【中国子育て】中国女性のお悩み相談室(5) ~母としての出産・子育て、大切なのは…?~
中国で男性女性問わず、既婚者にとっての悩みは「子供」。子供を産む、育てるは日本でも多くの悩みを抱えるものですが、中国は日本とはやや状況が異なっています。今回は中国の女性たちの「子供」に関わる悩みを見ていきましょう。
これまで同様、全体の悩みに対する比率を見ていきます。
【グラフ】中国の女性の悩みの比率
これを見ると、「子供を授かる悩み(出産)」、そして「子供を育てる悩み(教育)」が大きな比率を占め、合わせると30%近い数値になっています。
子供は欲しい、けれど……
では、具体的な悩みを見ていきましょう。まずは出産に関しての悩みから。
【グラフ】「子供×ほしい」のキーワードランキング
まず彼女たちが気にしているのが、「将来生まれてくる自分の子供が男の子か、女の子か」です。
これはまず伝統的な観念からの悩み。中国では徐々に社会通念が変わっているものの、年配層はいまだ古い価値観が多く残っています。
特に地方では「家を継ぐのは男子たるべし!」という意識から男の子を望むケースが多く、夫婦のどちらかが地方都市や農村出身の場合、妻に対する「男の子出産プレッシャー」が大きいといった悩みがSNS上には散見されます。
思えば、1人っ子政策が撤廃される前には「1人目が女子の場合に限り、2人目の出産を認める」といった特例もありました。
もう一つはやや遠いのですが、より現実的な悩み。
というのも、中国の習慣では結婚する際に不動産を買うというのが、いまだ残っています。そしてその場合、新郎側が多くを負担するというのが原則で、基本的には新郎がその両親の支援を受けて頭金を用意することになっています。
ということは、「男の子が生まれた場合、将来的な負担が大きい!」と考える人も多く、「できれば女の子に…」といった書き込みや、「2人目も男の子。旦那にはガンバって金稼いでもらわないと…」といった嘆きがWeiboなどに見られます。
このように、子どもの性別が家庭の運命を決めるといった意識が強く、主に地方において母体の健康や法律を軽視した堕胎などが起こったことから、中国では妊娠時に子供の性別鑑定、父母への告知を禁止しています。
また、日本では難産時においては基本的に「母体優先」を原則とする病院が多いのですが、中国の場合は家族の意思によるところが多いようです。「私が苦しんでいたのに、旦那とその親は考えもせず“子供優先で!”って叫びやがった!!」というママさんの怒りを込めた書き込みが、SNSやレビューサイト上に見られるのはそのためです。
もちろん母として自分の子供への愛情は強いのですが、大変な思いで生んだ女性にとって、そうした家族の「冷たい」言葉は、怒るに十分な理由でしょう。
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教育は戦い。消耗する女性たち…
さて、子どもが一定の年齢になったら、考えなくてはいけないのが「教育」。日本では義務教、やや早い人でもそれより少し前の幼稚園から、いろいろな教育を受けさせるケースが多いかと思います。
中国でも幼稚園選びなどはありますが、ご存知の通り超学歴社会の中国では、「子供をスタートラインで負けさせない!」という言葉が依然として根付いており、多くの家庭では「生後〇か月からの英才教育」を始めるケースがあります。
こうした現象、日本でもゼロではありませんが、あくまでも「個別の話」。しかし、大学入試の成否で人生が決まる中国では、「普遍的な通年」。中国の子供は生まれたその瞬間、いえお母さんのお腹の中にいるその時から「大学入試」のための戦いが始まっているのです。
中国の大都市で、ヨーロッパ製の「知育玩具」が売れているのはそのためなのです。
【グラフ】子供の教育に関する悩み
このお悩みを見ると、お母さんたちの頭の中は「大学入試対策」でいっぱい。よりよい学校選び、
「択学費」や「学区房」といった言葉を聞いたことはあるでしょうか?
中国は小学校、中学校は義務教育ですが、基本的には中高一貫であることが多く、中学校を6年制とみることもできます。ということは、大学入試に向けた6年間となるわけで、自然と学校選びに熱が入ります。
基本的には学区が決められており、その居住地学区内の中学校に入ることになりますが、「もっといい学校へ!」と望む場合、自身の学区以外の学校に入学申請を行うことができます。しかしその場合、入学を希望する学校に対して別途入学金を支払わなくては行けません。これが「択学費」と呼ばれるものです。
大都市では基本数万元(日本円で5~60万円)なのですが、中には「某有名高校の択学費、10万元(約170万円)だって!」といった悲鳴や皮肉がWeibo上に現れます。
ちなみに上海市内の有名学校の教師に話を聞いたのですが、「父兄の申し込みが殺到し、学校のキャパシティでは対応できない。だから応募者数を制限する意味で択学費を設定している」との回答。学校側にも悩みはあるようです。
「学区房」は、有名学校の指定学区内の不動産のこと。子供を有名学校に入れるために、その学区内に不動産を購入して転居、住民票を移す保護者が多いのです。
そのため有名学校の学区房にある不動産は、たとえ古くても非常に高額であるケースが多いのです。
また入学後は、学校や教師への付け届けも大事なポイント。少しでもテストの成績をよくしてもらおう、もしくはなるべく人より多くの内容を教えてもらおうと、担任に対して付け届けをする習慣があるのです(実際に付け届けの内容で教師の子供に対する態度がちがうのだとか)。
Weiboやレビューサイトにも新米ママさんから「幼稚園の先生への付け届けって、いくらぐらい?1000元で足りる?」などといった質問や「先生に付け届けをしなかったお母さんと子供の末路…」といった体験談が公開されています。
いずれにせよ、中国の母親としての悩みは、しつけなどではなく、子供の将来的な学歴とそのために費やす金額なのです。
中国特有の「教育と戸籍」の悩み
注意が必要なのが「戸籍」という悩み。
中国の大学入試は大学や省ごとにボーダーラインが決められています。そしてそのボーダーラインは、省の教育条件「など」によって異なっています。
また学生は試験を「戸籍所在地」で受けることとされており、その戸籍所在のボーダーラインによって点数が変わります。
そのため上海で高校に通っていても、戸籍所在地が地方である場合、その土地まで行って試験を受けねばならないのです。
ただ一番の問題は、北京や上海のボーダーラインが低めに設定され、地方はかえって高めに定められていること。
これは優良大学のある大都市への人口流入を制限する歴史的な政策の名残ですが、現在これらの大都市では地方出身者の子供たちも多く上海で学んでいます。彼らにしてみれば、同じように上海で学び、同じ大学に入ろうとしても、上海戸籍の子供は大学に入りやすく、地方出身者はより高い点数でなければ入れない。そんな不公平感があるのです。
また地方の場合はボーダーラインが高く設定されているため、学校でもより高いレベルの教育を行おうとします。そうした状況を利用し、大都市の子供がボーダーラインの高い省の学校で教育を受け、大学入試の時だけ戸籍所在地であるボーダーラインの低い大都市に戻って受ける、といった行為もあります(「高考移民」といいます)。
こうした制度、徐々に改善の方向に向かっているようですが、完全な制度改革で彼女たちの悩みが解消されるにはまだまだ時間がかかりそうです。
次回、中国の女性のお悩み最終回は、中国女性の恋愛・結婚。そしてファッションの悩みについても見ていきたいと思います。