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【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(1)China UPDATE~2017年の中国を知ろう~

中国トレンドExpressにて、月に一度開催しているセミナー。

今月11月は「中国ビジネスの裏側に迫る! 14億人市場に秘められたチャンスとリスクを徹底解剖! ~越境EC参入や中国サイバーセキュリティ法の最新情報を大公開~」と題し、ゲストに株式会社クララオンラインの家本賢太郎社長をお迎えしました。司会は当社代表取締役・濱野智成が務め、約90分間のパネルディスカッション形式でお送りしました。

中国経済、ネット社会、EC市場の発展著しい昨今、この巨大市場を見据えて進出する日系企業も多くあります。しかし、中国は怖い、イメージが悪いといった観点から二の足を踏んでいるところも少なくありません。

メディアの記事は、誤訳や、古い中国のイメージから脱却できていないが故の印象操作的な結論が多く、日本語訳されたこれら中国ニュースを読んでいるだけでは中国市場の本質が理解できません。中国の現実と、日本での理解にやや乖離が見えるのはこの辺りが原因ではないかと思われます。

今回のセミナーで、家本社長は、「中国市場に向けて、正しくリスクと可能性の両面を見ていただいたうえで、何をつかむか、切り取るべきかのヒントにしてほしい」と言います。中国で成功する企業、また失敗する企業にはそれぞれどういった特徴があるのか、成功のチャンスとリスクとは何かについて詳しくお話を伺いました。

この記事では、会員の皆様限定にて、本セミナーの内容をお伝えしたいと思います。

登壇者の紹介

株式会社クララオンラインは、家本賢太郎氏が中学卒業後の1997年に創立した、アジアにおけるインターネットサービスのプラットフォーム事業とコンサルティング事業を軸とした会社です。

当初はサーバホスティングを主としていましたが、インフラのみならず、様々な方面から日系企業のクロスボーダービジネスを支援しようと、後にコンサルティング業務が導入されました。この他、スポーツITソリューションや貿易・輸出代行など様々な分野で日系企業を多角的にサポートしています。

2006年に中国へ初めて進出しましたが、実は、1年半ほどで撤退を経験されています。

家本社長はこの経験を活かし、現在は日系企業への中国におけるインターネット・モバイル領域のコンサルティング、事業展開支援やリスクマネジメントを担当しています。「中国でビジネスを始めるなら一度会いに行くべき人」ともいわれています。

中国市場・2017年はどんな年?

10年ひと昔、とは言いますが、今の中国の都市は2、3年離れてしまうともう戻った時にはまったく別の街になっています。そこでまずは、今年の中国を語るうえで外せない、代表的ないくつかの例を以下に挙げていきます。


北京・故宮博物館が紙のチケットを廃止!

先般、北京の故宮博物館が現金で決済する紙のチケット発行を廃止し、すべてをスマートフォン・QRコード決済にしました。こうした電子決済は中国では全土に広がり、現金を持たずに決済できるインフラとして整備されつつあります。普及率は90%を超え、あらゆる層に広がっています。

故宮博物館では、スマートフォンを持たない層やネット決済が利用できない人向けに、総合窓口で紙に印刷したQRコードを入場券代わりにするといった案内を行っていますが、中国の他の企業では、すでに「電子決済ができない人」を全て客としては除外し、ターゲットの絞り込みを行っているところもあります。

恐らく今後も数%の人々はオンライン決済を利用しない、できない層として残ることでしょう。しかしそれらに対するフォローを行わず、ロス率として切り捨て振り切ることで、企業の発展のスピードが速まっている、またインフラとして電子決済の整備が進んでいるとも言えます。

NB-IoT(5Gの規格の一つ)の商用試験が開始。まもなく世界初の5Gが本格展開

現在日本で使われている4G(LTE)の一つ上の規格、5Gがすでに中国では整備されつつあります。この規格の特長としては、4Gでは実現できなかった速度での通信が可能となること、また速度が遅い状態であれば持久性の部分で非常に優れていて、省電力で2~3年は持つ通信設備として有用であることが挙げられます。次回(第2回)に取り上げるシェアサイクルなどIoTの分野において確実に届く耐久性に優れたネットワークが求められている今、5Gバンドはそれらの実現に必要不可欠となっています。

また、既存の4Gバンドの設備を使えるため、新たな設備が必要なく、すぐに運用できる点もメリットとしては非常に大きいです。2017年の今年、商用試験が開始され、後述するシェアサイクルはすでに一部でNB-IoTを搭載しています。

一人カラオケボックス・個室シアターの流行

上海や北京の商業施設では、公衆電話かと見間違うようなボックスが立てられています。これは何かというと、そのボックスの中で歌える「一人カラオケ」専用の個室です。

1曲単位で料金を払って歌うとその自分の動画データを持ち帰ることが可能で、利用者はこれをSNSに投稿しており、昨今の潮流に合わせたカラオケの新しい形態とも言えます。

また、個室シアターとして、今の日本で言うところのカラオケのパーティールームのような部屋を貸し切り、スクリーンで映画を観れる施設が中国各地で急増しています。映画館とはまた違ったプライベートな空間で、家族や仲間内で作品を観られるともあって非常に人気が高まっています。

これらについては、設備投資費用に対する費用対効果、また特に音楽、映画の権利料について曖昧だったりと、ビジネスモデルとしては少し疑問が多いものではあります。特に個室シアターについては、権利の関係から出店の規制も出始めています。

しかし、この二つの例は、こうして先に投資してしまって、マーケットの反応を見てみる、というスピード感を学べる一つの例としては非常に参考になるものではないでしょうか。「トライ&エラー」が許される土壌があると言え、例え失敗したとしても次に生かせるチャンスがあります。

中国の一人カラオケボックス

これらの例から見える成功の秘訣とは?

中国経済を語るうえでのひとつのキーワードともいえる言葉は、今回は「スピード感」です。

第一に、電子決済が普及していることから、これに対応できない客層を企業側から切り捨てる、ということで生まれる一つのビジネスモデルがあります。日本から中国市場へ乗り出す際も、この「電子決済」を念頭に置いていると、この市場のスピード感に対応できるのではないでしょうか。

電子決済の普及により、今後も多様な端末がネットワークに接続し、ネットワークサービスを利用します。それぞれの端末がネットワークに要求する、低遅延、低消費電力であったり、大容量通信が必要だったりといった性能は、5Gの本格展開によって解決されていき、ここにも大きなビジネスチャンスが生まれます。

こうした新しいインフラへの対応は、日本でも2020年の東京オリンピックを目途に求められていくことでしょう。しかし、中国ではすでにこれを当たり前としている、という前提は日本企業としても持っておくべきだと言えます。

第二に、「トライ&エラー」が許されるこの土壌で、まずやってみる、という感覚も必要です。特に娯楽分野では、これから大きく発展するチャンスがあります。

経済成長によって所得が上がりつつある中国は、衣食住について、すでに一定の水準は超えたと言われます。今後増えるとすれば娯楽などの消費ですが、そのバリエーションはまだ日本に比べると少なく、様々な需要が生まれると期待されます。

中国は人口がもともと多いため、ターゲット層を絞り込む際に、日本国内で行う時よりも細かくするべきだと家本社長は言います。ある都市で、男性もしくは女性、さらに所得をこれ以上、と区切っても、そこには日本よりも大きなマーケットが広がっています。さらに言えば、中流階級を狙うよりは高所得者層に振り切ったほうが、サービスの質や内容で企業が独自の味を出すことができ、結果的にそれが刺されば大きな成功になることでしょう。

いずれにしても、これからの中国に仕掛けるということは、中国の現在の情報を常にアップデートしていかなければなりません。速いスピードで日本以上に様々なことが進んでゆく中国では、常に最新情報を取り入れ、それを自分たちがどう活かせるかが重要です。

次回は、IoTを利用したシェアリングエコノミーについて、北京・上海を中心にすでに新たな交通手段として人気の高い「シェアサイクル」を例にとって詳説します。

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【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(2)シェアリングエコノミーから見るNB-IoT