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中国人、「日本の漢方薬」爆買いの謎

漢方の発祥の地、中国。その中国人が最近では、日本で漢方薬を「爆買い」しているといいます。今年の春節(旧正月)、中国人旅行客が購入した医薬品ランキング50位に、「清肺湯ダスモック」、「龍角散」や「龍角散ダイレクト」、「クラシエ小青竜湯エキス顆粒」、「命の母」、「太田胃散」といった漢方薬もしくは生薬配合医薬品などが挙がっています。漢方薬の原材料となる生薬のほとんどが中国からの輸入によるにもかかわらず、彼らはなぜわざわざ日本で買い付けるのでしょうか。その秘密を探ります。

漢方薬大国・日本、その保証された品質

私たちは「漢方=中国」と捉えがちですが、実は別物に近いのです。

日本の「漢方医学」の起源は、中国の伝統医学にもとづく『中医学』。中医学を用いて処方される、生薬などの天然素材を調合したものを『中薬』(中医薬)と呼び、それがいわゆる「中国漢方」です(以下:中医薬)。

そして、その中医学の神髄を伝承するとともに、西洋医学と融合させ、データに基づいた効率的な治療効果を重視し、実践的かつ科学的に発展。加えて、日本の風土や日本人の体質、ライフスタイルに合った医学に進化したものが現在の「漢方医学」となるのです。

そうしたウンチクはさておき本題へ。

実は、日本は世界の漢方薬(日本漢方&中医薬)市場で90%という圧倒的シェアを誇る 「超漢方薬大国」であることをご存知でしょうか?ちなみに中医薬のシェアはわずか2%ほどですから、その差は歴然なのです。

日本の「漢方薬」が好まれるのはその品質の良さにあります。

確かに原材料となる生薬は中国からの輸入に頼っていますが、日本の製薬メーカーはその栽培過程において、化学肥料や農薬を極力使用せず、農薬残留物や重金属含量を抑えています。それら数値の基準は中医薬よりも厳しく、欧米諸国の基準値もクリア。現在では、生薬の国産化にも力を注いでいます。

さらに薬局方に収載されている220種余りの生薬と、処方エキス剤しか使えないよう非常に厳しく規範化されています。中医薬では12,800種余りの生薬を自由に調合できますが、日本の漢方では安全面と効果への保証に重点を置いたのです。

こうした規範化した品質基準、厳重な品質検査、標準化した生産技術により、一定の高い品質を保つ漢方薬の生産を実現しているのです(いかにも日本らしい)。

中医薬不信の中国人は、日本の漢方薬へ

ところが中国では「中国の医薬品は品質に問題があり、技術研究開発方面でも遅れが反映されている」と政府当局が表明したほど、中国漢方は世界基準を満たせず、市場に入り込めていません。原材料の栽培基準があいまいで、「農薬や肥料の乱用で重金属含有量が基準値を超えるような問題が多発している」との指摘も。

結局「自国の中医薬が基準外の原材料を使っているのでは?」と不安になり、安全かつ高品質な日本の漢方薬を買いに走るというわけです。医師によって調合がばらばらな中医薬の効果に信用性がないという意見もあります。

生薬とうつむく女性

現代化した漢方薬と現代化できなかった中医薬

さらに日本では、漢方の研究開発に対しての積極的な投資に加え、研究者の数も多く、製薬メーカーに従事する科学技術者は国内の化学技術者の60%(中国ではわずか3.25%)。

実は中国のほとんどの製薬メーカーは短期的な利益を重視する傾向があり、研究開発に対する投資不足が問題になっているのです。

日本では、薬剤の効果はもちろん、お茶のようにじっくり煮出して飲む中医薬の服用方法から早い段階で抜け出し、その効果を残しつつも、顆粒、錠剤、カプセル、シロップなど、服用しやすい剤型の研究開発も行っています。いつでもどこでも手軽に服用できる便利さが現代のライフスタイルに適合し、加えて、漢方ならではの苦みを改良した飲みやすい味も、中国人の間では評判です。次々と新商品が開発される日本の漢方市場は中国人にとっては魅力的に映るようです。

「日本」の漢方商材ヒットの理由は「中国っぽさ」?

さて、日本の漢方薬が中国でヒットしたのには、実はもう一つ別の要因があるようです。

中国でPR会社に勤務する中国人数人にインタビューしたところ、中国人にとってのヒット商品になるきっかけの一つに、「親近感」があるそうです。漢字表記の品名、中国の中医薬のイメージを持つパッケージや商品背景はその親近感が沸きやすいと言います。

その一例が、2017年の売上が前年比30%増の約110万個を記録した大人気の「清肺湯ダスモック」(小林製薬)。

「清肺湯」という漢字表記の部分から、日本語の読めない中国人でも、パッケージの肺のイラストと合わせて一目で何の薬か分かりやすい上に覚えやすく、なおかつ「SNSで伝えやすい」とのこと(気管を潤し、炎症を鎮める処方なのですが、タバコや空気汚染で汚れた肺を浄化すると勘違いしている人もいるとか)。

また、苦い粉末型から服用しやすいトローチ型まで取り揃うご存知「龍角散」。

その響きが中国っぽいと、SNSのクチコミで「龍角散」というブランド名が先行して拡散しましたが、粉末型が中医薬を彷彿させたことで、トローチ型の「龍角散ダイレクト」にも信頼感が増して人気商品となったそうです。

「大正漢方胃腸薬」(大正製薬)のパッケージは、その黄色のベースカラーで中国の「三九胃泰」に似ているせいか親近感が沸くそうです。また、品名に「漢方」と「胃腸薬」の漢字単語が入っている点も目が留まりやすいと言います。中医薬「六神丸」のベースに朝鮮ニンジンなどを加えて開発された「救心」も、元が中医薬なので、絶大なる信頼感があるとのことです。

なるほど確かに漢字表記の商品名、しかもひと目で効能がわかるネーミングはストレートに中国消費者に伝わるのでしょう。

日本の漢方薬に傾倒する中国人の本音

この漢方市場における不均衡。中国政府も重視しつつあります。

国営通信社の新華社が、「思いもよらなかった事実。中国の伝統文化の宝でもある中医薬の品質基準体系を整備し、品質を向上させることは急務」と報じたほど、政府は焦りを見せています。

またSNSでは、「中国はノーベル賞受賞で中医学を世界に証明したが、日本は中医学の経済競争を証明した」、「日本の中医学は中国の中医学に及ばない、しかし、中国の中医薬は日本の漢方に及ばない」、「たくさんの宝が現代化されていない、中国は努力すべきだ」と、爆買いをしながらも、冷静に現状を直視している中国国民の姿が見られます。

こうした動きが日中間の良い意味での競争を促し、双方でより良い製品を生み出すことにつながってもらいたいものです。

参考:
「漢方医学と西洋医学の融合」(出典:株式会社ツムラ)
「尴尬!日本靠中药赚光全世界的钱,我们却还在为中西医谁正宗打架!」 中国語
「日本汉方PK中国中药,当真一败涂地吗?」 中国語
「日本加速推进中药材国产化 日企称中国中药资源10年后恐枯竭」 中国語