SNS投稿閲覧は新たな「学問」 中国消費者の「広告見極め」法
中国の消費者が商品情報の収集ツールとして活用しているのが数多くのSNS。そうした消費者をターゲットにしたメーカーのプロモーションも、自然とこのSNS上が主戦場となっている。
しかし元来、広告というものに心理的ハードルを有している中国の消費者。SNS上の投稿を見る時に特別な眼をもって見つめている。
今回は中国で行った消費者インタビューをもとに、中国消費者が心掛けているSNS投稿における「広告の見分け方」をまとめてみよう。
「クチコミ」の裏側で起こる、企業と消費者の真剣な駆け引き
「広告の見分け方?それって経験と感覚じゃないですか?」
インタビューで広告の見分け方に話が及んだ時にそう笑ったのは江蘇省無錫市在住の女性・毛さん(30代)である。
この言葉が示すように、中国の消費者にとってSNSやWEBサイト上の記事の中で、広告か広告でないかを見分けるのは、すでに「必須スキル」として身についているものになっている。
というのも、現在はオープンな環境で情報発信ができるWeiboをはじめ、WeChatといったクローズ空間での情報交換、また小紅書(RED)の体験共有、そしてDouyin(TikTok本家版)でのショート動画など、数多くのSNSが浸透している。
従来は一般のユーザー同士での情報発信を楽しむものであったが、今は数多くの企業の中国消費者向けプロモーション、宣伝活動場としても機能している。
なかでも、元来「広告」というものに対して不信感を持っている中国の消費者に向け、なるべく広告性を感じさせないように情報を発信する、ということが主流となっている。
しかし昨今はこうした企業の動きに対しても、中国消費者は敏感になっている。
こうした中国消費者の心理に関しては、中国トレンドExpressにおいて繰り返し述べているため、あえて説明はしないものの、ある意味では中国SNS上でこうした企業と消費者の駆け引きが行われていると考えていいだろう。
消費者側としては「本来は普通の人の、誰の影響を受けていない情報だから必要としているのに…」という意識が芽生えるのである。
一部のSNSでは「広告投稿」と「一般投稿」を識別できるような施策が展開されるなど、ユーザーの不満を軽減させるレギュレーションを設定するようになってきた。
現在は小紅書(RED)が新規ダウンロード停止、広告投稿レギュレーションの設置などの施策が行われているが、Weiboが広まり始めた初期にも、ほぼ同様の動きがあった。
その背景に関しては国としての管理理念や法律、消費者への配慮などいろいろあるが、中国の人気SNSにとっては避けては通れぬ道ともなっている。
では、どのように広告を見極めるのか?
まずは投稿そのもののチェックだ。
自身もAPPの運用業務に携わる上海の20代女性・馬さんは、「チェックポイントは色々と前置きしてから、細かな注意点を教えてくれた。
1つは投稿者が化粧品やサプリなどを紹介している場合、あまりにも専門的な成分の名前を羅列することで「広告っぽさ」を感じてしまうという。
「普通の人が長い、複雑な成分の名前を憶えているのか疑問。それをすらすら言えるのは企業が“言わせているから”なんじゃないかと感じてしまいます」。
発信者の中には自分でその成分を調べ、ユーザーのためにと発信するケースもあるのだが、それもあまりに専門的になりすぎると逆効果。
「企業が台本を書いて渡しているのでは」?別の不安が生じてしまうようだ。
さらに、いろいろな効果を示す「写真」についても厳しい目でチェックしている。
「中国メーカーの紹介では、かなり誇張された写真が使われることがある。例えば使用前の写真はすごく肌の質が悪いのに、使用後は滑らかな肌になってる。その差があまりにも大きいと作り物感があります」(馬さん)
なかには明らかに加工写真のようなケースもあるようで、そうしたチェックは欠かせないのだという。
さらには投稿者が商品を持っている、もしくは並べている写真などに対しても注意が必要。「時々不自然なくらいきれいに並べられている、もしくは商品のロゴが見えるように並んでいる投稿」に関しては、そこに広告性を感じるという。
理屈としては、投稿者が普段使っているもの、普段使っている物を生活の中で紹介するのであれば、これ見よがしにきれいに並べるはずがない、という思考なのである。
簡単に言えば、商品の紹介に生活感が見えるかどうか、ということになるだろうか。
本投稿以外のチェックポイントにも気は抜かない
「投稿の内容もですが、投稿に書きこまれているコメントもチェックします」というのは前出の毛さん。
上述のように、中国のSNS投稿内容に対しては注意深くみているものの、それが常に追いつくとはいいがたい。
その場合のチェックポイントとして、投稿につくコメント内容の確認をしているのだという。
例えばあるお肌悩みを紹介し、その中である商品が登場したとする。当初は広告性を感じずに読んでいても、最後のコメントで「これ宣伝だよ~」といったコメントが書きこまれていると、「すぐに冷静になる」(毛さん)。
自分が見つけられなくても、他のユーザーが見つけてくれる。そんな一般ユーザーの連帯感などがあるのかもしれない。
特にSNS投稿をECに誘導するリンクなども、あからさまに投稿内に入れ込むよりは、コメントでフォロワーの質問に答えるように表示されると「安心して開いてみようと思う」(毛さん)という。
どうしても投稿内容そのものに気を使いそうになるが、その投稿にどういったコメントが付き、投稿者とフォロワーがどういったコミュニケーションを取っているか。
その上で、書かれている情報を信じるか否かが決まるようである。
実はこの取材では、インタビューに応じてくれた中国消費者誰もが取り留めも無く話をしてくれた。それだけSNS上の広告性を見極めることに神経を使っていることであり、中国消費者にとってSNS投稿の広告性を見極めるというのは、一つの「学問」に近くなっている。
そうした状況に対して、日本では冷ややかな目で見る人も少なくない。「中国は偽物が多いから…」といったネガティブな評価だけをする人、論調もある。
しかし、ここで理解しておかなければならないのは、中国の消費者が欲しがっているのは「本当に自分に合っている商品」、「本当に効果のある商品」、「本当に安心して使える商品」なのであって、企業が売りたい商品というわけではない、という当たり前の感情。
「企業である以上、商品を買ってもらわなくてならないし、そのための広告も必要」。
取材中、ある消費者こう語る。中国の消費者も企業が広告を打つことを否定しているわけではないのである。
大切なのは、企業がこうした中国の消費者が持つ当たり前の思いを理解し、尊重し、それに寄り添うことができるかなのではないか。
多くの広告が流される中、中国の消費者が求めているのはそんなメッセージなのかもしれない。