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中国ニュース深読み~中国超大手企業の商標裁判、ついに判決!

7月末、中国の最高人民法院(最高裁判所)で注目訴訟の判決が下った。

「甘粛濱河食品工業(集団)有限責任公司は経済的賠償金として900万元を五粮液集団に支払うこと」。

中国の商標問題における画期的?ともいわれるこの事件から、日本企業の中国事業を悩ませる問題について考えていこう。

トップブランドが6年がかりの死闘

いろいろと知的財産権に関する話題が尽きない中国市場。そこで注目を集めた商標裁判に決着がついた。

ただ、今回「知財権」問題でメディアを賑わせたのは、外資系企業ではなく中国企業、その中でもトップクラスの企業である「五粮液」なのである。

こちらが五粮液。中国に出張や赴任していたら目にしたことがあるはず

同社は中国の蒸留酒・白酒(Baijiu)のトップブランド。中国四川省に本拠地を構える企業(現地政府が筆頭株主)で、生産される白酒は中国で開催される国際会議(APECなど)でも各国首脳にふるまわれるなど、茅台酒と並ぶ「国宴酒」に選ばれている、業界リーディングカンパニー。

 

さらに同社は長らく中国春節聯歓晩会(日本の紅白的な番組)の開始前「時報」の協賛を行い、「3秒間で3,000万元。世界で最も高価な3秒間」とも言われる広告費を払い続けてきたほどの規模を有している企業である。

 

そんな中国を代表する企業である「五粮液」グループが、6年もの間戦い続けた相手というのが甘粛省にある「甘粛濱河食品工業(集団)有限責任公司」(以下「甘粛濱河」)。

同社は80年代から白酒およびワインの生産、販売を行っている企業であるが、規模の面から見ても「五粮液」グループには比べ物にならない地方企業。その何が問題だったかといえば、商品の名前である。

 

甘粛濱河が押し出していた主力白酒の名前が「濱河九粮液」だったのである。

つまり、トップブランドよりも「4つ」数が多いのである。しかも、瓶に印刷された商品名の事態を見ても「五粮液」と瓜二つ。

こちらが「濱河九粮液」。ボトルの形は違えども、商品名のロゴなどは、確かに似ている。

さらに五粮液が「五粮春」や「五粮醇」などのシリーズ商品の商標を登録してあれば、濱河九粮液側も「濱河九粮春」、「濱河九粮醇」といった派生商品を次々と登録…と、明らかに五粮液を「追いかけて」の展開を行っていた。

 

さすがの大手もついにぶちギレ、6年前に商標侵害の訴えを起こすに至ったのである。

これで中国の商標管理も一歩前進?

その判決は冒頭の通り。900万元の支払いなどが言い渡されたが、この判決自体の意義が大きいと、中国法曹界見る。

 

というのも、中国の商標に関する歴史は浅く、いまだ不十分な部分が多い。原則は早い者勝ち。世界的な有名なブランドでも、中国での商標登録がなされていなければ、誰が申請しても受理されてしまうこともあり、それを利用した「商標ビジネス」(先に他社のブランドを申請し、登録。本来のブランドホルダーに売却する)が暗躍した時期もあった。

 

また意匠が似通っていても「文字が違えばOK」といった甘さや、商品デザインの意匠権が認められていないなどの課題も多い。

 

そうした意味で「濱河九粮液」は合法的に商標を申請、登録されているため、「この商標自体は違法ではない」と主張し続けてきた。

 

それが、同案件が6年に渡った原因であり、実際に一審、二審では五粮液側が勝訴するなど、波乱が生まれた原因なのである。

 

しかし、これで「著名商標の持つ権利」が認められ、今後同様の裁判に大きな影響を及ぼすのでは、と中国の法曹界では見ている。単なる「早い者勝ち」や「一字違いだから」で認められるのではなく、きちんと既存のブランド、消費者認知の価値を理解したうえでの商標運用へと向かうことが期待されているのである。

 

ちなみに「今後」には五粮液のこれから展開する類似商標との戦いも含まれる。

実は中国には「九粮液」のほか「四粮液」、「三粮液」、「八粮液」など、中国のメディアの言葉を借りれば「N粮液」商品が数多く存在しているのである。

どうやら「一粮液」から「五粮液」を経て、「九粮液」、未確認ながら「十粮液」に至る道のりができているらしい

いまだに存在する商標問題

さてこの問題、よくメディアでありがちな「中国お笑いネタ」では終わらない。日本企業の進出にあたっても非常に頭の痛い問題だ。

 

有名どころでいえば「有田焼」や「熊本県」、さらには「富士山」などが商標登録されているという情報もある。

 

特に現在は、日本での人気ブランドや商品の情報が、ほぼリアルタイムで中国に届いており、そうした情報を頼りに中国で先に商標登録してしまう、という動きが進んでいる。

いざ中国で販売しようとした際に、「自社のブランド名が使用できない」といった話もよく耳にする。

 

また今回の例見るように、自社ブランドのロゴを商標登録して終わってしまうケースがあるが、今回のように、微妙な、捻ったブランドの使い方をされるケースもある。

そのため、思いつく範囲で変形パターンの商標も登録対象にしていく必要もあるかもしれない。

 

確かに今回の裁判では五粮液側に軍配が上がり、それをきっかけに法解釈の変化があるかもしれない。しかし、中国国内トップクラスの企業が6年がかりで得たものであった、ということを考えねばならない。その間の労力、費用などは推して知るべしである。

 

いったん事が起こってしまうと、その収集には多大な労力がかかってしまうのである。

 

こうしたリスクを防ぐためにも、「まずは商標だけでも」登録しておくことが肝要。同時に上述のような、登録できそうなものはなるべく、周囲に至るまで考えておくことがリスクを下げる方法であると言えるだろう。

 

こうした中国商標に関しては、日本貿易振興機構(JETRO)でも専門の窓口を設けているので、活用されることをお勧めする。

 

すべて日本と「同じ」と高をくくり、「商標登録」という作業を行うのでは、販売どころか、ブランド展開で、思わぬトラブルが生じることになりかねない。

数字だけではなく、中国の消費者、ビジネス、社会を理解し、イメージを膨らませ、「起こりえないこと」まで想像できる力をつけねば、中国市場を乗り切ることはできないのである。