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【越境EC】 上海で聞いてきました! 電子商務法と中国消費者の微妙な関係~前編~

年明け以降、日本のメディアでもクローズアップされた中国の「電子法務法」。その法律によって、春節シーズンには日本のメーカーや小売業も一定の影響を受けている様子。またその様子をメディア各社も報道しました。

しかし、施行はされたものの「何か今一つ見えない」感の強いこの法律。そこで、実際にそうしたソーシャルバイヤーから日本の商品を買っている中国の消費者側から何か見えないかと、現地取材を敢行。消費者の側から見た電子商務法施行後の市場と、ソーシャルバイヤーへの意識などを聞いてきました。

実体験、空港での荷物チェックはちょっとドキドキ

2月末。毎年のように北からの寒気団が流れ込み、真冬に逆戻りするこの時期の上海。着陸した飛行機の窓から見た浦東空港は、冷たい雨に濡れていました。

入国審査を終え、預けていた荷物をピックアップすると、突然緊張感が高まります。

見れば空港の外に出るための税関には、なんと長蛇の列が(写真撮影禁止であったので撮影できず。残念)。全員の荷物のX線チェックが義務付けられたことによる、検査待ちの列なのです。

 

実は筆者のスーツケースの中には取材に協力いただいた中国消費者にお渡しする日本の化粧品や生活雑貨などなど。

「ここで何か注意されたら…。税金っていくら払うんだろう?カード払いってできるのか?いや、そもそも私のカードで払える額なのか?」

などなど、ワケの分からない不安がグルグルと「広いわりにモノの少ない」筆者の頭の中を回ります。

 

しかし眺めていると、「はて?」と首をかしげたくなることが。

私のスーツケースは中くらいのサイズ。前を見ると巨大なスーツケースを2つカートに乗せた男性が。「呼び止められるのかな~」と、半ば期待を込めて見ていると、普通にX線の機械を通して、終了。

 

「ん?」

と思っていると、段ボール箱の荷物を持った男性も、X線検査無事終了。

徐々に自分の順番が近づくたびに、肝っ玉の小さい筆者の動悸が激しくなるのですが、勇気を振り絞って税関職員をチラ見。

すると、そこには厳しい顔で荷物の中身をチェックしている職員、ではなく、X線モニターそっちのけで談笑している職員のお2人…。

 

緊張してしまった分、かなり拍子抜け。

 

一体どうなっているのでしょうか?

そんな到着直後の疑問を抱えながら、上海で消費者の方々にお話しを聞くことになりました。

施行直後には変化も、現在は2月末では回復状況

「私が知っている代購(ソーシャルバイヤー)は、今でもお仕事しています。商品も基本的には届いていますね。」と語るのは、Sharenaさん。上海市内でIT会社に勤務していますが、日本への観光経験も多く、日本商品にも非常に強い信頼を置いている80後の女性です。

彼女は普段から2~3人のソーシャルバイヤーとコミュニケーションを取りながら、日本の化粧品や中古ブランドなどを購入しているそう。

「特に日本の中古品は欧米などと比べても保存状態がいいものが多く、色の変化もありませんから」と日本での中古品ショッピングを気に入っている様子です。

 

ただ、Sharenaさん一緒にインタビューに答えてくれた同僚の茶叶さん(80後・女性)は「代購は今でも使っていますが、確かに今年の1月ぐらいはなんか変な感じでしたね~。」と、電子商務法施行直後の状況を教えてくれました。

ソーシャルバイヤーの利用状況を教えてくれた茶叶さん(左)とSharenaさん(右)

例えば「価格が言えない」であるとか、「WeChatPayは規制されているから、AliPayじゃないとダメだ」とか、「あと、商品の写真じゃなくて手書きにしている、なんてのもありましたね。」(Sharenaさん)。

 

さらには「暗号みたいな言葉が並んでいました。」と茶叶さんは紹介してくれます。

例えば「資生堂」なら、日本語読みのSHISEIDOに近い「許三多(Xusanduo)」という表記に変えてみたりと、「普通の人なら何かわからないけれど、代購や代購をよく使っているユーザーには意味が伝わるんですよ。」と、まるで何かのスパイ映画のような…。

しかし「これも、代購の人たちの間で噂になっていたみたいで、本当にそうしないといけなかったのは謎。」(茶叶さん)とのこと。

 

この2人および上海でお話を聞いた代購ユーザーたちが口をそろえて言っていたのは「今(2月末)は、去年の状況と変わらないですね~。」という言葉でした。

依然高い日本商品ニーズ。そのニーズを満たす「代購」は欠かせない?

2月初旬の春節シーズンは、各空港で荷物チェックが厳しくなった様子でしたが、それを過ぎた2月末時点では巷で不安がられているように、すぐに「全滅」というわけではなさそうで、特に日本から郵送するタイプに関しては、依然として活動している人も数多くいるようです。

これはやはり「電子商務法」の中の許認可規定や、より詳細な「NG」規定およびその取り締まり法が不明確であるため、施行直後やハンドキャリーへのチェックが厳しくなる訪日シーズン(春節など)には、主にハンドキャリータイプの代購はいったん様子を見ながら業務を行っているきらいがあります。

 

一説には、電子商務法で一番規制が厳しくなるのはハンドキャリータイプであるといった話も流れているようで、「インバウンドシーズン前後にはスーツケースの中身チェック(空けて検査)する率は50%ぐらいになるんじゃないか」という情報もありました。

また、今年の3月15日、いわゆる「消費者権益の日」には関連の報道がなされるという情報もすでに公表されています。

しかしながら、今のところお話を聞いた中国消費者の間では、日本商品、特に日本国内で販売されている商品へのニーズは相変わらず高く、それを購入するチャネルとしてのソーシャルバイヤーの存在は大きいようです。

 

取材中、お話を聞いた方々に「もし電子商務法で今の代購さんが使えなくなったら?」という質問を投げかけてみました。

その答えで多かったものは

  1. 自分で(日本に)買いに行く
  2. 信頼できるソーシャルバイヤーを探す(法に適応して活動しているバイヤーの意)
  3. 越境ECで探す(ない商品もある)

というもの。

ここからも、中国消費者のなかでの日本商品人気は衰えていないこと、またその購入にソーシャルバイヤーに頼る部分が少なくないこと見て取れます。

 

中国政府としては、こうした中国消費者の高い海外商品ニーズを理解し、それを維持しながら、その中で活躍しているソーシャルバイヤーの動きを「きちんとルールに乗せて運用できるようにしよう」というのが目的となっている今回の電子商務法。

実際に越境ECによる税の減免枠や年間交易額を増額しているところからも、中国の消費者が海外の商品を購入することを規制するのではなく、むしろ「購入しやすくしている」傾向が見て取れます。

今は、その実運用のモデルが見えないためにソーシャルバイヤーも注意深く活動していること、また日本のメディアやメーカー、小売りともに「~だろう」という推測でしか語れなかった、という現状があると考えられます。

今後はこの法整備が整うことで、ソーシャルバイヤー、消費者ともに安心して日本の商品を買うことのできる環境が整備されていくのではないかと予想されます。

 

次回は上海での消費者インタビューの中から、別視点でのソーシャルバイヤー環境を見ていきたいと思います。