中国ニュース深読み~中国ネット社会で広がる葛藤
すでに日本でも知られている中国のネット社会化。さらにはそのIT技術の向上と相まって、まさに世界最先端のインターネット、IT社会が出来上がっている。
日本ではその技術面が喧伝されているが、重要なのはそれを使う人。3月に間もなく施行される新しいインターネット関連規定に、その課題が見えてくる。
今回は中国インターネットの規制に背景から、今後の中国インターネット環境を考える。
8億人のインターネット社会が既に出来上がっている
中国のインターネットの普及率はすでに国土の60%を覆っている。「まだ半分?」と思われるかもしれないが、日本の10倍、14億の半分という事は最低でも8億人近くがインターネットを使用していることになる。
さらにそのインターネット人口に対するモバイル普及率は約100%。すなわち、8億人がスマホなどのモバイル端末を使って気軽にインターネットを使用することができる。
かつては自宅のPC、もしくはインターネットカフェなどに行かなければできなかった、また2000年代初頭まで、その遅さがユーザーをイラつかせていた中国のインターネットだったが、すでに世界最速のインターネット大国となっており、同時にその技術を利用したビッグデータビジネスも拡大。
中国貴州省には世界でも初となるビッグデータ特区が設立させ、中国内外の大手ネット企業が巨大なサーバーセンターを設置しているほか、政界でも類を見ない「ビッグデータ交易」関連条例を制定し、健全な状態でビッグデータをやり取りできるようになっている。
今回のコロナウイルス対策の一環として、こうしたビッグデータを活用した情報発信ができるほどになっているのである。
ネットの上で広がる暴力に…
こうしたインターネットの普及によって膨大な量の情報に接する機会の増えた中国だったが、新たな問題が台頭してきた。
それは「インターネットモラル」である。
中国専門機関による調査報告書『2019年中国社会情勢分析と予測』によると青少年がネット上で暴力的な情報に遭遇した割合は28.89%。
その中でも暴力的な言葉は「揶揄や嫌味」と「虐待的または虐待的な言葉」が多く、それぞれ74.71%と77.1%に上る。次に「悪意のある写真や動画」(53.87%)、「言葉や文字による脅迫」(45.49%)と続く。
インターネットの匿名性を利用して、ネットによる暴力はネット環境を脅かす大きな猛毒となっている。多くのネットユーザーは不確定な事実に対し、ネット上で傷害、屈辱、煽るなどを発し、当事者の名誉やプライバシーに深刻な損害を与えているのである。
その中で特に問題となっているのが「人肉捜索」である。
ネット上にあふれる多くの情報を収集し、特定の個人を特定、ネット上に個人情報を晒す行為。
日本でも犯罪者やその家族、または芸能人などの住所や個人情報をネット上で調べ上げ、公開。対象人物へのネット上、また現実社会の上での攻撃を招くという事象が多いが、中国でも同様の行為が広がっており、社会問題になっているのである。
それも大きな事件の当事者なったことで被害を受けるというケースだけではなく、生活のわずかなでき事、例えばちょっとした口論から人肉捜索を受けることが増えているという。
四川省徳陽の安医師はプールで二人の青年と口論になったことがあが、その後、安医師はインターネットで人肉捜索を受け、生活に深刻な打撃を受た、という事例も報告されている。
さらにはこのコロナウイルス機関においても数多くのデマが飛び交い、政府もその対応に追われる結果となった。
最大級のネット社会である中国の場合、情報社会の悪影響が他国より強く表れてしまうのである。
より健康的なネット環境をめざして
こうした状況を改善すべく、国家インターネット情報局は「網絡信息内容生体治理規定」を公布。2020年3月1日から施行される。
これは従来定められていたインターネット上のモラル、すなわち国家の安定を脅かす情報や根拠のないデマ、血なまぐさい暴力的な内容や性的な内容などを禁止するほか、個人の情報の保護に関してもユーザーのみならず、インターネットプラットホーム(検索サイト、EC、ソーシャルネットワーク運営企業)にも厳しく求めている。
特に政府が気にしているのが、中国のインターネットユーザーの主力が若者かつ教育水準が低いという点だ。
中国のインターネット人口は前述のように8億人。そのユーザーの学歴を見てみると、大卒以上のユーザーは10%程度しかおらず、それ以外は専門学校以下の学歴となっている。
これは中国が抱える膨大な人口のうち、大学まで進学できる人口が限られており、地方都市や農村では高卒後にそのまま仕事をするケースがいまだ多いのである。
また50代以上にもインターネットは広く活用されているが、こうした世代は経済状態だけではなく、文化大革命などの社会的動乱によって教育が受けられなかったという世代も多い。
学歴即モラル、という意味ではないが、中国では社会意識の面で差があることもまた事実で、こうした教育の不均衡という社会問題がインターネットの健全な利用というものに悪影響を及ぼしているとも考えられる。
ただ、「中国社会にポジティブな影響を与える言論の推奨」も規定しており、こうした規制を通じて政権の安定化を狙う、という側面もある様子。
しかし、こうした規制も上手に味方につければ企業や個人に対するデマ、中傷を防ぐこともでき、また社会に有益な情報を提供することで企業への信頼度も上がりそうだ。
こうした新規定を頭に入れた情報発信を心がけたい。