中国トレンドExpress

【越境EC】「618」中国EC商戦の戦い方② 中国ECはLove Live! KOLとの切れない関係

前回、まもなく訪れる「618」についてご紹介しました。今回は越境EC市場で存在感を放つ、消費者アプローチについて考察してみたいと思います。それは「ライブ」。2017年はEC×ライブの動きが急加速していった年となったのです。

2017年の618。「主催者」であるJDは6月1日から20日までの累計売上が1000億元を超え、過去最高を記録しました。

またそれ以外のECサイト、アプリでも高い売り上げを上げましたが、そこで大きな役割を果たしたのがライブ配信による商品紹介でした。

「それって前からあったでしょ?」

とも思われるかもしれませんが、ライブ配信がECサイトと戦略的に提携し、高い成果を上げたのはこの2017年618がモデルケースとなったのです。

人気アーティストたちによるライブをライブ

JDは「12時間ライブショー」と銘打ち、6月17日お昼12:00から24:00まで、文字通り12時間にわたるライブショーをアプリ上で開催しています。しかも登場するのはアンジェラ・ベイビー、実力派シンガーの楊坤、日本では「欧陽菲菲の姪」として知られる美少女チェリストの欧陽娜娜(Nana)など、錚々たるメンバーが揃っていました。

このイベントでは人気アーティストのパフォーマンスのほか、視聴者とのイントロクイズに加え、適度に商品の紹介を挟むといった方法で消費者を囲い込み、商品購入につなげるという試みが行われました。

さらに、その模様は捜狐視頻などの動画サイトや今日頭条など動画視聴可能なニュースアプリなどとも連動し、より多くの消費者にアプローチ。ライブショー終了と同時に「6月18日」が到来し、2017年618最高潮を迎えたというわけです。

JD「12時間ライブショー」

トップKOLライブ配信の販売戦略

2017年の618において、こうしたライブを大規模に活用したのはJDでだけではありません。そのライバルにして中国EC業界最大手Taobaoも同様にライブコマースによる施策を展開していました。

Taobaoは中国ライブ配信3大企業の一社「一直播」とタイアップ。コスメにターゲットを絞り、KOLがライブ上で紹介する商品を直接Taobao上で購入できるというシステムを導入しました。

イベントでは6月18日から20日までの3日間、200名に上るKOLたちが累計859回のライブ動画を配信。視聴数は4億を超え、そこからの商品購入率も7.6%(通常は3%程度)と、高い数値を記録。特にファッション系カリスマKOL3人の投入が大きな反響を呼びました。

【参考】「一直播」が2017年618に起用したカリスマKOL

・貢一(Weiboフォロワー:287万9436人)

貢一(Weiboフォロワー:287万9436人)

・帕麗扎提Parissa(Weiboフォロワー:250万9580人)

帕麗扎提Parissa(Weiboフォロワー:250万9580人)

・Sasaaaa(Weiboフォロワー:227万3601人)

Sasaaaa(Weiboフォロワー:227万3601人)

ここで重要なのは、消費者は「一直播」のアプリでライブを視聴しながら、購入する際には別アプリ(Taobaoのアプリ)を立ち上げることなく、Taobaoで購入できたこと。ライブ専門アプリとECアプリとの連動によって、高い成果を上げることができたのです。

新世代の若者たち向けに、EC×ライブの本格化 

こうした成果からJD、Taobaoだけではなく、各EC業者でもライブ配信による販売を強化。同年のW11などでも活用し、2017年は「EC×ライブ」が本格化した最初の年ともいわれるようになったのです。

中国のライブビジネス元年と言われた2016年。当時はまだ、ネット上で美女とお話しをして、視聴者(もちろん男性)がリアルタイムでお小遣いとして女性にプレゼントをする、というものが主流でした。

しかしそれからすぐ、ライブ上で商品を紹介して販売するというシステムが登場。あっという間にKOLと呼ばれ、月に数億元もの売り上げをたたき出す、カリスマ・インフルエンサーが君臨するまでになりました。

ではなぜここまでライブによるプロモーションが広まったのでしょうか?

それにはいくつかの社会背景が考えられます。

まずはよく知られている企業広告に対する不信感。中国消費者にとって企業広告は「売りつけるための情報」という意識が強くあり、さらに2000年代に入ってから、国内大手企業の品質問題などが明るみになるなど、企業の商品や所品広告に対する信頼感は大きく低下しました。

それと比して「誰かが使ってどうだった」という生の声、すなわちクチコミは信頼度が高く、かつより多く人からの信頼を得ているKOLという存在の感想は非常に大きな影響を持つことになるのです。

もう一つ、日本企業が注意を要するのは「消費主力世代の交代」です。

これまで新しい感覚を持った消費者として「80後(80年代生まれ)」や「90後(90年代生まれ)」といった世代が注目されてきましたが、現在、「95後(1995年以降生まれ)」が新たな消費者として注目され始めています。

「90後」とはわずか5年の違いなのですが、教育や消費者研究の専門家からは、その社会的背景に「大きな違いがある」と指摘されています。

最大のポイントは、SNSに囲まれて育ったという点。中国SNSの代表ともいえる新浪微博(weibo)が登場したのが2009年。その時、95後の第一世代は14~15歳。微信(WeChat)が登場した2011年の時には高校生。そして中国で自由を謳歌できる大学生の時には、両者は中国の情報世界を束ねる存在へとなっていました。

そのため、彼らの情報源はすべてSNS。企業による広告発信ではなく、「誰かの感想」によるところが大きく、というよりは、それが「すべて」になっていたのです。

同時にECに囲まれて育った世代でもあります。Taobaoが誕生したのが2003年。さらにその中の内のメーカー直販サイト「淘宝商城」が「天猫」へと名前を変え、本格始動していったのが2012年と、同じように彼らは中国ECとともに成長してきました。

そうした「ECで消費することが日常」であり、かつ「口コミで判断することが日常として育った」彼らにとって、「EC+KOLによるライブ配信」というのは、まさに自然なつながりであったわけです。

今後はこうしたKOLたちによるライブ動画形式での訴求がメインになっていくと考えられます。そしてそれと同時にKOLマーケティング市場の整理(ルール付けなど)が行われていくことになるでしょう。

もちろん、日本を含めた海外メーカーによる対中国市場向けプロモーションにおいても同様。

今後は95後などの新世代から支持と信頼を受けているKOL、ライブ配信ツールなどをきちんと把握していくことが必要になってくるでしょう。