気になるウイルスをどう防ぐ?殺菌ニーズの高まりに動き出す中国企業。
世界的な蔓延を見せているコロナウイルス。真っ先に広がった中国では、1か月以上にわたって外出が制限されるなど、消費者の生活に大きな影響を与えている。
それはクチコミデータにも如実に表れており、トレンドViewerの「買いたい」ランキングなども大きな変化が見えている。
その変化にいち早く対応したのは中国の化粧品などの業界である。彼らはコロナウイルス後を見据えて新たな商品の開発に着手するなど積極的な動きを見せている。
今回はViewerから見える中国におけるコロナウイルス・ショックと、それを受けた中国企業の動きを見てみよう。
高まる「ウイルス対策」。買いたいランキングでも大きな変化が
トレンドViewerでは、2月21日(金)に公開した、「2020年1月22日~28日」の週次クチコミランキングで、その変化が如実に表れた。
中国では本格的に新型コロナウイルスとの戦いが始まり、翌23日には湖北省武漢市が封鎖され、緊張感が高まっていた時期である。
トレンドViewerの「買いたい」ランキングでは、マスクのランキングが急激に増加。1位に躍り出た。
日本の報道でもマスクばかりに目が行っていたが、実はマスク以外、複数の商品が一気にランクを上げているのが見て取れる。
その一つが「殺菌・消毒スプレー」である。
トレンドViewer「買いたい」ランキング内では「らくハピ アルコール除菌EX」(アース製薬)や「HIGYA除菌・消臭スプレー」(ライオン)など、除菌・消臭スプレーも同時に急上昇している。
【グラフ】トレンドViewer「買いたい」ランキングにおける2商品のクチコミ推移
これらの商品、必ずしも新型コロナウイルスに有効というわけではないが、そこから中国の消費者の除菌・殺菌意識の高まりが感じされる。
2003年のSARS後も同様の傾向がみられたが、いったんウイルス感染の恐怖を感じてしまうと、その後しばらくは身の回りの「細菌」が気になる。
こうしたなか「少しでもウイルスを減らし、清潔な状況を」、「ほんの少しでも安心度を増したい」という意識が見える。
特にそうした衛生面では日本の商品への信頼が高く、コロナウイルス終息後も注目が一層高まるのではと予想される。
中国ではすでに注目は「抗菌ハンドジェル」へ
中国ではコロナウイルスの蔓延ののち、真っ先に必要になったのがマスクだった。
すぐさま既存のマスクメーカー以外に、ITテクノロジーの富士康(フォックスコン)や自動車メーカーとして知られる比亜迪(BYD)、子供服・用品ブランドの青蛙王子、化粧品OEM企業の諾斯貝爾(NOX BELLCOW)など、多業種がマスク生産に参入。現在に至るまでその生産を続けている。
しかし同時に、マスク同様に重要商品となったのがハンドソープである。
日本でも繰り返し訴えられているように、コロナウイルス予防で最も重要なのが手洗い。それを行うハンドソープ、しかも抗菌機能が付いたハンドソープは、中国の消費者にとって必需品となったのである。
上海に拠点を置く中国の化粧品メーカーである伽藍集団(JALA Group)では、その傘下にあるブランド「自然堂(CHANDO)」および「春夏(spring/summer)」ではそれぞれで殺菌効果のあるハンドジェルを開発、市場投入をしている。
また、同じく化粧品メーカーである「一葉子(one leaf)」も同様に、水を使わない手の殺菌用ジェルや殺菌スプレーを生産し市場に投入した。
いずれのブランドも「アルコール75%」、「抗菌」、「殺菌」をうたい、また「一葉子(one leaf)」では「医療水準」といううたい文句での販売を行っている。
まさにコロナウイルス後の中国除菌・殺菌ニーズを見ての商品という意味合いもあるが、同時にコロナショックによって生まれた損失を取り戻すための施策、という目的も強いようだ。
本来春節前は「年貨商戦(年末商戦)」といわれ、年末賞与を手にした消費者が多くのものを購入する、食品だけでなく化粧品などのメーカーにとっても書き入れ時となっていた。
しかし、2020年の春節では販売はECでできるものの、物流が動かず商品を送れない。そもそもスタッフも外出規制で出勤できていない、という状況があったのである。
逆境にあっても、消費者ニーズを見極め、素早くシフトしていく中国企業のフットワークには驚かされる。
どうなる中国の殺菌・消毒市場。カギは日本企業の特性か?
しかし、化粧品企業がこうした除菌・殺菌商材を生産することに問題はないのだろうか?
中国ではやはり化粧品としてのジェル、スプレー剤と殺菌効果のある商品では生産基準が異なり、またライセンスもわけられている。
前述の両社以外ではニュージーランドの化粧品ブランド「geoskincare」は、中国でいわゆる「衛生消毒類」の生産ライセンスを有し、同様に殺菌ジェルなどを市場に投入し始めている。
それ以外は主に「消毒類製品」の生産ライセンスを持つOEM企業への委託生産となるケースが多いようだが、中国メディアによるとそうした企業の数は決して多くなく、複数の大手企業の取り合いにあるのでは、と予想されている。
同時に包装材、すなわち消毒殺菌商品に適したボトルやプッシュ口などの生産企業も数が限られていることもあり、中国メディアによると「大部分の殺菌商品対応のプッシュ、ボトルのメーカーは商品受注が5月まで埋まっている状態。包装素材は日に20%も値上がりしている」と報じている。
そのため、この中国国内の殺菌消毒剤がどこまで展開できるかが不透明ともいえる。
さらに今後、こうした環境下で多くの企業が「殺菌」成分をうたう商品を市場に投入するが、前述の品不足や生産企業不足により「見せかけの殺菌製品」なども市場に流れ、おそらくは消費者の混乱を招く可能性も高い。
中国でよくあるこうした「効果不鮮明な」商品の乱発は、消費者の混乱を招くことから、最終的には行政による市場整理・表現既定の厳格化などが行われることが予想される。
例えば「殺菌」という表現を用いる場合の基準、およびそのエビデンス提示の厳格化などだ。
そうした時の中国企業の動きも注目されるが、この中国消費者の衛生・殺菌ニーズをビジネスチャンスと見る日本企業も少なくない。
もちろん日本企業の商品は中国消費者も期待するところではあるが、自社商品の効果・機能をきちんと伝える表現、そしてその裏付けなどを細かく整えておく必要があるだろう。
今後、現れるであろう殺菌消毒剤市場の「乱戦」。そこで混乱する消費者に求められるのは、きちんと商品の特性を根拠をもって説明し、効く・効かないをはっきり述べる日本企業特有の「バカ正直さ」なのかもしれない。