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興行総収入9500億円! 巨大映画市場の通弊にみる消費者の「ツボ」

昨年末に中国映画市場のデータを紹介しましたが、2018年早々に昨年の具体的数値が発表されました。それによると、2017年の興行総収入は559.11億元(日本円で約9500億円)に達し、過去最高を記録しました。今回はその映画業界の裏側を深堀してみようと思います。


▼参考

中国を数字で見る(3)成長すさまじい中国映画市場、個人制作映画も流通


過去最高の興行成績

2017年中国の映画市場状況

【グラフ】中国映画市場、興行収入の伸び

先ごろ発表された中国政府による2017年の映画市場状況。興行総収入は559.11億元、日本円に換算して約9500億円に達しています(ただしこの金額には消費者がネット上でチケットを購入する際に発生するサービス料が含まれます)。

この数字だけみれば好調な中国映画市場ではありますが、悩みが無いわけではありません。それは投資と収益のバランスです。

ガッツリ金はかけるものの……

国産映画興行成績トップ100作品の2017年末時点での興行成績と製作費・宣伝費を見ると、28作品が黒字、19作品がなんとか投資回収ができた程度。そして残り53作品はというと、なんとすべて赤字となっています。

約3億元を投じて興行収入53億元、映画会社も約21億元の収入となった『戦狼2』は高額投資が報われた作品となりました。また8,000万元の投資によって約18億元の興行収入、映画会社に7億元近い収入が転がり入り込んだ『前任3:再見前任』は、成功した作品と言えるでしょう。

しかし2017年12月22日に封切られた日中合作映画『妖猫伝(邦題:空海−KU-KAI− 美しき王妃の謎)』は、製作費およびプロモーション費用に3億6000万元を投じていますが、興行収入としては5億元を下回り、制作会社の収益も1.8億元と、大きな赤字が予想されています。

同作品は今年2月に日本でも公開されていますが、その行方も別の意味で気になります。

この現状の原因は多方面にわたっていますが、巨額投資に比した失敗例によくあるのが「見た目にこだわりすぎ、ストーリーがおろそか」というもの。

高額製作費合戦。「総製作費用〇〇億!」は中国のみならず、映画大国アメリカでもよく聞かれるキャッチコピー。これを聞けば多くの消費者の脳裏には、有名俳優、有名監督と製作スタッフ、有名脚本家…。「これだけお金をかけたなら、きっといい作品だろう」という期待を膨らませるもの。

しかし期待して見てみると、衣装や特殊効果などの映像美こそあれ、映画の楽しみであるストーリー性が乏しいことが多く、レビューサイトやSNS上に「映像“は”きれいだった」という論評が多く書きこまれます。これはすなわち「映像美以外に論評できるところがない」という意味をもっているのです。

低コスト高収益、まさに伝説の『石』

こうした中国の映画産業ですが、低コストで「当たった」例がないかというと、決してそうではありません。

2006年に封切られた『瘋狂的石頭(狂ったジュエリー)』は、製作費・プロモーション費合わせて300万元。しかし興行収入は2600万元に達したという、まさに中国映画界の伝説となった作品です。

『瘋狂的石頭(狂ったジュエリー)』

『瘋狂的石頭』は10年以上経った現在でも評価が高い伝説的作品

同作品は重慶市の小さな町で見つかった高額翡翠と、それによって地方創生を行おうとする町の人々のドタバタコメディ。また役者もこの作品に出演するまでは1本あたり300元という、通行人程度の役者などを多く起用。しかも全編を舞台となった重慶方言で演じていたため(中国の映画は標準語で演じるのがルール)、だれもヒットを予想していなかった作品でした。

それが、微博も微信もまだない当時、ブログなどから文字通りの口コミで広まり、大ヒットとなったのです。

生き生きと演じられた飾らない市井の人々、複雑ではないが起伏に富んだストーリーと、そこにちりばめられたテンポの良いコメディ、美しさはないが素朴な風景など、大型作品と真逆の路線をとったことが、人気となった要因です。

ちなみに同年は馮小剛監督の『夜宴』(主演:葛優)、張芸謀監督の『満城尽帯黄金甲』(主演:チョウ・ユンファ、コン・リー、ジェイ・チョウ)など、名監督と名俳優たちによる典型的な大型投資作品がラインナップされていましたが、いずれも消費者の期待外れだったようで、興行成績ともに芳しくなく、話題を超低コスト映画である同作品にすべてさらわれた形になりました。

この伝説の低コスト映画と近年の大型作品に対する中国消費者の反応を見てみると、多額のコストをかけて「ただ華やかな映像を見るだけ」よりも「他とは異なる視点のストーリー」、「豊かな人物描写の物語」といった、映画作品の基本こそが消費者の求めているものなのかもしれません。

参考:
国产电影的2017:谁赚了,谁又亏了?(出典:鳳凰網) 中国語

参考:2017年、中国映画市場興行収入トップ5

順位 タイトル 興行収入
1 戦狼2 56.83億元
2 ワイルドスピード8 26.94億元
3 羞羞的鉄拳 21.9億元
4 前任3:再見前任 19.24億元
5 功夫瑜伽 17.53億元