【column】どう動く?2020年の中国人訪日観光客(後編)
中国のSNS上で見かける、「東京オリンピック観光」に消極的な書き込み。海外旅行先人気No1であり、そこで世界的なビッグイベントが開催されるというのに、開催国としてはいささか寂しい限り。
ではそれはなぜ起こりえるのか、今回はデータとは別の視点、中国消費者の価値観から見ていこう。
スポーツ意識は日本よりも低い
まず、中国の消費者が「オリンピックにどこまで価値を感じているか」という点であるのだが、実は中国ではスポーツに対する意識はあまり高くない。
それには、やはり特有の社会背景がある。
日本だけではなく、世界のどの国でも、多種多様なスポーツが開催されており、そのほぼすべてに「ファン」という者がいる。
日本を例にとれば、一般生活とスポーツの距離が近い。それは小学校の体育の授業から始まり、中学校・高校の部活動、大学のサークルなどと学生生活について回り、社会人チーム、プロ、というルートが見えている。
また就職においても「野球部にいました!」、「ラグビーやってました!」といった、いわゆる体育会系の経験も高評価を得ることもある。
こうしてスポーツに接してきた人たちは、マイナーなスポーツで競技人口が少なくても、「以前接していたので見に行きたい!」というガチなファンがいることも少なくない。
しかし中国では全くの逆である。スポーツ経験が就職で有利になることはまずない。重視されるのは大学名とそこでの学位、専攻である。
そのため小学校低学年まで、ちょっとしたテニスサークルやスイミングスクールに通わせることは合っても、社会人になっても続けるという人はゼロに近く、また辞めたとはいえ自分のやっていたスポーツへ親近感がり試合場に足を運ぶという人もまずいない。
そうした意味では、スポーツの祭典「オリンピック」は、見に行こう!という魅力が弱く感じられてしまう。サッカーのように完全にビジネス化されたり、バレーや卓球、体操のように国策として強化されたり、またかつての飛び込みのようにアイドル選手が登場したりすれば注目はされるが、「高いチケット代を払ってまで行くファン」というのは、やはり少ないのである。
財布の紐が非常に硬い中国消費者
もう一つは、中国の人が「お金を使うor使わない」という判断基準と日本人気の背景である。
日本ではどうしても「爆買い」のイメージがあるため、多少の価格上昇は気にしない、「高くてもいいものは買う」といった理解をしている人が多いが、実はそれは必ずしも正しくはない。
筆者の見るところ、中国消費者は中間層、富裕層に限らず、お金を使うことに関しては非常に慎重である。
例え経済的に余裕がある富裕層であっても、例えばニセモノや質の悪い商品を買わされた場合はもちろんのこと、原価で買った直後にその商品がセールで安売りされたと知った場合などでも、いかに払った金額が安くとも「損した!」気分を害するであろう。
簡単に言えば「無駄にお金を使いたくない」のである。
この無駄、というのは、自分が価値を感じないものにお金を使いたくない、という意味でもある。商品価値と支払う金額のバランスを、非常に厳しく判断しているのである。
日本への旅行で「爆買い」が人気を博していたのは、ひとえにこの価値感覚にマッチしていたという点があった。
中国の消費者に話をすると決まって返ってくるのは「日本のものは品質がいい。そして安い!」という言葉である。
中国での消費者インタビューで感じるのは、「日本で買い物をする=バーゲンで買い物をする」という感覚に近いのでは、と感じる事さえある。
つまり日本の強みである「ハイレベルなものを低コストで生産、低価格で販売」という部分が中国消費者の「コストパフォーマンス意識」に刺さっているといっていい。
しかし東京オリンピック時にはいろいろなものが値上がりする。さらに人も多く、普段並ばないような場所も並ばなくて行けないかもしれない。それは東京に行く魅力を下げる、すなわち価値が下がるのである。
導き出される結論としては「普段、もっと安くいけるのに、わざわざ高い時に普段よりも良くない状況の場所へ行くことはない」ということになるだろう。
上記、2つの理由から中国の消費者が「東京オリンピック観光」に「お金を使う」ことついて、消極的になるのは自然なことだと考えていい。
オリンピック用ハードウェアを今後に
では、東京オリンピックは中国消費者向けの観光誘致に無意味なのか?というと、そうではない。今回の東京オリンピックは、“これから”の観光誘致に大きなメリットを有している。
それを解くヒントは中国のSNS上に書き込まれた「オリンピック後を狙っては?」のはというキーワードである。中国では「錯峰(ラッシュアワーを避けるという意味合い)」などといったキーワードで表現されるが、
理由は価格が下がり、人込みを避けられるという点であるが、もう一つは「オリンピックによって日本のインフラがアップデートされている」という点である。
東京を含めた多くの観光地で、オリンピック・インバウンドに向けてホテルの改装や公共交通機関のリニューアル、そして外国語の看板の整備が行われている。
2019年11月1日は東京の繁華街ながら迷路のようだった渋谷駅地下の表示がリニューアルされるなど、アップデートが進んでいる。
こうした外国人観光客向けに新しくなった東京や日本のインフラ、サービスを享受できる、しかもオリンピックシーズンよりも安く、というまさに日本の観光インフラが中国消費者の思い描く「日本の安くて“より”いいもの」へと変化したということができる。
今後の訪日観光は、こうした中国消費者の望む「コストパフォーマンスの良さ」を打ち出していくのも手だろう。