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中国女性のホンネVol.4~保険会社勤務の呉さんの場合・後編

Text・Photo:配島亜希子

保険のセールスレディとして働く呉琳琳さん。平均以上の収入を得て、仕事も家庭も充実、といった様子。

そんな彼女に前回はコスメや美容意識について話を聞きましたが、やはり「どんな生活を送っているのか」も気になるところ。

そこで、今回は普段の時間の使い方を中心に、生活の様子について詳しく聴いてみました。そこには、現在中国キャリアウーマン共通の苦労が垣間見えます。

▼前回の記事は
中国女性のホンネVol.3~保険会社勤務の呉さんの場合・前編

今回の取材対象者のプロフィール

氏名: 呉琳琳

年齢: 33歳

婚姻状況: 既婚、子供1人(6歳)

月収: 月収3万元(約48万円)、諸経費込み

勤務先: 中国大手保険会社

部署/職位/勤務年数: 営業部・経理(日本でいうマネージャー職)、勤続4年

学歴: 中国人民大学(修士)

家族構成: 配偶者、子供、本人の3人

生活状況: 持ち家(静安区大寧)に配偶者と子供と3人、自家用車(VOLVO ボルボ)あり

趣味: 写真、映画鑑賞、バドミントン、ヨガ

共働きで家事は家政婦まかせ、仕事に全力投球

家政婦に家事を任せてバリバリ働く呉さん。

家政婦というと「裕福な家庭の使用人」というイメージですが、中国では、ごく一般的なミドルクラスの家庭でも普通に雇用しています。

家政婦にはいくつか種類があり、家事全般の代行、出産後の母子の世話をする「月嫂(ユエサオ)」、乳幼児のお守りをするベビーシッター、老人などの介護をするヘルパーなど、それぞれの専門スキルを持ち、報酬も異なります。

さらに仕事の境界も明確で、家事代行の家政婦は家事だけを行い、ベビーシッターは赤ちゃんのお守りしかしません。

 

もともと仕事を主軸とした生活をしていましたが、子供が生まれて一変します。

生まれてすぐはご主人も産休を取り、近所に住む母親にも協力を仰いでいました。

しかし長いスパンで見ると、メディアの仕事と育児の両立は難しいと感じ、ベビーシッターを雇用することにしました。

 

小さな我が子を丸一日毎日預けるとなると、経験や素養はもちろん、信用・信頼のおける人物でないと不安です。

ベビーシッターは家政婦紹介所から派遣してもらうことはできますが、見ず知らずの人を雇用するのはリスクが大きいと、親戚や友人のツテなどを通じて探すことが多いそうです。

プライベートタイムは子供が寝てから~中国ママたちの宿命

日本のワーキングマザーといえば、仕事を終え、子供のお迎えに行き、買い物に立ち寄り、帰宅するや否や夕飯の支度に取り掛かる…息をつく暇もないほどの慌ただしさです。

でも、呉さんが帰宅する頃には、家政婦が夕飯の支度も洗濯物の取り込みもすべて終わらせています。

帰宅後の唯一のタスクは「子供の勉強を見ること」。幼稚園で出された宿題をやらせ、寝る前に絵本の読み聞かせなどをしています。

 

子供の就寝後、プライベートタイムが始まります。

ジョギングしたり、読書をしたり、映画やドラマを見たり、自分のためだけに時間を使うとのこと。月に数回はご主人に子供をまかせて、仕事帰りに友人たちと食事にも行きます。

溜まった仕事の処理に追われることもありますが、なるべく仕事とプライベートのオン・オフの切り替えを心掛けているそう。

 

「小学生の子供がいるママ友たちは、毎日3時間くらい子供に付きっ切りで学校と塾の宿題をさせています。それが一番の負担だとぼやいています」と言う彼女。

中国の宿題の多さは子供たちの睡眠時間を削るほどで、社会問題にもなっています。

「息子は9月から小学生。今のうちに自分の時間を存分に堪能しておきます。」と、先を見据えて今を楽しんでいるようです。

週末も子供中心。習い事と家族サービスに大忙し

「週末は公園へ行ったり、映画を観たり、ヨガに通ったりします」となんとも楽しそうな響きです。

 

しかし、実際はそうではないようで、公園は子供の運動のため、映画は子供の教育の一環、ヨガは子供を塾に送った後の待ち時間に隣のヨガスクールに通っていると、子供中心のスケジュール。また、夫婦のお互いの実家へ子供の顔を見せに訪ねることも。

 

中国の都市部では小学校就学前からの習い事がブームで、子供たちは学習塾のほかに英会話、数学、絵画、ピアノ、スイミング、サッカー、ダンス、武術など、習い事をたくさんしています。

 

呉さんの子供は、週末に太極拳、ジャズ、「国学」のクラスに通っているとのこと。「子供たちも大変だけど、送り迎えする親の負担もかなりのもの」と言います。

 

以前は趣味のバドミントンをしたり、友人とランチしたり、夫婦で遠出したりと、週末にプライベートタイムを過ごしていましたが、今では、「週末は子供の教育と家族サービスに徹します」とプライベートと家族サービスのオン・オフも切り替えています。

いま欲しいものは「時間」

育児はご主人と分担、家事は家政婦まかせ、仕事に不満はなく高収入、自分のプライベートも充実と、誰もが羨むようなライフスタイルですが、そんな呉さんにも悩みはあるのでしょうか?

 

「悩むより行動するタイプだから困っていることはないんです。でも、もっと“時間”が欲しい!」と言います。一体何のための時間が欲しいのでしょう?

 

「中国人は保険への意識が低い」と懸念を抱く彼女。

各々の事情に即した保険をじっくりと検討する消費者は少なく、周囲やセールスパーソンから勧められるままに安易に加入してしまうケースが多いそうです。

 

もちろんそれは彼女やチームの成績となりますが、「長期スパンで考えるなら、契約更新や解約回避のため、最初に適切な保険を明確に提案しなければなりません」とのこと。

そのため、保険業界についてもっと勉強したいし、チームを牽引する求心力も身に付けたいと考えています。

 

しかし、子供の年齢に伴い、子供のために割く時間が増えます。勉強を見る時間が長くなるだけでなく、PTA役員を引き受けたり、学校行事の準備、教育関連の情報収集などにも時間を取られます。

「仕事の実力をつけるために勉強するプライベートな時間がもっと欲しいんです」と、上昇志向の強さが伝わってきます。

恒例!「鞄の中をみせてください」

最後に恒例「鞄の中をみせてください!」コーナー。

「セールスは人に会うことが仕事なので最低限のメイクはします」と言う呉さん。

化粧直し用に「エスティローダー」のファンデーションや「シャネル」の日焼け止めメーキャップベースと口紅、そして資生堂「アネッサ(ANESSA)」の日焼け止め、薬用リップクリーム、人気の目薬「Sante Beauteye (サンテ ボーティエ)」をそのままバッグに入れています。

 

ミニサイズの水筒は体を冷やさないよう、自分の好みのお茶を常温で飲むための必需品。仕事の外出時はこれらにノートパソコンかタブレットが加わります。

 

以前取材した陳さんに続き、呉さんも“財布を持たない派”。

出張や遠出する時以外は持ち歩かず、「アリペイ(Alipay/支付宝)」か「ウィチャットペイ(WeChatPay/微信支付)」のモバイル決済アプリですべて支払います。

地下鉄やバスも交通ICカードアプリで。スマホがバッテリー切れになると一切の支払いができなくなるので、常に充電ケーブルを携帯しているとのこと。

 

中国では、スターバックスなどのカフェチェーンの店内にはコンセントがいくつも設置され、大手飲食チェーン、コンビニ、カラオケやスーパー銭湯などの娯楽施設などにはモバイルバッテリーの貸出サービスがあります。

充電ケーブルさえあれば外出時でもどこでも充電できます。小さな飲食店でも「スマホを充電させて」と頼めば、店内の片隅やバックヤードで充電させてくれたりします。


呉さんは効率主義で非常に要領がいい女性なので、合理的かつ計画的に欲しいものを手に入れてきました。中国の都市部には彼女のように活躍するワーキングマザーはたくさんいます。

 

子育てに寛容な社会のため、男性も家事をし、会社を休んで子供の看病をし、学校行事に参加するなど、日本のように「子供は母親が面倒を見るもの」という意識も低いです。また性別に関係なく実力次第で出世できる社会でもあります。

 

男性であろうと女性であろうと、また母親であろうと、会社に貢献する実力があれば認められます。裏を返せば、結果を出せなければ、誰であろうと出世はおろか自分の居場所さえも失うのです。彼女たちはそんな危機感を持ちながら、仕事に家事に育児に日々奮闘しています。

 

呉さんのライフスタイルは決して運や環境により形成されたものではなく、彼女自身の努力の賜物だと言えるでしょう。