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【Column】新しい世代に新しい旅を 新型コロナから変わる中国の観光業

インバウンド、訪日観光客が日本から消えてすでに1年余りが過ぎた。いまだ新型コロナの猛威は収まらず、訪日観光客がやって来るのも日本におけるワクチンの普及、新型コロナの落ち着きを待つほかない。

中国の大手旅行予約サイトが、そんな2020年における中国の若者の観光事情に関するレポートを発表した。

主に盛り上がりを見せたのは国内観光だが、そこから将来の中国での観光業の形と訪日観光の可能性を考えてみよう。


大きく低迷した2020年の中国観光業界

中国では2020年、新型コロナウイルスの影響によって、観光業も少なからぬ打撃を受けた。

中国政府の公式発表によると、2020年に中国国内の旅行を楽しんだ観光人口は延べ28.79億人で、2019年から延べ30.22億人も減少しており、大きな落ち込みを見せている

旅行収入においても2兆2300億元と20219年比で61.1%の下落。

 

日本同様、中国の観光業界の厳しい現状が浮き彫りになった。

 

そんななか、2020年の観光に関するレポート『2021年年軽人品質旅游報告(2021年若者クオリティトラベルレポート)』を発行したのは馬蜂窩(Ma feng wo)。中国では携程(C-Trip)と並ぶ大手観光予約、レビューサイトである。

 

レポートの冒頭では中国旅游研究所の調査結果として「2021年は延べ41億人が国内観光に出かけ、3兆3000億元規模の観光収入が見込まれる」と予想を紹介、20201年の観光業の復活に期待を寄せている。

 

この中国の観光業で注目されるのは、非常にアクティブかつ新しい感性を持ったZ世代の動向であり、同社は自社の旅行予約動向などのデータを解析し、主に2020年「Z世代」の観光状況を分析している。

Z世代の旅は「文化」と「ハイエンド」

このレポートによると、2020年の中国Z世代観光の特徴は、「文化」、「ハイエンド化」であるという。

 

文化旅行とは中国国内におけるさまざまな風土、文化を感じとれるスポットへの観光である。

例えば、数百年前の街並みが残った「古鎮」であったり、もしくはそうした土地の文物の集まる博物館であったりと、とにかく文化的な雰囲気に浸る旅に心動かされている様子である。

同社の予約システムのデータを見ると、国内の入園チケットが必要な観光スポット売上の内、いわゆる文化体験スポットのチケット売上比率が2019年比で11.3%上昇。

なかでも古い街並みを楽しむ(例えば日本の川越や白川郷のような)スポットのチケットにおいては21.4%増、また「城壁や城門、楼門」などのスポットのチケット売上も9.6%上昇している。

 

単純に風景がキレイや気分がいいのではなく、古き時代の中国を実感し、それを写真に収められる場所、文化的SNS映えのする場所が人気を集めているようだ。

馬蜂窩でZ世代の人気となっている江西省の「婺源(上)」と「篁嶺(下)」

また高級化、という点においては、客単価8,000元以上の旅行商品の予約が、2019年に比べて86.2%も増加しており、より多くのお金をかけて旅行を楽しもうという意識がZ世代には見えるようだ。

 

ただ、購入といっても、もちろん高級ホテルの宿泊のような物的な購入感ももちろんながら、「トレーラーハウスを使った雪山や草原での宿泊」や「チベットやゴビ砂漠のような特殊なエリアの探検旅行」、「気球やクルーザーを使ったイベント」、「氷原体験」など、コンテンツ化されたアクティビティに積極的に費用を投じている様子がデータに表れている。

 

単純に人の集まる観光地を見に行くのではなく、特別な体験を求めるZ世代の観光意識が見える。

中国の新しいライフスタイルも観光業に

こうした観光の中、もう一つ注目されているのが「云旅游」、すなわち「クラウドトラベル」というキーワードである。

 

中国では2020年年初からの新型コロナウイルスの蔓延、同時にその抑え込みのための外出規制が敷かれた。

その中でも消費者は黙っていることをせず、新たに「オンラインで、自宅にいながら何かをする」という文化が一気に花開いた。

その代表的なものが、ご存知の通り「ライブコマース」なのだが、同時に「ライブフィットネス」など、専門家と個人をライブで結び、自宅で楽しむという娯楽の形が生まれていった。

 

そうした中で徐々に生まれていったものが「クラウドトラベル」である。

 

これは「オンライン上で観光地を楽しみ、行ったつもりになる」というもの。

このキーワードは2020年2月ごろからネット上で使われ始めた。当初はこうした観光地のPRビデオを動画サイトで流すことによって、コロナ終息後の観光を誘致するものであった。

 

そこから徐々に、観光地の専用直播放送を行うといったものも増えてきた。

例えば貴州省の貴安新区では桜園が新型コロナの影響で2020年は閉園となっていたが、当地のメディアの技術を使って、VR360度映像によって、自宅に居ながらにして貴安新区の」桜園を体験できるサービスを展開している。

 

それ以外に、馬蜂窩では「チベットの秘境探検」、「京劇の神髄」、「広東省の隠れたグルメ」など、テーマ性を持った観光ライブイベントを企画、実行し人気となっている様である。

 

こうしたサービスを、いわば「疑似訪日」として活用できないだろうか。

 

「中国からの訪日観光における最大の魅力は爆買いではないか?」という声もあるだろう。

 

もちろん、「見ているだけ」ならあまり旨味は少ない。

しかし、中国消費者はすでに「ライブコマースで物を買う」という事に慣れている。物流の問題さえクリアできれば、こうした「クラウドトラベル」と「ライブコマース」を組み合わせることもできないものかとも感じる。

 

もしろん技術面や人員(言語人員)、また資金などの課題も多いが、新型コロナの前にため息をつくよりも、こうした中国の新たな旅行、消費モデルを参考にしつつ、何かできることを模索するのも必要なのではなかろうか。