今ドキ中国消費者解体新書 「カスタマージャーニー」で見える中国市場攻略法 Vol.2 ~中国消費者を知るための心構えはいかが?~
中国での市場開拓は日本の様にはいかない。その理由はもちろん「消費者が異なる」ということだが、その違いをどこまで理解しているだろうか?
実は中国市場におけるカスタマージャーニーを考える上で、その理解は必要不可欠。そのために日本の企業もあの手この手を使ってデータを集めている。
しかし、データだけでも不十分なのが消費者理解、特に中国という国の不思議さ。中国の消費者を理解するためには、データに現れない部分をどこまで知ることができるか、というところに尽きる。
今回は代表的な中国「あるある話」を含めて、カスタマージャーニーを考える上で中国の消費者理解の注意点、心得をまとめていこう。
▼前回の記事はこちら
今ドキ中国消費者解体新書 「カスタマージャーニー」で見える中国市場攻略法 Vol.1「カスタマージャーニーマップ」とはいったい?
社会環境によって不明瞭さが増す?
多くのマーケッターを悩ませるのが、中国の場合、消費者の「表面的な所得」では生活レベルが判断できない、という点だ。所得データがあまり頼りにならないのである。
よくある「富二代(富裕層の子女)」がその好例だ。
正式な収入はわずか数千元。しかし、毎月数万元単位の支援を親から得ている、というケースもある。
日本では「贈与税」がかかりそうなものだが、中国ではこうした規定がない。
そのため、実収入よりもはるかに良い暮らしをしているケースがある。
さらに不動産投資などによる副収入。
日本では固定資産税があり、不動産を多く所有しているとコストがかかる。
それを利用して収益を得ている場合(賃貸)は、確定申告を行い、一定の税金を支払う。
そのため、資産運用でも実質的な収入と可処分所得には差が生じる。
しかし中国の場合、まず固定資産税が無い。不動産を多く所有していても、それに対して課税されることは現時点ではないのである(不動産税の導入が検討されている都市もあるが、現時点では未施行)。
また上海などでは不動産を貸し出して得た収入には課税されているが、多くの場合その支払いは、賃料に上乗せという形で店子側(借り側)が払うことが多い。
そのために正式な不動産仲介を介した賃貸料による契約書のほか、実際の賃貸料(賃貸不動産収入の税分を上乗せした金額)を記した別の申し書きを交わすことも多く行われる。
つまるところ、「不動産運用のコストがゼロ」になるわけであり、記録にも残らないため、大きな公的データとしてまとめることもできない。
詳しい部分は省略するが、中国では個人の税制度の歴史が浅く、社会構成に税制度が追い付いていないケースが多く残っている。
そのため、所得は低いのに高級ブランドを大量に所有している消費者が多く見られるのである。
さらに言えば、こうした「見えない所得」で生活している消費者が、北京や上海といった日本企業の一般的なターゲット都市ではなく、いわゆる2線、3線都市に存在することが、より消費者分析を難しくしていく。
こうした日本とは異なる生活背景、所得状況はきちんと把握しておかなければならない。
中国消費者の価値観を知る
また注意が必要なのが投資する価値観の違い。簡単に言えば「お金をかけるポイントと意識」の違いだ。
例えばスキンケア商品。
スキンケアの中でもアンチエイジングに対しては非常に高価な商品を購入しながら、洗顔に対しては非常にリーズナブルなものを使っているケースが多い。
つまり「顔を洗うのにそこまで高いお金をかける必要はない」ということなのだ。
これは日用品にも言うことができる。
高級ラグジュアリーブランドの服を持っていながら、クローゼットに入れる防虫剤は安いものでよかったり、日本の高級炊飯器を使いながら、日本からの輸入米を「高い!」とぼやいたり、日本の視点で見るとアンバランスに思えることが多い。
これも、安いものでいいものは、すなわち「それほどお金をかけるべきものではない」という判断。
こういった消費者の判断心理を理解していないと、中国でのカスタマージャーニーを設定することは難しく、消費者に行動に沿った適切なアプローチもできずに終わってしまう。
そのためには、視察による情報収集においても、単純に見て回ることではなく、中国消費者の行動を細かく追うこと。また、それについての質問をする場を設けること。場合によっては中国消費者の自宅を見ることも必要となってくる。
なぜ日本は中国の消費者を理解しきれないのか?
こうした中国の特徴や、「日本人と中国人は違う」という認識は有しているものの、中国国内の消費者を大きく「中国人」としか認識していない、という点がある。
しかし、いわゆる「中国人」といった消費者は存在しないと考えていい。
そもそも、国土の規模が違う。北は寒帯、南は熱帯。エリアが異なれば、言語、食習慣、価値観、肌の悩みや健康の悩みなどなど、まったく異なる。
例えば、筆者が上海の大学に在籍していた時期、ある中国東北出身の友人が「上海の百貨店は通路が狭い」ということを話していた。
東北は通路が広いのかと尋ねたところ、「自分の地元はマイナス20℃の世界でみんな厚着をしなくてはいけない。その分、通路を広く取らないとぶつかってしまうじゃないか」と答えてくれた。
おそらく冗談交じりの回答で、かなりの誇張が含まれているだろうが、中国の気候・地域差を考えれば納得してしまう。おそらく友人も、中国の広さ、多様性を現す意味でこう言ったのだろうと思う。
しかし今思い返せば、確かに中国の地域ごとの生活差異を理解させてくれた一言であった。
【参考】中国の料理の種類と方言分類
さらに近年は世代間、つまり70後、80後、90後、00後では、育った社会背景が大きく異なる。中国の社会は猛スピードで変化しているため、5歳年が離れると、異なる特性が表れると考えていい。
例えば「80後の女性で、上海市在住、4年制大学を出て、外資系企業で働き、現在は夫と幼稚園の子供がおり…」という、イメージではなく、より現実的な、具体的な消費者なのである。
視察で「理解した」という落とし穴
こうした中国の消費者の状況を、日本側も理解しようとしていないというわけではない。昨今、多くの企業や自治体で増えているのが「中国視察」である。その対象も北京や上海、また最近人気なのが深圳といった都市だ。
もちろん、視察は海外の都市の雰囲気を体感することにおいて非常に有益な手段である。しかし、ただ小売店を見学するだけであったり、一部の企業や行政窓口を表敬訪問するケースが多く、日本企業のマーケティング担当者が上海や北京などの都市に直接中国の消費者と「話をする」ために足を運ぶ、ということを行っている企業は決して多くはない。
なんというか、日本の企業視察は「お行儀がいい」ともいえる。
だが、遠巻きに見ていては中国消費者の特性に触れ、理解することなどできない。カスタマージャーニーを考え、それをマップ化する上でも「消費者の行動」を見るだけではなく、疑問を聞いて、それを論理的に理解しなければならない。
視察においても、まさに中国の生活に突っ込んでいけるか、が勝負。中国視察にはそうした覚悟をもって望んでもらいたいものである。
次回(8月23日予定)はいよいよ本番。中国の消費者(ペルソナ)をより具体的に考えていこう。