【越境EC】第2回 ~ワールドカップで勝てる商品ですか?~株式会社アイディール
小林淳―株式会社アイディール 代表取締役
中澤吉尋―株式会社トレンドExpress取締役
越境EC市場の現場で活躍する方々にお話を聞いていくこのコーナー。前回に引き続き、株式会社アイディール・代表取締役社長の小林淳氏および株式会社トレンドExpress取締役・中澤吉尋氏に越境ECについて対談形式にてお話を伺っていきます。
知名度向上、KOLだというけれど…。
ー前回お話が出た中国での知名度向上。近年は微博や微信などの中国SNSが注目されており、さらにKOL(パワーブロガー)を使ったプロモーションも注目されています。しかし最近は「KOLの施策をしなければ」という感覚がひとり歩きしている印象があります。知名度向上の重要性を分かっておきながら、中国の事情について切り取った情報だけしか知らない、というのも怖いところではありますね。
小林:本来、モノを売るということは、一気通貫したストーリーのようなものが必要だと思うんです。KOL動画やWEBサイトを作ったから売れるというわけでもなくて。『別のところで広告を見て、検索したら中国語のWEBサイトで情報があって、安心して購入する』といった設計や構造が必要で。「〇〇さえすれば売れる」とはなかなかいかないです。
中澤:結局、何か一つやれば良い、ではなくて、すべての施策をひとつずつ噛み合わせていくことでストーリーを構成していかないと、「知ってもらう」から「買ってもらう」へのゴールにはたどり着けないですよね。
小林:日本のメーカー企業さんの失敗事例の1つとして、たまたま有名な女優などが使っていて「これいいよ」と何かのメディアで発言したせいで一気に売上が上がったケースの場合、それは自分たちが能動的に仕掛けたブランディングではないから、その効果が薄れたときに、「次に何をすれば良いのかわからない」と。中国はそのラッキーパンチの1発が大きすぎる市場でもあるので、勘違いしてしまう、というのがあります。
中澤:「ああいうこと仕込めないの?」とか、「KOL使えば売れるんでしょ」ってなりがちですよね。でもそういうラッキーパンチで売上が上がった場合、いろんな人が買いに来るから、淘宝でもいろんな店で出品されて、価格競争が自然に起こるんです。そうすると値崩れしてしまって、LTVも減少していくというか、先細りになってしまう。
小林:そうですね。結局イメージだけが先行してしまって、実際に企業側が伝えたい商品の良さや、メッセージといったものが消費者に伝わっていないんです。積み上げたものがないから、後で同じような効果を狙ってもその再現はできません。
中澤:再現性ですよね。中国で難しいのは、話題がすぐに移ろってしまうことなんですよ。使っているツールとか、SNSとか、ハードが変わってしまう。でも再現性の高い売り方が出来れば、すべてが同じとはいかなくても、同様のブランディングによって、フォームが変わっても売り上げを伸ばすことは可能です。
小林:そうですね。この辺が一番、僕と中澤さんで意見が一致するポイントです(笑)。
ーそうした中国でのブランディングに触れる企業も少なくないと思います。その中で日本側の意識は変わってきてはいますか?
小林:意識の変わってきたメーカー、企業が増えてきている、といった印象です。
中澤:中国で成功している欧米や韓国の企業は、ブランディングが上手いですよね。
ブランディングに価値を置いて、個々の商品のSKUやLTVをどうやって上げていくか? というマネジメントをしているので、ブランド力が揺るがない。
対して日本はSKUベースで、売れている商品を基にブランドを作っていく、と逆行しています。そうすると、企業の考え方としては数字に表れないブランドイメージに投資するよりは、現在の在庫との採算など、目先の利益を見てしまいますね。
小林:「企業価値が高い会社」というのは、昔は現金や不動産、在庫数といった資産で測っていました(ジム・ステンゲル著「GROW」参照)。それが最近は、ブランドを持っているか? が企業価値に大きく影響するようになりました。例えばコカ・コーラと聞いてみんなが抱くようなイメージですね、そういった企業のブランド理念から生まれたものに対して消費者が価値を見出していく時代になりました。世界的な流れとして、ブランディングが非常に重要になってきたのです。
日本は「メイドインジャパン」だけでブランドになると考えがちですが、中国市場は世界中からメーカーが集まってワールドカップが行われているような状況です。世界各国が上手なブランディングで「日本製以上の価値がある」と中国人消費者に思わせてしまったら、日本製品は売れなくなってしまうわけです。
ー今まで国内を向いていた日本企業としては、なかなかそこまでの規模感は感じられないですね。中国市場や世界の規模感を理解するためにはどうしたらよいでしょうか?
小林:時価総額の高い中国企業の事や市場の情報というのは、日本にいると意外と得る機会が少ないですね。でも今は中国語の記事を日本語に翻訳したニュースサイトなども増えてきましたし、情報を仕入れることにお金と時間をかけることが必要ではないかと思います。メディアを読んだり、現地へ足を運んだりして、体感として中国を感じないといけないと思います。
中澤:情報をいかに仕入れるか、は企業の生命線でもありますよね。情報を取り入れることに積極的な企業はやはり成功しやすいなと思います。
データが変える中国マーケティング
ーその情報およびブランディングで注目されているのが「口コミ」。ビッグデータを含め、こうした口コミの活用がしきれていない企業もあると思いますが。
中澤:トレンドExpressでは、口コミは戦略策定・コンテンツ制作・効果測定に反映されています。
分析としては「誰が」「どこで」「どう言っているのか」。そうするとターゲット層や捉えられているUSPがわかります。意外と、同じ商品でも日本と中国の消費者に伝わっているUSPが異なることもあって。そこから中国市場では競合他社と比べてどんな立ち位置にいるかがわかり、それを戦略策定に使います。
コンテンツも、口コミからインサイトを発掘してそれに沿ったPRをします。効果測定としては、一連の施策が終わった後に、ユーザーからどのような支持が得られたか、評価されたか、といった指標になります。それに加えて、「世の中にどれくらいインパクトを与えたか?」がわかるのも非常に重要な点ですね。
小林:中国では、日本人が思っている以上に口コミ情報を重視しますからね。口コミが良くなることで、より良い企業イメージが伝播していきますね。
逆に言えば、口コミの中から、「何がその企業に求められているか?」がわかるので、それを利用して新しい戦略が立てられたりもしますよ。
中澤:そうです。一言に口コミと言っても、「商品情報」「購入に関する情報」「ユーザーの使用感想」と様々です。真の口コミと言えるのは「使用感想」で、これが多いということは商品の評価が高いということになりますね。口コミ数が少なくても、そのほとんどが使用感想であれば、その商品は知る人ぞ知る良い商品だ、と言える。そこからプロモーションを考えていくことも出来るわけです。
小林:そういったメソッドが確立されてきたのは大きいですよね。以前は市場の情報が少なくて、PRの方法やKOLの選定にしても予想に頼ることが多かった。それが口コミを分析することによって確固たるものになって、プロモーションも進化していくんだなぁと思います。
中澤:中国ではマスメディアを有効に使うというのは難しいですからね。チャンネルが多すぎるから、テレビCMを打っても広告効果はあまりなくて。費用も莫大になりますし。それに代わるものがSNSだったのかなという気はします。
ー日本企業が好むマスメディアによるマーケティングの有効活用が難しい中国。こではこのSNSマーケティングは日本企業に合っているといえそうでしょうか?
小林:そうですね。日本の企業は、SNSでのPRを「ステルスマーケティング」ではないか、と忌避することが多いですが、そもそも中国では情報をコントロールしないとスタートラインにすら立てないことがあります。不当な低評価がSNSで拡散されていて売上が全然伸びなかった、などという危険を回避するためには、最初にSNSに出す情報だけでも自分たちでコントロールした方が、自社がお客様に届けたい情報が確実に伝わります。
日本と中国は違う、という認識を大前提において、中国での戦い方を知っている人と一緒にやっていくのが良いのではないかとは思いますね。
中澤:中国に対して興味を持つ企業が増えてきたことは本当に嬉しいですよね。もっと我々のような会社にいろいろ聞いてほしいです。
今後、中国経済が日本に入ってくる、というのはもう止められない流れだと思うんです。だからこそ中国を良く知って欲しい。一気呵成にではなくて、一歩一歩進んでいきましょう、と。
小林:よく知っていくうちに危機感も持つんですけどね。IoTの分野や、いろんなところで日本より進んでいるので……。
中澤:でも焦る必要はありますが、悲観的になる必要はないですよね。日本にしかない強みや素晴らしさというものはありますし、中国市場はそれを求めてもいます。
小林:コンテンツisキングという考え方ですね。最終的には、日本企業はモノづくりに集中して良いものを生み出すことが一番だと思います。そのブランディングや売り方はプロに任せていただいて。まずは良いものがある、ということが一番大事です。売るためのプラットフォームは移り変わっていきますが、その移った先でも「モノ」があれば、それを売ればいいだけの話で。
ー確かに日本にあって中国にない強みを、上手なブランディングで売り出すことができれば、勝てる見込みはまだまだあるように思います。
中澤:もちろんそう思います。日本のクオリティの高さは、日本企業全体が持っている資産だと思います。でもその資産は使い方次第であり、持っているだけでは仕方がない。戦略を立てて、資産を最大化していくことを前提にしていくことが大事かなと。
小林:最近では日本よりも中国のほうが、ブランドを大事にしていると感じています。「日本製品は高い」からこそ、完璧を求めている消費者心理があると思います。例えば不良品率が高い、などで信頼を失うと、なかなか取り戻せない。
中澤:ブランディングで最も重要なことは品質を上げること、だと思います。どんなPRも、品質が悪ければマイナスにしかならないですし、その評価はすぐに拡散されてしまいますから。日本人ではなく、中国人が求める高品質であること、です。多機能性よりも、必要最低限の機能で低価格、壊れにくいこと、など求められる品質は日本とは違います。
ー中国人消費者のインサイトを情報として獲得しておく、ということが重要なのですね。
世界で売れていく仕組みづくりを
ー最後に、拡大している越境ECの現場にいる者として、今後の目標や見通しを聞かせてください。
小林:僕たちが実現したいことは、日本のメーカー企業さんがじわじわと、でも確実に右肩上がりで売上を伸ばしていく構造を作りたい、ということなんです。特に、自分たちだけでは海外進出が難しい、と思っている中小企業を中心に、僕らのノウハウを使ってほしいと思います。
内需が縮小し続ける日本、モノを売るためには世界に行くしかないんです。そのお手伝いができればと思います。
中澤:「売りたいものが、売れる」という仕組みを作りたいですね。売れてるものしか売れない、ではなく、日本企業が良いと思っているものを買ってもらえるように。中国市場もそれを求めていると思うんです。
小林:その通りです。淘宝などでも、売れているとたくさんの店舗から同じ商品ばかりが出品されている。運営側もそれは望んでいないんです。商品にもっとバリエーションが欲しい。
中澤:そこの市場を開放するというか、広げていける仕組みを、作り上げていきたいですね。株式会社アイディールさんと一緒に模索しながら、いろいろと試したいなと。
小林:はい、よろしくお願いいたします。
ー本日はありがとうございました。