【事例】台湾インバウンドは中国と違う?「訪日旅行」ソーシャルビッグデータで台湾人旅行客のインサイトを探る ~基礎編~
日本の女性誌では毎年のようにおススメの旅行先として取り上げられる「台湾」。中国向けマーケティングでは「中華人民共和国」のみならず、「台湾」のSNSもデータ分析の対象です。
本編では、もう一つの中華圏である「台湾」からのインバウンド旅行客についてソーシャルビッグデータをもとに分析し、台湾人の「旅行」「訪日旅行」に対するインサイトをご紹介します。
まずは台湾についての基本知識をおさらいしましょう。
- 通貨は「NTD(ニュー台湾ドル)」。
- 中国(中華人民共和国)では「台湾省」として行政区分が設けられています
- 香港、マカオと同列の扱いで、中国国内でありながら、パスポートは中国大陸とは異なります(入国先の国家の査証の要不要も異なる)
- 台湾では中国とは異なり「繁体字」(日本で明治時代まで用いられていたものと同じ)が使われていますが、文法や基本的な語彙は中国語と同じです。ただし、ものによっては違う単語になっていることもあります(例えば、「自転車」を表す単語は台湾と中国では異なります)
- 中国の「福建省」(ウーロン茶で有名)の向かい側に位置します。日本から見ると沖縄の先に位置し、海に囲まれているため気候も沖縄に似ています。
- 中国では閲覧が事実上不可能となっているFacebookやYouTube、Twitterといったインターネットサービスですが、台湾では問題なく使えます。
▼中国でのVPN利用に関してはこちらの記事をご覧ください
つまり、地理的には中国の一部分のようでいて、政治制度、経済は異なる地域ということになります。
言語はほぼ中国と同じ、風土は福建省の一部と共通していますが、島ですので気候等また少し条件の異なる部分もあります。
1.クチコミ基本情報、人気は〇〇とBBS
昨年、台湾からの訪日客数は前年比20%となっていました。今年2017年に入り、前年比の増加率は一けた台にとどまっています。7月、8月のJNTOの発表した推計値では10%を超える結果となっていますが、それでも昨年の伸びには及びません。
今年の旅行者の減速には何か要因があるのでしょうか? ソーシャルビッグデータであるSNS上のクチコミから、現状を確認し、さらには台湾人の海外旅行、日本旅行に対する期待を掘り下げてみたいと思います。
【調査概要】
対象:ニュース、コラム、掲示板、ブログ、FBファンページとQA型サイトの中における訪日旅行に関する内容全般
キーワード:日本旅行に関する「交通方法」、「旅行攻略」、「スポット」、「旅行会社」、「ホテル」、「日本と一緒に言及した国」、「飲食関連」、「文化関連」、「ショッピング」、など合計10種類602組のワード。
調査期間:2016/01/01~2016/12/31の1年間
まずはクチコミの集まるSNS、プラットフォームを確認してみます。「日本旅行」に関するクチコミは、主にFacebookが多く全体の50%を占め、続いて掲示板が40%程度となっています。平均コメント数もそれぞれ15.51件、10.36件とユーザーの発言が活発であることがわかります。
調査対象期間において、クチコミ件数が多かった順にページを並べると以下のようになります。
TOP10サイト | 口コミ量 | 比率 |
---|---|---|
日本藥妝失心瘋俱樂部(Facebookページ) | 106,319 | 23% |
PTT_Japan_Travel(掲示板) | 84,151 | 18% |
PTT_Gossiping(掲示板) | 56,513 | 12% |
日本自助旅遊中毒者(Facebookページ) | 41,730 | 9% |
日本人の日本旅遊指南(Facebookページ) | 20,749 | 4% |
日本旅遊情報局2(Facebookページ) | 15,706 | 3% |
PTT_WomenTalk(掲示板) | 14,822 | 3% |
日本打工度假就職專家(Facebookページ) | 11,678 | 2% |
日本旅遊活動 VISIT JAPAN NOW(Facebookページ) | 10,077 | 2% |
LineQ | 9,984 | 2% |
その他 | 98,229 | 21% |
上位3コミュニティで半数を占めていることが分かります。
全体に占める割合は40%にも上り、TOP10サイトの上位にも表れている「PTT」とは何でしょうか? 実はこれは台湾版の2ちゃんねる(現5ちゃんねる)ともいわれる、台湾で人気のインターネットサービスの一つです。ユーザーはテキストと写真を投稿することができ、記事の下にはコメントが追加されていきます。
▲PTT「Japan_Travel」の最新記事を表示させた画面のキャプチャ(2017年10月6日)
▲「一人での海外旅行はいいと思いますか?」という質問についた回答。投稿者は沖縄に行くか関西に行くか悩んでいる。
▲調査結果の中でクチコミ件数が最も多かったFacebookページ
2.台湾人の日本旅行、クチコミにあふれる「食」への期待
続いて、こういった人気コミュニティにおけるクチコミの特徴について紹介します。
ポジティブ評価が多い
調査期間中の日本旅行に対するニュートラルな評価(直接的な日本旅行への良し悪しを判断できないコメント)を除いた、ポジティブとネガティブのコメントの構成比は、92%がポジティブとなっています。
台湾人の日本旅行に対する印象はかなり良いと言えそうです。
関連語は「食」、「街の清潔感」も高評価
次に、関連語から話題となっている「モノ」「コト」を探ります。
【ポジティブな話題のうち、言及数の多いワード】
1 | おいしい(好喫) |
2 | 行きたい |
3 | おいしい(美味) |
4 | 絶景 |
5 | 新鮮 |
ポジティブな話題ではトップ5のうち3つが食関連ということがわかりました。「日本といえば食を楽しむところ」というブランディングが確立しているようです
食以外では、街の綺麗さや清潔感をほめる関連語が見られたほか、買い物に対する高評価がうかがえます。
ネガティブ評価は「旅行の手配」に集中
では、ネガティブな話題では何に視線が集まっているのでしょうか。同じく関連語のトップ5から探ります。
【同じくネガティブな話題のうち、言及数の多いワード】
1 | がっかりした |
2 | 失望 |
3 | 油っぽい |
4 | 美味しくない |
5 | 不快 |
ネガティブ評価にも「食」に関するキーワードが頻出し、台湾人の訪日旅行への「食」に対する期待度が高いことがわかりました。
一方で、「がっかりする」というキーワードを深掘りすると、旅行予約サイトや旅行会社への不満が大半を占めており、日本の観光コンテンツそのものに不満があるわけではないこともわかりました。
旅行の準備段階での宿泊施設や交通機関へ不満を抱いたり、ツアー参加時に不都合を感じたりするようです。前者のようなクチコミは改善の策を練ることで減少していくかもしれません。
3.春は「お花見」、秋は「日本文化」「アクティビティ」、「現地生活体験」にニーズ
さて続いて季節別に、クチコミの話題に変化があるのか、以下のトピック別にクチコミ件数の継時変化を見てみます。
【トピック分類】
- 体験
- ショッピング
- 歴史
- レジャー(余暇を過ごす)
- 風景
- リラックス
- ファミリー旅行
- 花見(桜)
- 遺跡
- 自然景観
クチコミの総量でいえば春が圧倒的に多いですが、「体験」のクチコミは秋がもりあがっています。
春は「体験」「レジャー(余暇を過ごす)」「リラックス」に山ができています。「体験」は一年を通じて最も言及数の多いクチコミ分類ですが、このクチコミは秋には春以上に盛り上がり、特に10~12月が年間を通じてピークとなっています。
「桜の春」、「秋の体験」が日本旅行のメジャーなイメージとなっているのかもしれません。
体験には【文化体験】【アクティビティ・ツアー】【現地生活】【独自な旅行体験】が含まれます。内訳では、「日本の文化体験(着物、茶道など)」が最も多く、続いて「アクティビティ・ツアー(島体験、釣り体験)」、「現地生活(スーパー、現地の人と交流、鉄道に乗車)」、「独自な旅行体験(一人旅、ヒッチハイク、自転車など)」の順にクチコミが多くなっています。
まとめ
台湾人の日本旅行関係のクチコミは、総数を見ればFacebookに集まっていますが、コミュニティ別では2つの掲示板を含む上位3コミュニティで半数以上を占めることがわかりました。台湾のインターネット上のクチコミでは「Facebook」「PPT掲示板」が非常に存在感があるということがわかります。
また特に好評を博しているのが「食」「整備された町」「ショッピング」といったコンテンツという点も明らかになりました。
季節別では春は「花見」、秋は「体験型」のコンテンツに需要が高まることがデータから読み取れます。基本的に一年中気温が高く、また雨季があるなど戸外での活動に制限を受けるシチュエーションも考えられる台湾の生活と対比して、日本の秋は活動しやすくイメージされていることも関係しているのではないでしょうか。
「旅行者は自分の日常生活では味わえない体験を求める」という仮定のもと、台湾の常識を踏まえた上で台湾人旅行者のインサイトを探れば、リピーターの獲得や新たな客層の開拓が可能となりそうです。
今年の夏に前年同期比の旅行者増加率が回復傾向となった台湾からのインバウンド旅行客ですが、体験関連のクチコミが増えるこれからの季節、さらに旅行者数が増加するのかどうかに要注目です。