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中国消費者「買った」日本商品ランキング2019 ~クチコミ増も喜べない事情とは?~

2019年も残すところあと1カ月余りとなった。

思い返せば、今年は中国経済の停滞、米中貿易戦争、香港のデモが日本のメディアを騒がせ、またミクロな市場では『電子商務法』が施行されるなど、日中間のビジネスに少なからぬ影響を与える出来事が多かった。

そんな中で、中国の消費者はどんな日本の商品を購入し、それをSNS上で発信してきたのだろうか?

中国トレンドExpressでは中国クチコミデータバンク・トレンドViewerの2019年1月第1週から10月最終週までの「買った」クチコミランキングを抽出し、2019年「買った」年間ランキングを作成。2018年および2017年同期と比較し、中国消費者の人気傾向の変化を探った。

今回は全体の俯瞰からみていこう。

■データ
トレンドViewerに収録されている「買った」クチコミランキングデータから「2019年1月2日~1月8日」週より「10月23日~10月30日」週まで、合計43週間分のデータを、期間集計機能を利用し抽出し整理、作成した。

クチコミ件数1000万件超えで、より注目を集めるジャパンブランド

まずは2019年のクチコミ件数全体を見ていこう。

【グラフ】2019年10月最終までのトレンドViewerクチコミ総数とその推移

トレンドViewerに登録されているクチコミ件数は2017年から増加を続けており、2019年10月最終週の時点で総計1019万1624件と、1000万件を超えた。

このことから、日本商品への注目、関心は引き続き高まっていることが見て取れる。

【グラフ】2019年トレンドViewerクチコミのセグメント比率

全体の構成比率は昨年と大きな違いはない。「コスメ・美容」セグメントが全体で約46%と最も大きな比率を占めている。

やはり基礎化粧品を主力とした「コスメ・美容」、サプリメントを含んだ「衛生・健康」、そしてかぜ薬などの「医薬品」が人気セグメントとして、多くの商品が買われクチこまれている。

 

またそれぞれのクチコミ総数と前年比の伸び率を見てみよう。全体では平均35%の伸びを見せている。

【グラフ】各セグメントごとのクチコミ件数と伸び率

最大人気の「コスメ・美容」に関しては40%の伸び、「ファッション」セグメントにおいては、クチコミ総数そのものは決して多くはないが、昨年に比べ50%の伸びを見せている。

また「食品類」セグメントも、お菓子人気が好調で昨年比42%の伸びと「コスメ・美容」セグメントと同等以上の伸びを見せている。

 

化粧品に関してはこれからも中心的存在となっていくことが予想されるが、こうしたクチコミ件数が大きな伸びを見せているセグメントは、すなわち中国消費者が注目度を高めている商品群であるため、来年の動向を注意深く見ていく必要がある。

 

中国トレンドExpressにおいても2020年の重点課題として動向を追いかけていく。

2連覇達成。上位陣安泰の中で気になる変化も

では2019年、中国消費者に「買った」とつぶやかれた人気商品はどの商品だったのだろうか?その変化を見るために2017年のTOP20と合わせてみていこう。

【グラフ】2017年~2019年「買った」クチコミ年間ランキング

  2019年 2018年 2017年
1 ピジョン 薬用ローション(ももの葉) ピジョン 薬用ローション(ももの葉) サンテFX
2 口内炎パッチ大正A サントリーシングルモルトウイスキー 山崎 龍角散ののどすっきり飴
3 龍角散ののどすっきり飴 口内炎パッチ大正A スクワクレンジング
4 サントリーシングルモルトウイスキー 山崎 雪肌精 白い恋人
5 TSUBAKI moony ロリエ エフ しあわせ素肌
6 白い恋人 メガネクリーナ泡シャンプー ガム・デンタルブラシ
7 ソフィーボディフィット軽やかスリム ベイビッシュ うるおいマスク 薬用スキンコンディショナー エッセンシャル
8 スクワクレンジング 白い恋人 雪肌粋 ホワイト洗顔 クリーム
9 満腹30倍 馬油ナチュラルミルクローション キレイキレイ 薬用ハンドソープ
10 ポリベビー スクワクレンジング 雪肌精
11 毛穴撫子 お米のマスク メガネクリーナふきふき 液体ムヒベビー
12 カットコットン 液体ムヒベビー moony
13 SUQQU アイシャドウ 雪肌粋 ホワイト洗顔 クリーム メガネクリーナふきふき
14 シャツクール サンテ ボーティエ パーフェクトホイップ
15 馬油ボディーソープ ソフィーボディフィット軽やかスリム 夜遅いごはんでも
16 サロンパス30 UREA 尿素10%クリーム 口内炎パッチ大正A
17 プレミアムプレサ ビューティーマスク コラーゲン 大人のカロリミット 新コンタック かぜEX
18 ロリエ エフ しあわせ素肌 ロリエ エフ しあわせ素肌 エッセンシャル エアリーモイスト トリートメント
19 メガネクリーナふきふき 象印 魔法瓶 キッカ メスメリック リップスティック
20 クリアクリーン ホワイトニング ポリベビー サンテ ボーティエ

今年の「買った」クチコミ件数1位は昨年に続いて「ピジョン 薬用ローション(ももの葉)」(ピジョン)となった。それに続く2位は「口内炎パッチ大正A」(大正製薬)、3位は「龍角散のどスッキリ飴」(龍角散)、4位には「サントリーシングルモルトウイスキー山崎」(ビームサントリー)となり、昨年の上位陣が若干順位を入れ替えての登場となった。

 

このように上位陣の一部は安泰ではあったが、5位に資生堂の「TSUBAKI」がランクイン。5月の美容博覧会でも気になっていたが、中国消費者の「ヘアケア」ニーズの高まりを感じさせる結果となった。


▼参考記事
中国化粧品市場のこれからを探るべく行ってきました「美容博」!


全体としては、ついに日系スキンケア化粧品の王者でもあった「雪肌精」がTOP20から姿を消した。それによって化粧水・乳液の類はTOP20には無くなり、フェイスマスクの「毛穴撫子 お米のマスク」(石澤研究所)、「プレミアムプレサ ビューティーマスク コラーゲン」(ウテナ)がTOP20のランク外から急上昇を果たしている。

 

しかし、それ以外の大部分が「実用性」の強い商品が「買った」クチコミランキングの上位を占めているように見える。

 

また同セグメントでもブランドチェンジの気配もみえる。2017年時点ではダイエットサプリメントとして「夜遅いごはんでも」であったが、2018年には「大人のカロリミット」(ファンケル)、そして2019年には「満腹30倍」(グラフィコ)へと移り変わっている。

 

こうした上位商品がどのようなクチコミをなされているのか、どこが人気となったのかなどは、次回詳しく見ていきたい。

進む「淘汰」。日本商品の生き残りに必要なのは

さて、今回のデータをまとめている過程で少し気になる内容があった。それはトレンドViewerに収録されている「商品数」である。

 

2017年の数値を見てみると543種類の商品が登録されていた。しかし、2018年には504種類、そして今年は486種類と、2017年と比べると約10%の減少となっている。

 

しかし前述のようにクチコミ総数は増加を続けており、2019年を2017年と比べると60%近い伸びを見せている。

 

クチコミ件数の推移にクチこまれている商品数の推移を重ねると、以下のようになる。

【グラフ】クチコミ件数と商品数の推移

クチコミ件数の大きな増加をしつつも、WeiboなどのSNS上でクチコミをされている商品の数は年々減少しているのである。

さらにセグメントごとの商品数を見てみると、どこか1セグメントが減少しているのではなく、大部分のセグメントにおいて減少している。

【グラフ】セグメントごとの商品数の推移

もちろん、減少した具体的商品、新たに加わった商品などがあり、それらをすべて確認してみないと確たることは言えない。

 

そのためあくまでも仮説にしか過ぎないが、かつて爆買い時代、すべての日本商品が珍しく、手を伸ばしていた中国消費者が、接触する情報が増えるなかで徐々に「自分たちにとって必要と思われる商品」のみへ関心を示しているかのように思われる。

そして、そんな消費者の間での知名度、話題が高まる、もしくは意図して高める商品にクチコミが集約されていき、知名度が低く、話題に乏しい商品は消えていく―。

そんな淘汰が行われているのではないだろうか。

 

考えられる背景には日本ブランドの消費者とのコミュニケーション濃淡、日系ブランド内のみならず欧米ブランドとの競争、台頭する中国系ブランドなど、これまた枚挙にいとまがない。

しかし一つ言えることは、SNS上のクチコミを常に収集・分析行くことによって、こうしたマクロな市場環境を把握、そしてそれによる中国消費者の心の変容を知り、適切なアクションを起こしていくことが、以前にもまして重要になっているということである。

 

『孫子』には「名君賢将の動きて人に勝ち、 成功、衆に出ずる所以のものは、 先知なり」(用間篇)との言葉があるが、まさに他社、多ブランドに抜きんでて成功を収めるには、「先んじて情報を得て」行かねばならない。

そんな情報取得戦が2020年には展開されることになりそうだ。