盛り上がりによる寡占状態によって、かつて中国の百貨店やモールの轍を踏まぬよう、新たな販売モデルを具体化させる必要がありました。

ここでようやく、長らくライバルだったECと実体店が手を組む機会が到来したわけです。

 

日本でも従来型の百貨店・モールの未来が不安視されていますが、こうした中国の動きは一つの参考になっていくのではないでしょうか。