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【ダブルイレブン】 W11(独身の日)化粧品部門3年連続売り上げNo1 の中国ブランドPR戦略とは

8月も間もなく終わり。学生であれば「新学期」への準備が必要ですが、中国市場を目指すメーカーにとっては、勝負の日「W11(ダブルイレブン 中国名:双十一)」への準備を本格的に開始する時期でもあります。

そのW11、主戦場となっているのはもちろん「T-Mall(天猫)」であり、中でも化粧品市場は日本ブランドも数多く進出している激戦区として知られています。その「W11 T-Mall化粧品」セグメントで、2015年~2017年、3年連続でトップに輝いた企業があることをご存知でしょうか?

2017年のW11では、T-Mallにおいて1日で「2.94億元(約47億円)」を売り上げ、同モール内における化粧品1位となりました。

同ブランドのメーカーは上海百雀羚日用化学有限公司。1931年に上海で誕生した、80年以上の歴史を持つ老舗ブランドです。

もともとは上海富貝康有限公司がドイツの技術を導入し、中国では最初期の「スキンケア商品」を生産販売したことに始まります。当時は中国国内だけではなく、東南アジアへも輸出され、中国内外の貴婦人のステイタスとなっていました。

現在は20代~30代をターゲットに、漢方の基礎理念となっている「草本」と呼ばれている天然素材を使用したスキンケア・コスメを販売。女優のリー・ビンビン(李冰冰)や歌手のジェイ・チョウ(周傑倫)をイメージキャラクターに起用するなどで話題を呼んでいます。

そんな同社、2017年には夏を中心に多くのプロモーションを展開。話題となり、売り上げに大きく寄与したと言われています。

その同社が2017年に行ったプロモーションを見ていきましょう。


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現在中国女性の悩み・葛藤を描いた動画が共感を呼ぶ

2017年夏に同社が打ち出した動画広告『韓梅梅快跑(走れ!韓梅梅)』は、WeChatのモーメンツで広く転載され、メディアからも「神広告」と称賛されました。

広告はなんと6分間を超える動画。

ある金無し、男運悪しの女性「韓梅梅(20代前半)」が、性格の悪い上司に怒鳴られたことから「この世界から飛び出す」ために走り出し、過去へと戻っていくというストーリー。

彼女は街を駆け、まずは職場の「虚栄心の塊の女性」を一喝、地下鉄の駅では慣れないハイヒールでの靴ずれの痛みに耐える女性(過去の自分)のハイヒールをゴミ箱に。

さらに走って学生時代の「ろくでもない元カレ」をひっぱたき、さらに男のために映画チケットを買ってお化粧する自分を一喝。続いて「かわい子ぶっていながら、心根の曲がった女友達(中国語では「緑茶婊」)に厳しい忠告をする。

やがて彼女は小学生時代まで戻り、出会ったばかりの「元カレ」にデコピン一発。

そうして駆けていくうちに思い出す、いろんな人から聞かされた「女の幸せ」、「あるべき姿」。

しかし、最後に出会うのは虫眼鏡で楽しそうに遊ぶ幼いころの自分。彼女は「ずっと探していたのは最初の自分」、「ありのままの自分」であることに気づきます。

そして最後のキャッチコピー「あなたの半生をともに。そこに戻れば、だれもが少女」が現れ、この長いCMは終了します。

中国の企業CMは自社の名前や商品をひたすら押し出すものが多く、このような「訴求性」、「ドラマ性」を持った動画が少なかったこともあり、この動画のクリエイティブに称賛の声が上がりました。

 

多くの既成概念に囲まれ、それに合わせることを求められる。他人の目を気にして自分を変えていく。

中国の現代女性の多くが感じてきたこのプレッシャーやジレンマに対して、「自分である」ことの大切さを訴えかけたことで、社会に出て活躍しているホワイトカラーの共感を呼び、社名・ブランド名は最後の瞬間まで現れないものの、同社の人気を高めました。

「オールド上海」で伝統を若者に訴求

また80年という長い歴史を有する同社。こうした歴史はメリットであるものの、打ち出し方によっては「古臭さ」を感じさせてしまうものですが、前述のように若者層をターゲットにしており、他の老舗と違ってその歴史的背景を訴求できないでいました。

しかし、同社は2017年、オールド上海をテーマにしたスキンケア商品のパッケージを投入しました。

もともと1930年代の上海は東洋の魔都と呼ばれ、伝統と新しいスタイルが混在する、アジアの国際都市でした。

そうした企業背景を、現代の中国人女性に合わせてデザインすることで新しいイメージの確立を図ったのです。

特に中国の化粧品メーカーの多くはスタイリッシュなイメージで打ち出していますが、同社の「オールド路線」は、若者間での文化見直しやアイドル時代劇、さらに「後宮劇(大奥ものドラマ)」人気なども相まって、多くの消費者に支持され、受け入れられました。

ついには「二次元戦略」も! 新進消費者層を取り込む

こうして、女性の悩みや自社の歴史を活用したプロモーション、商品開発を行ってきた同社ですが、新しい消費者層へのアプローチも忘れてはいませんでした。そしてその施策が、いわば「2017年W11」へのとどめの一撃となったのです。

同社が目を付けたのは「ボカロ」。すなわちヤマハが開発したボーカロイドです。

日本の「初音ミク」が有名ですが、中国にも同システムを利用したボーカロイドアイドルが存在しています。「洛天衣」がそれです。

2017年W11を前にして、同社はその洛天衣とコラボレーション。キャラクターがプリントされたフェイスマスクを発表し、「2017年10月20日、T-Mallで予約開始」とのPRを各WEBメディアを活用して発信。多くの「90後世代」の注目を集めました。

夏から10月初旬にかけて、幅広い女性層に、そのニーズに合ったプロモーションを展開してきた「百雀羚」。その戦略的なプロモーションを見ると、W11 T-Mall化粧品部門の3連覇も納得できるかもしれません。