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【中国コンテンツBiz】 中国では得られない「友情」・「努力」・「勝利」を求めて 女子たちも燃やす、熱いジャンプLove!

4月16日、中国のユニクロで発売された週刊少年ジャンプとのコラボTシャツ。その発売当日にネット、実店舗双方で起こった賑わいは、前回お伝えした通り。近年日本でも注目されている中国の日本アニメ人気ですが、今回はその熱意の秘密を探ってみましょう。


そもそも80年代から2000年まで、中国では日本のアニメが普通にテレビ放送されており、中国消費者の日本アニメ人気は今に始まったことではなく、すでに30年近くに渡って続いているものです。

しかし、様々な事情から、2000年以降、表向きは日本のアニメ作品が公的にテレビ放送されたり映画館で上映されたりすることができず、またマンガ雑誌・単行本の発行なども難しい状況が続いていました。そのため、日本では「中国の規制」がクローズアップされ、中国に日本アニメファンの状況が見えづらく、さも近年「いきなり人気が爆発した」といった誤解も一部で存在しています。

中国の日本アニメ人気の背景を知る前に、まずは中国における日本アニメ普及の様子をおさらいしましょう。

中国「日本アニメの放映史」

中国での日本アニメ人気の最初となったのは『鉄腕アトム』でしたが、その後『一休さん』や『花の子ルンルン』など、日本でも人気になったアニメが中国にもたらされます。

そして1990年代。テレビ普及率の上昇と共に『聖闘士星矢』、『北斗の拳』、『ドラゴンボール』、『SLAM DUNK』などのジャンプ作品を筆頭に、『ドラえもん』、『美少女戦士セーラームーン』、『ロードス島戦記』、『名探偵コナン』、『EVANGELION』などなど、数え切れない日本の作品が放送されました。

当時の日本も、まさにマンガ、アニメの絶頂期。優秀な作品が数多く生み出され、それが中国へともたらされたのです。

ただ、注意が必要なのが、週刊マンガ雑誌の無い中国の消費者の場合、「ジャンプ」が先にあって「その作品」を知るのではなく、「アニメを通じて、日本の週刊少年ジャンプを知った」といった流れであることです。いわばキャラクターが先にあり、掲載誌はその後だったのです。

いずれにせよ、1990年から2000年(注1)までの中国は「日本アニメ黄金時代」と言っても過言ではないでしょう。

ちなみにその時期、いわゆる「80後」は10~19歳で、まさにテレビの前で心を熱くしていた世代。そして「90後」は0~9歳となっています。

アニメ→原作。「版権」の問題もあるものの…

アニメがきっかけになって「原作を読みたい」、そして「ほかの漫画も読んでみたい」となった中国の消費者。彼等はまず、こうした作品の「台湾版」や「香港版」の単行本を読み始めました。

当時はこうした書籍を購入できる人も少なかったことから、誰か1人が1冊購入すると、中学校や高校のクラスみんなで一緒に読む、回し読みをするなどして、作品について盛り上がるようになりました。

やがて、単行本も待ちきれなくなり、毎週刊行される『週刊少年ジャンプ』を追いかけるようになったのです。

時はまさに中国インターネットの急速拡大期。ネット上にはアニメや漫画関連のbbsが多数出現。さらに日本留学者の増加で、在住者が週刊ジャンプを購入し、スキャンし、そのデータを国内へ送り、中国国内で日本語専攻の学生が漫画を翻訳。さらに美術専攻の学生がスキャンした画像を綺麗にして文字を加工し、ネットを通じて配布する、といった行為が増えました。

しかも、それらは全部無料。この当時、こうした行為を行う若者の目的は「より多くの人に自分たちが好きな作品を読んでもらいたい」ためだったと、当事者は語ります。

これは「版権」という点からいえばもちろんNGです。その動機が純粋なものであったとしても、行き過ぎた行動といえるでしょう。ただ、それによって中国には数多くの「日本アニメファン」、「ジャンプ作品ファン」が育っていったという点も否めません。

なかなか評価が難しいところです。

近くて遠い、「熱血、友情、夢」の学校生活

さて、数ある漫画の中でも、今回の一件に見られるように、ジャンプ作品の人気は群を抜いています。中国の消費者はジャンプの何に刺さるのでしょうか?そこには、中国の青少年をとりまくある社会環境が見えてきます。

1981年から1997年まで中国毎年の出生人口は2千万人以上、時代も単純労働から学歴社会へ変化する時期でした。

この時期に生まれた世代、「80後」、「90後」は非常に厳しい競争社内の中で育ってきたのでした。

さらに、この世代は一人子のため(一人子政策:1979年~)、両親のみならず、その双方の祖父母の期待を一身に背負って競争に臨んでいたのです。

こうした社会、青少年に求められるのは「友情」や「夢」といったものではなく、「勉強第一」でした。よりいい成績を取って、有名大学に入って、大手企業に就職するというのは、ほぼ「共通」の目標だったのです。

そのため学校教育も、小学校の頃から「高考(中国の大学受験)」をまず第一目標にカリキュラムが組まれます。

本来必要とされる体育の授業時間さえ、学生の成績アップのため英語教師と数学教師が奪い合い、学生たちは、本来は好きな「スポーツ」や「趣味」に情熱をかけるのは「時間の無駄」だと言われてきたのです(オリンピックためのスポーツ特待生以外)。

それに比して、日本の漫画、アニメの中に登場する学校生活は?仲間やライバルと戦い認め合う友情、スポーツや趣味に打ち込む青春、恋愛など。日本では多くが経験したことのある学校生活ですが、中国の学生から見れば全く異なる日常に映りました。

部活に励んだ主人公たちが、全国大会で負けて泣きながら、それを「青春」と喜ぶ…。

これを読んで、多くの中国の学生たちは「バカバカしい!」と言いながら、どこか、「一回体験してみたい」という思いを胸の中に感じていたようです。

ジャンプのモットーである「友情」・「努力」・「勝利」は、それとは遠い環境にいた彼らに、日本のファン以上の深い思いを残したのです。

中国では多数の「ジャンプ女子」 理由は男女平等?

さて、前回ユニクロのコラボTシャツ販売に関する記事の中でも紹介したある書き込み。

「なんでレディースがないの?」

今回のコラボTシャツは、日本のユニクロサイトでもMEN、KIDSと表示されており、レディースがありません。それが中国消費者には「残念」に思えるという内容の書き込みを見ることができました。

実は中国のジャンプファンには女性も非常に多いのです。その背景にあるのは「男女平等」という意識。女性も男性と同じように社会で活躍する!という考え方が特に大都市には広く広がっています。

中国大都市の家庭では、夫婦共働きが一般的。その背景には子供の頃から受けてきた「男女平等」という教育があります。

子供に将来の夢について質問すると、女の子からは日本のような「ケーキ屋さん」とか「お花屋さんをやりたい」という回答はあまり聞こえてきません。むしろ「自分も社会に出てガンガン働きたい」という希望のほうが多いでしょう。

そのため、例えばバトル系の漫画を読んでも、中国の女性は「守られるヒロイン」よりも、「強大な敵と戦う主人公」に対する共感や、「戦いたい」、「自分もこういう能力を使いたい」という思いが強いようです。

その点、「強くて熱い男性」を大量生産している『少年ジャンプ』は、また別の角度で中国の女性ファンの心を捉えたのです。

ちなみに、中国のユニクロ商品ページを確認すると、元々男性と書いているところに「男女兼用」と表示されるようになりました。

さて、中国のファンを熱狂させたユニクロのジャンプコラボTシャツ、日本では6月11日(月曜日)に第二弾が発売され、中国では一週間後の6月18日に「指定店舗(注2)」で販売される予定です。また6月22日にはユニクロのオンライン旗艦店で第二弾と、売り切れになった第一弾の人気Tシャツも追加入荷、販売する予定です。

 

第二弾発売のニュースに、ネット上では

「今回こそ奪い取るぞ!」

「指定店舗は少なさすぎ!ネット販売秒殺で全然買えない!!」

「アラームをセットして、買う買う買うぞ」

「コラボ紙袋がまたでますかね?」

「今回もコラボ紙袋を貰えるよね?」

などなど、中国消費者のジャンプ熱が下がる気配は一向に見当たりません。

ユニクロ·UTと「週刊少年ジャンプ」50周年の記念コラボはまだまだ続く予定ですが、その情報もすでに中国ではネット上でGetされており、中国の消費者は7月末発売予定のTシャツに向けて期待に胸を膨らませているようです。

 

※1.2000年中国の広電総局は海外からの輸入アニメに対して厳しい審査を義務化する政策を定め、またゴールデンタイムの放映も禁止した。
※2.北京6店舗、上海9店舗、広州4店舗、深圳5店舗、蘇州2店舗、南京1店舗。