割りばしスマイルから心からの笑顔へ。 中国サービス意識大改革
先日、中国の重慶市では市の高速鉄道(中国版新幹線)でのサービス向上のため、乗務員に対して1週間のマナー研修が行われました。メディアでもその研修の模様が報じられましたが、なかでも乗務員が割りばしでスマイルを練習する写真がWeiboなどで話題に。その議論から、近年中国におけるマナー意識の変化を見てみましょう。
4月4日のニュースサイト『中国青年網』では、重慶市新幹線のサービス向上のため行われた1週間のマナー研修を紹介しました。その内容は乗務員、とくに車内で飲食を販売する女性乗務員に対して服装や身だしなみ、立ち振る舞い、列車の安全知識や企業文化の浸透といった日本でもよく見るもの。
記事では、美しい女性たちがローズピンクの帽子とスカート、ピンクの牡丹をプリントされた白地のユニフォームを着て、立ち姿や座り方、スマイルの練習などの様子が紹介されていました。
SNSでの賛否両論。「サービス」とは?
この報道に対して、SNSを中心に多くの反響がありました。代表的なものに以下のような書き込みがありました。
「笑顔は怒った顔よりいいよ!作り笑顔でも。」
「(消費者は)お金を払っているんだから、ちゃんと笑顔でサービスして~。」
しかし、こうした肯定的な意見だけではなく、その様子に疑問を呈する声も上がっています。
最も議論を呼んだのはメディアに掲載された、割りばしを横にして歯で加えて笑顔を練習する女性たちの写真。日本でも見かけるトレーニングの一環なのですが、それに対してWeiboなどでは下のような厳しい意見が見られます。
「心からわき上がる笑顔でないと、みんなただのロボットだよ。」
「作り笑顔は良いサービスとは呼べない!」
「一週間だけのマナー研修は全然足りない。ただの形だけ。」
「お箸で作った笑顔でどうやって感動できるの?笑わせないで~。」
こうした声、中国の多くの消費者が形ではなく「サービスの本質」こそが大切だと認識しているように見えます。
サービス業が人気職業に
小売りでもレストランなどでも、店員が笑顔を見せるというのは日本では当たり前のことのように思いますが、実は中国においてはようやく根付き始めたところ。
以前の中国では、レストランを選ぶ基準は「安い」、「量が多い」、そしてもちろん「美味しい」といった点で、店内が多少汚れていて、店員の態度が多少悪くても、気にしない消費者が多い傾向にありました。
こうした消費者意識ゆえ、サービス業という職種自体の社会的地位も上がらず、収入も低い業種であり続けていました。いわば「大学受験に受からなかった」、「高い教育を受けられなかった」人たちの就職先となっていたのです。
サービスにおいても、仕事中携帯をいじったり、立ち話しをたり、お客が呼んでも無視する、など態度が良いとは言えませんでした。
働く側も都会のオフィスワーカーとの貧富の差に対しての不満がある半面、親戚や友達に話すのは「恥ずかしい」という印象まであり、自分の仕事に対して誇りを持てないことが多かったのです。
中国のサービス業で店員が来店客に対して、心からわき上がる笑顔ができない理由がそこにあったのです。
しかし最近、消費者の概念が変わりました。
ただ値段が安い、味が美味しい、量は多いだけで満足できず、「味はもちろんだけど、多少お金を多めに払っても、サービスの良い、店内の内装、雰囲気の良い」という点でお店を選ぶ人が増えてきたのです。そこには所得が増え、国内や海外などハイレベルのサービスを体験する消費者が増え、かつ口コミなどでそうしたサービスを知る消費者が増えたという背景があります。
こうした状況は、冒頭の記事のWeibo版に書きこまれた反応からも見て取れます。
「重慶新幹線はまたいつ社員募集?」
「ユニフォームはかわいい!」
「なんかフライトアテンダントみたい~」(中国ではフライトアテンダントは若い女性に人気の職業)
以前は「低レベルな職業」であったサービス業に就きたい、かっこいいと思う消費者が増えていることを感じさせます。
中国は今「世界の工場」から「世界の消費大国」へとなり、形のある物より、サービスや旅行への支出が増えています。それに伴い、企業側もサービスをより重視してきています。特におしゃれな服を着ることができ、さらに収入も高いサービス業は人気職業になりつつあります。
今後、中国では割りばしで作った笑顔ではなく、心からわきあがる笑顔のサービス業が発展していくことになるでしょう。
世界に誇る日本のサービスなら、本当に「心配ご無用」?
さて、サービスに対してより強い意識を持つようになった中国消費者。それに対して「世界に誇るサービス大国の日本なら大丈夫」と思っている日本企業は多いと思います。
しかし気を抜いてはいけません。
まず気を付けなければいけないのは、ご存知のように中国は「口コミ大国」クチコミに対し世界で最も敏感な国民と言っても過言ではありません。そのクチコミ社会では、良い商品やサービスはすぐ広まりますが、悪いサービスもそれを超えるスピードで広まるのです。
特に中国消費者は「日本のサービス=世界一」という認識を有しており、日本では「サービスが良くて当たり前」と思っている中国消費者も少なくありません。
それだけに、ほんの些細なミスでも店舗やメーカーのサービスの信頼が損なわれる可能性も秘めていると言えるでしょう。
より良いものを求め続ける中国の消費者に対して、日本側もサービスも進化させ続け、かつそれを維持していく努力が必要かもしれません。
参考・写真:
重庆高铁“动妹”礼仪培训 叼筷子练微笑精确到分毫 出典:中国青年網 中国語