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え、ここに打っちゃっていいんですか?~ 知られざる中国プロダクトプレイスメントの世界

中国の映像市場は年々拡大している。例えば映画、2008年の興行収入が77億元程度であったが、2018年には609.76億元にまで成長。近年はSF映画などの評価も高まり、世界からも注目されている。またドラマも2018年には323作品(2017年は314作品)と、毎年300作品程度が放送されている。

こうした映像作品市場の拡大の中で近年急拡大しているのが「プレイスメント」、つまりドラマや映画などの映像作品の中に、小道具や背景として登場することで、それを見ている視聴者にブランドや商品認知を高める、という手法である。

日本と同じようで、だいぶ違う。そんな中国のプロダクトプレイスメントの世界を覗いてみよう。

人気ドラマから見る中国式プレイスメント

プロダクトプレイスメントというマーケティング手法は中国だけではなく、世界中で行われているものであるが、中国の事情は日本のそれとはやや異なる。

 

その状況を2019年上半期で最も人気となったドラマ『都挺好』を例に見てみよう。

同作品は、蘇州を舞台に、主人公・蘇明玉と父、2人の兄とその配偶者の間で繰り広げられる、家庭愛をテーマにしたヒューマンドラマであった。

2019年3月ごろから浙江衛星電視台で放送が始まり、その後、その他のテレビ局でも放送。1%を取れば「高視聴率」と言われる中国のテレビ業界で、浙江衛星電視台は2.138%という数字をたたき出した。

 

余談ながら筆者もYouTubeで一気見をしたのだが、最終回に近づくにつれハンカチなくしては見られない、非常に良いストーリーと思えた。

最近は「劣化が激しく、中国の若者も日本を含めた海外のドラマへ向いている」のが現状なのだが、「やればできるじゃないか!」と偉そうに思った次第である。

しかし、マーケティングという視点で同作品を見てみると、まさにプロダクトプレイスメントが各所にちりばめられ、もとい、はっきりと置かれている。

登場人物の使うスマホはすべて「小米(シャオミー)」であり、普通の人が乗っている車も「ベンツ」か「jeep」。

さらに、主人公の父親や彼氏(調理師)がスーパーに行けばサラダ油大手の「多利葵花籽油」で、セリフも「サラダ油買ってきて」ではなく「多利のサンフラワー油を買ってきてくれ」や、スーパーの店員が「多利のサンフラワー油はとってもお得で…」など、名前の連呼をするほど。

 

日本の感覚ではいささか、いや、かなり「あからさま」なのだが、それが中国のプロダクトプレイスメントの一般的な手法なのである。

 

確かに、日本ではもうほとんど見なくなったバラエティ番組の冠協賛(番組名に企業のブランド名がつけられる)もいまだ現役。

番組内では常に冠スポンサーの商品が露出、その商品を使ったゲームなども行われている。

人気バラエティ「王牌対王牌」の冠協賛はスマホのvivo

さて、そんな広告効果のほどは?

こうしたかなり明確なプロダクトプレイスメント、消費者はどのように見ているのだろうか。

 

実際に「広告が多い!」、「また植入広告(プロダクトプレイスメント)か!」と憤る視聴者もいるのだが、同時に、意外にも好意的な評価も見られる。

中でも、こうしたプレイスメントを探すことが、一種のゲームのように捉えられているようで、一部の人気ドラマや映画などでも「劇中の広告大解剖」のようなSNS投稿が多く見られる。

 

この『都挺好』においても同様。ドラマの内容が良かったこともあり、広告でありながらも、比較的好意的な記事や投稿が見られた。

前半27話分で9455秒もの露出を行った小米(シャオミー)も大喜び、といったところだろう。

 

ただ特に注意を引いたのが、ドラマで使用された衣裳、特に主人公・蘇明玉の衣裳である。人気SNSである小紅書(RED)で「蘇明玉 同款(同モデル)」と検索してみると、劇中のアパレルだけではなく口紅まで、そのブランドや着こなし、メイクなどが分析されている。

 

劇中、会社の高級管理職として衣装を身にまとった主演女優・姚晨の演じる役どころは、そのスラリとした長身もあり、仕事をバリバリこなし、かつエレガントな、現代中国人女性のあこがれを具現化したような人物。

 

そのためか、ドラマ終了後には「蘇明玉が着ていたブランド紹介」のようなサイトも多く立ち上がっており、劇中で使用されているアパレル、バッグ、靴などのブランドが羅列されていた。

これがブランド側の仕掛けか否かは判別できないが、結果として同作品ファンや姚晨ファンにドランド名やイメージ、商品を植え付けることになった。

こうした事例を見るに、プロダクトプレイスメント→クチコミで話題作り→認知拡大、とつなげることは可能であると言える。

え?こんな作品にもいいんですか?いいんです!

このように成功事例も生まれている中国のプロダクトプレイスメントだが、「日本ではありえない」ことも行われている。

 

それが、時代劇へのプロダクトプレイスメントである。

日本では「視聴者に違和感を与える」という、至極もっともな理由からプロダクトプレイスメントが行われないのが慣例だ。

しかし、中国では全く逆。数多くのブランド(多くは国内)が時代劇の劇中に登場している。

 

これに関しては実例を見たほうが早いだろう。

とある時代劇に登場した店舗『唯品閣』。

『中国トレンドExpress』読者諸氏であればすぐにピンときたことだろう。

そう、ラグジュアリーブランドを得意とするEC大手・「唯品会(VIP)」のプレイスメントである。時代劇という舞台に、時空を超えて現代中国小売のブランド名が登場したわけである。

 

また下の例は、中国の大手製薬会社「999」の時代劇プレイスメント。

すでに箱に当時使われてはいないであろうアラビア数字の「999」を模したロゴ、もとい紋章が記されている。さらに左側には、劇中で登場した漢方薬の処方なのだが、各行の頭の漢字を左から横に読むと…。

「参(三)玖(九)感冒霊(999の風邪薬は効く!)」と読める。

さらにネット上で大きな話題を呼んだのが下の写真だ。

突然、葉っぱを顔に貼り付ける時代劇の登場人物…。

これは実は化粧品ブランド「一葉子(one leaf)」によるプレイスメント。修行している登場人物が疲労を回復させるために「一枚の葉っぱ」を顔に貼り、かつ効能をセリフで説明する、というもの。

 

いやはや、ここまでくると、あの手この手で現代のブランドを時代劇に組み込もうとする演出、脚本家の努力がしのばれ、脱帽感すら生まれてしまう。

 

これはつまり、「多くの人に訴え、市場展開を有利にしたい」というブランド側の意向と、「一つの作品でより多くの収益を上げたい」という制作サイドの利害が一致したということだ。時代劇、現代劇に関わらず、中国のプロダクトプレイスメントはブランドにとっても、作品の制作サイドにとっても「美味しい」話となっているのである。

 

ただ、こうしたプロダクトプレイスメント、リスクもあるようで、現場で脚本が変わったり、出演している芸能人が嫌がったり、事務所が後になって拒否したり…という話も耳にする。

もちろん露出時間や方法などを契約書時にチェックしていても、である(また二次利用が可能か否かも確認の必要がある)。

 

そうした点、露骨ともいえる露出などを考え、「日本では考えられない!」と忌避することもできるだろう。いや、むしろこうした反応の方が多いはずだ。

しかし、現在の中国ドラマやバラエティ番組は、話題になったものほどネットで配信され、またSNSで共有される。それを考えると、当たった場合のマーケティング効果は計り知れない。

 

そこを企業側はどうとるのか。プロダクトプレイスメントを利用しているのが国内企業が多いという点を考えると、中国企業は日本企業に比べて「割り切りがいい」ともいえる。

 

まったく自社のブランドイメージにそぐわない作品に露出する必要はもちろんないのだが、中国のプロダクトプレイスメントの現状を目にして、なお「日本では考えられない!」という言葉を、ポジティブに発する者だけに成功の道が開ける、というものなのかもしれない。