中国トレンドExpress

【越境EC】第1回 ~変わる中国、変わる消費者、変わらぬ“売り方”~株式会社アイディール

小林淳―株式会社アイディール 代表取締役
中澤吉尋―株式会社トレンドExpress取締役 

すでに説明もいらないほど定着した「越境EC」という言葉。以前よりも手軽に中国にモノを売り込む手法として一躍注目を集め、数多くの企業が越境ECによって中国市場への挑戦を続けています。

これまでは「すぐに中国に売り込める夢のチャネル」として多くのメディアでも取り上げられてきましたが、現場をのぞいてみれば「なかなかうまくいかない」といった困惑の声が聞こえてきます。

いったいなぜなのか?

そんな疑問を晴らすべく、中国トレンドExpress編集部では越境ECの現場に携わる「越境ECのプロ」たちに突撃取材を敢行。現場から見た越境ECの実態、そしてそこで売るための心構えについて話を聞きました。

第1回は「無名の商品でも売れるしくみ」を作り上げることで日本企業のブランディングとセールスをしている株式会社アイディール・代表取締役社長の小林淳氏、そして中国SNSビッグデータ解析とそれをベースにした対中プロモーションを提供する株式会社トレンドExpress取締役・中澤吉尋氏に徹底討論をお願いしました。

 

「越境EC」の過去、そして現在

早速ですが、近年日本でも定着し始めた「越境EC」。早い段階から現場に立たれている御社から見た率直な感想をうかがえますか?

小林淳(以下、小林):ようやく皆さん、中国を真剣に考え始めてくれたな、といった印象です。これまでも「中国がこれから来る!」と言われつつ、国民感情的な部分でどうしても折り合いがつかない、中国とはあまり関わりたくない、といった感覚が日本企業に多くあったと思います。

これまで一度でも中国企業と何らかの形で関わった事のある日本企業は少なくないと思いますが、その事業が上手くいかなかった際に「騙された」と思っているという話もよく聞きます。このような話が中国進出の際に多い印象が、日本企業が中国市場を避けていた一因になっていたように思います。

僕たちが中国と日本を行き来して感じる実感としては、そういったケースでも中国の人たちは最初から「騙そう」と思ってやっていない事が多そうな気がしています。その場では「出来る」と答えたことが、いざ実際の場では出来なかった。それで手を引いてしまう、といったことが結果的に「出来ると言ったのにやらずに逃げた。騙された」という印象を与えてしまうのかな、と思います。

中澤吉尋(以下、中澤):中国側には日本企業に対して「やってあげたい」というホスピタリティがあるゆえに、その場で喜ばせようと無茶な約束をしてしまう、といった印象ですね(苦笑)。

小林:そうですね。言語の壁でニュアンスも伝わりづらいですし。しかし、ここ最近はやっと真剣に日本企業が「中国へ進出するには」と具体的に考えるようになった、という印象が強いです。

日本の商品越境ECというツールが日本企業の目を再び中国市場へと向けさせたということでしょうか。

小林:それはあると思います。当社が事業を開始した2013年当時はまだまだ黎明期で、マーケットとしては小さかったうえに話題性も低かったのです。アリババなどの有名企業も、確か当時で年商5,000億円程度だったと思いますので、今ほど売り上げも大きくはありませんでした。この2~3年で一気に跳ね上がったので、非常に大きな市場という印象がありますが、開拓されてからはまだ数年の新しいマーケットなんです。

そんな早期からこのビジネスに参画していた御社。やはりその市場の規模を見越した先見の明だったのでしょうか?

小林:商品のカテゴリ、という話から始まってしまいますが、実は僕たちは、2013年時点では日本のサブカルチャーを中国へ売ろうとしていたんです。アニメのグッズやフィギュアを淘宝(タオバオ)で売ろうとして、微博(ウェイボー)にフォロワーを募り、アニメファンへ向けて販売…といったことを考えていました。しかし中国のアニメファンが欲する商品がわからない。あの世界は難しいんですよね(苦笑)。

そこで当時社会問題化しつつあったPM2.5への対策として出ていたマスクを販売してみたところ、これが売れました。そこで卸のサイトと提携して化粧品を売ってみたら、これもまた売れた。そんな折に、「日本から商品を送っているのなら、うちに卸してくれないか」と中国のバイヤーから声をかけられるようになったのです。売れたメーカーの商品を、リピーター目当てで卸した方がやはり売れます。そこで、日本のメーカーの商品をどうやったら中国で売れるようになるか? といった点を考えるようになりました。そうして越境ECでは化粧品や日用品にどんどんフォーカスが当たっていった、という次第です。

 

アイディール株式会社の小林代表取締役から見ても「中国は劇的な変化が続いている」

そうだったんですね。しかしその越境ECもこの2~3年で急成長。現場から見てもその変化はやはり大きかったと感じられますか?

小林:大きな変化は感じますが、それは越境ECに限ったことではないと思います。2~3年どころかここ10年間、中国は劇的な変化をし続けています。北京五輪、上海万博当時に大きく動き出しましたが、そこからEC市場だけではなく、中国全体として変化し続けています。消費に関しても、おしゃれや化粧品など、購入される商品に幅が出てきました。今もどんどん変わり続けている社会であると思います。

中澤:確かに口コミからも変化のスピードが見えますね。例えば2015年のインバウンドで「爆買い」という言葉が出た頃は、温水便座や炊飯器などの家電がすごくたくさん売れていましたが、それが翌2016年にはもう家電の話題は見なくなって、今度は日用品や化粧品など、消耗品が売れるようになりました。

さらにいわゆる「ソーシャルバイヤー」がインバウンドで来日して大量に買い込んでいたものが、越境ECで買われるように変化していった。この流れで、もしかしたら一般貿易のハードルも下がって、より盛り上がるようになるかもしれません。

小林:そうですね。日本のメディアではあまり報じられていませんでしたが、実は2015年の爆買いは、ソーシャルバイヤーの仕入れが含まれていて、日本で大量に購入したものを中国で売っていたんですね。それが2016年4月8日の税制改正によって、個人のバイヤーでは大量の商品を中国に持ち込みが出来なくなりました。そこから「だったら越境ECで」といった動きが急速に展開していったのでは、と思います。

今は炊飯器を2個、3個と持って空港を歩く人、ほとんど見かけなくなりましたね(笑)

日本側も変化の兆しが…。

相変わらずの猛スピードで変化を続ける中国のなかで、越境ECもまた盛り上がり、変化を続けています。一方で、日本企業からのお問い合わせという点ではいかがでしょうか? 市場に合わせた変化は?

小林:2012年、13年時点では「中国で売りたい」という問い合わせは全くありませんでした。それが今はぽつぽつとではありますが、問い合わせが出始めてきたというところでしょうか。

自分たちが関わってきた中で成功事例もたくさん出ましたし、トレンドExpressさんとの関わりで、現時点で最強、ともいえる成功モデルが出来上がった。これに対して、「話を聞いてみたい」というメーカーが増えているといった印象です。話をさせていただく機会は圧倒的に多くなってきました。

中澤:僕たちのほうでは、以前はよくあった「微博(ウェイボー)、微信(WeChat)をやった方が良いですか?」という問い合わせが減ってきました。その代わり、「やってるんだけど、うまくいかない」という企業が増えてきたように思います。

SNSはとても大事なのですが、戦略がない段階でやっても、結果としては反映されません。「微博や微信を作ったら売れる」というわけではなく、ブランディングをしっかりして、購入場所を作る、コンバージョンを設定しておくことの方が重要だ、といった話はしますね。SNSはあくまでも手段であることを伝えています。

小林:手段。そうですよね。ちなみにトレンドExpressさんのセミナーでは、参加企業など変化はありましたか?

中澤:初期のころは、越境ECについてもっと入り口の部分、初歩的な内容を教えてくれといった要望が多かったです。越境ECとは何か? 誰が使っているのか? というような内容ですね。それが最近では、より具体的な事例を求められるようになりました。クライアント企業に登壇していただき、生々しい事例の詳細まで話したら満足度が高かったり。事例を自社の話に置き換えるフェーズに来ていて、越境ECへの理解という部分では、全体的な底上げが出来てきたのかな、と思います。

 

「越境ECの知識は広がってきた。あとは世界と戦えるか」と語るトレンドExpress・中澤取締役

日本企業が戦略的なものを具体的に捉え始めた、ということでしょうか?

小林:そうだと思います。ただ、まだ越境ECでうまくいった会社が少ないのかなと思います。失敗しているからこそ、成功した事例を聞きたいと。だからこそ、我々のような支援企業がお手伝いできる余地が大きいのかな、と思います。

試行錯誤と成功事例

戦略的に越境ECを考え始めた日本企業。試行錯誤の中での成功事例も生まれ始めています。アイディールさんではそんな成功事例として「アデランス」をHP上で挙げていますが、その成功の秘訣などはありますか?

小林:日本国内の展開では、どの企業も市場開拓から始めて、積み上げていった過去があるとおもいます。ところが、中国はそもそも市場規模が大きいというイメージがあるからか、「商品を持っていけば売れる」という安易な考えになってしまいがちです。

アデランスさんは、実は中国での知名度はほぼ0に近かったので、まずは中国で「知ってもらう」から始めました。認知を上げる・商品の良さを伝える・売り場を広げていく……といった、モノを売るためには当たり前で愚直なことをやっていきました。

商品が良い、というのは前提条件であって、当たり前。それをどう売るか? というところだと思います。それを、中国だからと言って一足飛びにせずに、段階を追っていくと。

結果的にそれが成功につながったと思います。

中澤:かなりのトライ&エラーがあったんじゃないですか?

小林:はい、失敗事例も多くあります。

例えばライブコマースについてですが、一直播という生配信アプリから京東(JD)の旗艦店にアクセスさせようという企画がありました。ところが、いざ配信を始めたらアプリから別のアプリへ移行する、という部分が難点でした。結果的に生配信では100万回近い視聴回数があったにもかかわらず、その放送中に京東(JD)アプリを立ち上げて旗艦店ページへ飛んだ視聴者は十人にも及びませんでした。誘導実績としては大失敗の例ですね。

もちろん映像を通してアデランスさんの事や商品の魅力を伝えられたという意味ではPRとしてうまくいったと思いますが、でもそれが売上につながったか? 配信から購入に誘導できたか? そういった点では、アプリをまたがせるというのはとても難しいんだな、ということがわかったのは収穫でした。

中澤:なるほど。それにしても、中国での知名度という部分で思うのは、「中国でまずは知ってもらわないといけない」ということを企業側がどれだけ理解しているか、ですね。日本人には有名だけど、中国のお客さんは全く知らない、という事実。中国は特に、知らない商品は絶対に買わない。まずはブランディングや、中国市場での認知を獲得する、知ってもらうということがどれほど重要か、という話はクライアントにしますね。そこで「あぁ、そっか。じゃあどうすれば認知獲得できるかな?」って、一緒に歩んでいける企業は、割と成功するなと思いますね。

小林:そうですよね。実際「中国で一番売れている牛乳のメーカーってご存知ですか?」って訊いたときに、わかる日本人がどれほどいるのか。それと同じように、日本のメーカーは中国で知られていない、という認識は大事だと思います。

いくら日本のこのランキングで売上1位だった、といっても、中国人は知らないかもしれない。そうすると市場に対してのコミュニケーションの設計も変わってきます。

中澤:我々も、日本では大手でみんな知っているような企業について、口コミを分析すると全然話題になっていないということはあります。

日本では1位でも、中国に進出した瞬間、競合は世界中になるんですよ。全然知らなかった世界の大企業が競合として急にぶつかってくる。その力量差たるや圧倒的ですね。

じゃあ次どうするの、というところで、口コミを増やしたりブランディングを始める。日本での大手だという認識より二歩三歩さがって、戦略を刻んで立てていかないといけないと思います。

小林:中国語のWEBサイトすら持っていない、という日本のメーカー企業さんも多くありますよね。PRやプレゼンテーションを一生懸命やって、せっかく興味を持ってもらったのに、いざ検索した時に中国語での情報がひとつもない、ということが与える印象がどれほど危険か。本来ならそういった下準備から始めないといけませんね。

ありがとうございます。

次回の記事では、日本企業の中国進出における「成功するパターン」や「失敗するパターン」について、具体的なお話を伺っていけたらと思います。

 

▼つづきは

【越境EC最前線!】第2回 ~ワールドカップで勝てる商品ですか?~株式会社アイディール