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消費者に愛される商品へ 中国市場で勝つためのニックネームとは?

加熱する中国市場。そこでのカギは中国において知名度を高める事、そして中国消費者にとって親近感を持ってもらうことである。

今、その手法として広く普及しているのが「商品にニックネームをつける」という戦略である。とかく長くなりがちな化粧品に端的でわかりやすいニックネームをつけることで、中国の消費者に印象付け、マーケティング活動に生かそうという動きである。

今回は中国の化粧品市場で高い認知度を獲得している商品ニックネームを見ながら、中国市場でどういった思考でニックネームを考えるべきかを考察してみよう。

中国市場で日本ブランドに付けられたニックネームの中で印象深いのは、化粧品ではなくデジタル製品。カシオの自撮り用デジカメ「TRシリーズ」であった。

 

そのニックネームは「自拍神器(自撮り神器)」。

 

もともと日本では人気が出ず、海外専用商品として売り出した同商品だったが、台湾の人気女優が「小顔に撮れる」とWeibo上で発信したことで火が付き、このニックネームを奉らわれた。

 

当時、筆者も中国在住であったが、一時帰国のたびに同僚などから「日本で買ってきて!」と頼まれ、日本で売られていないことを説明するのに一苦労だった記憶がある。

 

このように、刺さるニックネームがつけられると一気に消費者に浸透していくもの。現在は中国の化粧品市場で巻き起こっているのがそんな「商品ニックネーム」ブームである。

すでに多くのブランドが商品ニックネーム中心にしたマーケティングを展開、消費者の間でも話題になっている。

 

今回はその商品ニックネームを種類別に見ていこう。

名は体を表す? こだわりデザインが親近感を生む

まず、最も多いのが外見、すなわち化粧品が入ったボトルに付けられたニックネームである。その中で最も多いのが「小~瓶」という、瓶の色に基づいたニックネームだ。

 

例として挙げられるのが

  •  小黒瓶:LANCOME ADVANCED GENIFIQUE
  •  小白瓶:Olay Pro-X
  •  小紅瓶:SK-ⅡR.N.A.パワー ラディカルニューエイジユースエッセンス
  •  小棕瓶:エスティーローダー advanced night repairシリーズ

と意外とシンプルなものが多い。

中国ではそもそも「小~」という表現は、子どもの愛称などに付けられることが多く、印象としては「小さくてかわいい」、「親近感」などを与える、いわばニックネームの定番と言えるだろう。

 

そのためか、おもにエッセンシャル商品に多く、ニックネーム間だけではなく市場競争の激しいレッドオーシャンとなっている。

 

ただ、「小瓶」シリーズ以外にも独特なデザインをニックネームにし、定着したものも少なくない。

例をあげると

  •  紅腰子:資生堂「アルティミューン パワライジング コンセントレート」の愛称。「腰子」とは動物の腎臓のことで(羊だったら羊腰子、豚であれば猪腰子)、同商品を横から見たときの形状が似ているからだとか。
  •  手榴弾:すでにボトルデザインが変更されているため見ることはできないが、CPBの「ル・セラム」に付けられたニックネーム。形状が手榴弾のように見えたため。
  •  小灯泡:SK-Ⅱの「ジェノプティクス オーラエッセンス」。こちらもボトルデザインが「豆電球」に似ていることからきたネーミング。

といったものである。

こうした特殊な外見からのニックネームは、多くが化粧品のイメージから遠く離れたネーミングがなされており、日本では「小学校で同級生につけるあだ名」に近い。

 

ただそれは、各ブランドがこだわったデザインが中国消費者にとって非常に印象的であり、好感を抱いた結果であるともいえるだろう。

商品の機能は消費者に何をもたらすか?

外見から付けたニックネームに次いで多いのが機能性を簡潔に表したニックネーム。

これで人気が出るということは、ブランドにとってみては非常に理想的ではあるものの、海外ブランドにとって最もネーミング難易度の高いものであろう。

前男友面膜

すでにおなじみ「SK-Ⅱ」フェイスマスクに付けられたニックネームである。直訳すれば「元カレ・マスク」。その心は?というと、「フラれたその日に使用し、翌日元カレに会うと、別れたことを後悔させることができる」、それほどキレイに変われる、という意味が込められているネーミング。

反重力精華

こちらはスイスのスキンケアブランド「La Prairie」のキャビアエッセンス使用のエッセンシャル。肌を引き締める効果があるが、同商品を使うとまさに「重力に逆らって」肌を上げるほどの効果を体験できるというメッセージなのだろう。

一飲而尽面膜

訳すと「一気飲みフェイスマスク」。エステーローダ―傘下のブランド「ORIGINS」のフェイスマスクに付けられたニックネーム。このフェイスマスクは肌に与える保湿性。それがどのレベルかと言うと「水を一気にがぶ飲みしたくらいの水分を補給できる」。

ちなみに、同ブランドの別のフェイスマスクは「瓷娃娃面膜(陶器人形マスク)」というミネラル成分を含んで、まるで白磁の人形のように肌を白く滑らかにするフェイスマスクがある(「瓷娃娃」はかつて卓球の福原愛のニックネームでもあった)。

このネーミング、「どう表現するか」にどのブランドも頭を悩ませる。

保湿や肌に張りなどの言葉はストレートすぎ、商品名に落とし込むにはよいかもしれないが、ニックネームで呼ぶには「俗」である。

ヒントとなるのは?

上記3つのニックネームは消費者が「何を期待して商品を買うのか」という点をネーミングの起点としていることであるように思う。

「肌のたるみをなくしたい→重力に逆らうように」、「肌に潤いを与えたい→水を一気飲みしたくらいに」、そして「よりきれいな肌になりたい→別れた男が後悔するほどに」というわけである。

 

そうした消費者心理を分析し、訴求すべきポイントを誇張気味に表現するのである。

 

その中ではやはりSK-Ⅱの「前男友面膜」は、想定使用者やその周辺の消費者の心理に沿った、極めて秀逸なワーディングであると思う。

 

このフレーズについて考察していると、確かに中国で耳にするのは「別れた相手の幸せを願う」という言葉よりも、「別れた相手よりもよりいい生活、ハイレベルな人生を送る!」という極めて前向き、ポジティブな思いを持つ人の方が性別を問わず多いことに気づかされた。

SK-Ⅱのフェイスマスクは、こうした心理を上手にくすぐるニックネームであったと言えるだろう。

総括―中国ニックネーム論

中国市場向けに商品ニックネームを設定するのは、中国語を母国語とせず、また中国で生活していない身では非常に難しい。

まずは自社の商品が、どのポイントがもっとも中国の消費者に刺さるのか、ということを設定しなくてはならないのだが、はたして「効果」で話題にしていけるのか、「見た目のデザイン性」が印象深いのか、はたまた「成分」が興味を引くのか、消費者の思考がイメージできなければ、それを判別することはおぼつかない。

 

さらに「効果訴求型ニックネーム」を選択する場合は、難易度はさらに高まる。

自社の商品を使用することに中国の消費者が「どんなメリットを求めているのか」、そしてそれを「どう表現するのが最もイメージしやすいか」ということを理解しなくてはならないからである。

 

それを理解するためにはなるべく多く消費者と対話する事が不可避。普段の生活の中で何を悩み、なにを求め、そしてそれらを解決・達成した後にどのように感じるのか。

 

そうしたことを、深く、具体的にイメージすること。そしてそのために、あふれ出る消費者の声、言葉を常に集め分析する事。それが中国で勝てるニックネームを生み出すのではなかろうか。