中国二級都市で激しさ増す人材争奪戦のその先は
日本は現在、入社入学シーズン。日本ではまれにみる「売り手市場」となっている新卒人材ですが、中国でもその争奪戦が激化しています。今回はそんな中国の地方都市における人材争奪合戦、そして人材側の迷いを見ていきましょう。
人材争奪戦は大学生に白羽の矢が
中国全土で繰り広げられる熾烈な人材争奪戦。これまでは、ハイレベルな人材はキャリア成長の見込める上海、北京、杭州、深センといった一級都市に一極集中していましたが、去年から今年にかけ、南京(江蘇省)、武漢(湖北省)、成都(四川省)、西安(陝西省)、長沙(湖南省)といったいわゆる二級都市(各省の省都クラス)を筆頭に、ハイレベルな人材、とりわけ新卒者を呼び込むための政策が次々と打ち出されているのです。
それら政策のポイントは
① 「戸籍」—現地の戸籍が無条件で取得可
② 「住居」—家賃手当や購入特典
③ 「発展空間」—起業ローンや手当、オフィスの無償提供などの起業サポート
といったもので、人材側が望む要素に重きを置いて策定されています。
中国では、出身地の戸籍による居住や就労、教育、医療といった面での格差は縮小傾向にあるものの、依然として差別待遇が存在します。戸籍は人口移動の際の大きな障害ですが、それをクリアして転入させようという狙いです。
また、キャリアの将来性を重視する中国人がよく口にする「発展空間」というワードですが、給与の上昇や地位・専門性の向上のみならず、将来的な起業までを見据える若者は日本に比べ格段に多いのです。
二級都市へ舞台を移した人材争奪戦の背景
経済成長を牽引してきた一級都市ですが、今や巨大化が限界に達し、人口増に耐えきれなくなっています。特に北京や上海では人口は2000万人を超え、住宅や教育費の異常な高騰や普遍的な交通渋滞、資源不足といった “大都市病”に見舞われ、現在では人口流入を阻止する政策を強化しています。
そこで、代わって台頭したのが二級都市です。
実は二級都市も着実に成長を続け、2014〜17年の杭州、成都、武漢、南京、青島、長沙、無錫の7都市のGDPは1億超と全国平均を上回る成長速度で、さらなる経済発展にとって優良人材の確保こそが優先課題だと意識し始めています。
金融、テクノロジー産業、IT、ゲームやエンタメなどをメインとした発展計画を次々に策定。高い技術と専門性が必要とされるこれらの産業は、中国全土の数百万人規模の新卒者を必要とします。同時に人材側もまた、キャリア成長の選択肢が多様化し、物価などの生活面でも住みやすく好待遇な二級都市に目を移し始めたのです。
二級都市は優遇政策を打ち出すものの…若者達の選択は?
こうした二級都市の人材招致政策。ここ数年、物価高騰などの理由で、多くの人々が一級都市から地方都市へと流れてくる波が訪れました。
しかし同時に、一足先に二級都市へと拠点を移した人材からは「北上広」へ帰ろうとする動きも見られます。その理由は「地方都市は制度が確立しておらず労働環境が良くない」、「将来の可能性が見えない」というもの。
Weibo上の口コミを見てみても「大量に確保するだけ確保して、その後才能をふるいにかけるのではないか」、「人材を重視しているようで、実は税収と不動産の販売が目的」、「求められるまま移住したその10年後に、今夢見ているキャリアが確立できるのだろうか」といった不安や猜疑心を抱える学生の声も聞こえてきます。
一級都市の持つ発展のスピード感、制度社会、実力主義といったキャリア成長の可能性を感じる部分に、二級都市はまだ太刀打ちできないようです。
このような「新卒確保してもいずれは一級都市へ移ってしまうのでは」という危惧に対し、社科院財経戦略研究院副研究員・李超氏は「長期的な人材確保のためには、戸籍や住居などのサポートだけでなく、経済産業を着実に発展させ、社会制度をしっかり構築する必要がある」と述べます。
二級都市は若者達にとって好待遇を提供しますが、それだけでなく同時に数年後、数十年後の未来の可能性を人材に対して示していく必要があるようです。
【資料】中国各都市の人材獲得政策
<南京>
今年3月より、修士以上の学位取得者または40歳以下の学士過程取得者であれば、南京市以外の戸籍保持者でも無条件で市民としての戸籍取得を認める。
遠方から面接に来る大学生には1000元(約16000円)の交通費を支給など。
<西安>
今年3月22~24日の人材イベントにて、新卒者を対象に身分証明書と学生証の提示のみで戸籍をオンライン登記できるとしたところ(30分で登録可)、3日間で約15500人が登記し西安市民となった。
また、最高50万元(約800万円)の学生企業ローン、博士課程取得者には3年間毎月1000元(約16000円)の住宅手当や5年間で10万元(160万円)の支度金の支給といった政策を展開。今年に入って3か月間ですでに21万人が転入(昨年1年間の転入数に相当)。
<武漢>
昨年6月、「百万人大学生留漢(「武漢在留」の意)創業就業」プロジェクトを立ち上げ、大学生100万人を呼び込んで起業してもらうなどの人材獲得へ乗り出した。
大学または大学院卒業後3年以内であれば、武漢市以外の戸籍保持者にも無条件で市民としての戸籍取得を認める。
これにより2017年の武漢在留の大学生は30.1万人(前年比3.1倍)、新たに武漢市民となった大学生は14.2万人(前年比9.6倍)に上る。
【参考】
中国の「人材争奪戦」に見る都市の競争の高度化(出典:人民網日本語版)
京沪入局“升级版”人才争夺战 高端人才可直接落户(出典:鳳凰網資訊) 中国語
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