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女性のお悩み番外編~宿題は毎日3時間!耐える子供と苦悩する母(2)

前回、中国の子供の勉強時間について紹介しました。後編は行政の対策、そしてその結果について紹介していきましょう。そこには中国の子供たちを囲む悲しい環境、そして母親たちのジレンマがありました。

受験教育からゆとり路線へ、それなのに減らない宿題量

受験での合格を目指すいわゆる受験教育の「応試教育」が展開されてきた中国。しかし90年代半ば頃から、激化してしまった受験戦争に対し、学校教育の果たす役割を見直す動きが現れます。

2000年代に新たな学習指導要綱を次々と発表し、「応試教育」から「素質教育」へと転換を図りました。「素質教育」とは、様々な素質や人間性を育てようとする、いわゆるゆとり路線や欧米諸国に倣った教育です。

教育部の公布した「小学生減負十条規定」(2013年)は、小学校低学年には紙ベースの宿題を出さないなどを規定。「義務教育学校管理標準」(2017年)は、学校及び家庭は子供の毎日の睡眠時間に関して、小学生は10時間以上、中学生は9時間以上を保証することとしています。

受験戦争激戦区の上海では2008年、上海教育委員会より、毎日の宿題量に関して、小学生は1時間以内、中学生は1.5時間以内、高校生は2時間以内で終わる量に調整することと、宿題量を減らす規定が公布されています。

しかし残念ながら、これらの目標値とはほど遠いのが現況です。現場が変わるにはまだまだ時間がかかりそうです。

生きる意味がわからない、相次いで自殺する子供たち

大量の宿題と睡眠不足が招く注意力散漫や酷い場合には過労死。

肉体的な疲弊も問題ですが、精神的な疲弊が招く自殺という社会現象が起こり、教育体系に対する考え方が問われています。

21世紀教育研究院と社会科学文献出版社が共同で発表した「教育藍皮本:中国教育発展報告(2018)」の調査によると、2016年10月からの1年間で、青少年の自殺及び自殺未遂は392件発生、そのうち小中学生が267件、学業のプレッシャーが主な要因だと述べています。

中国青少年研究中心の専門家たちは、「近年増加する青少年の自殺の主な要因が学業のプレッシャーにあるかは定かでなないが、『命の教育』をおろそかにしていることが根本的な原因。

自分はとても大事な存在で、生きる意義があると知れば、命を簡単に捨てることはない」と言います。

例えば、農村の家庭で、放課後に親の商売の手伝いをしたり、病気の家族の面倒をみたりなど、家族の苦労を負担している子供は、経済的には裕福ではありませんが、自身の存在意義を感じていて心は豊かです。自殺の原因は、宿題量でなく教育体系の問題かもしれません。

応試教育に追われ、学校や社会から命の大切さを教わる余裕がなく、ひとたび挫折や巨大なプレッシャーに直面すると、それを受け入れられずに生きる意義や勇気を失い、命に対してどうでもよくなってしまうのです。

今年1月に学校で飛び降り自殺した広西省の中1女子生徒が両親に宛てた遺書

今年1月に学校で飛び降り自殺した広西省の中1女子生徒が両親に宛てた遺書には

「宿題が多すぎて、どうやっても終わらない。とても静かに眠りたい。終わらないと先生に怒られ、同級生に笑われる。他の子たちと同じように楽しく太陽の下で走りたい、でも毎回目を開けると見えるのは太陽の光じゃなくて積みあがった宿題の山。永遠に眠りたい、ごめんなさい」

とつづられていました。

それでも親たちが子供に望むことは・・・

社会が国際化・多様化へと向かう中、教育の選択肢も少しずつ増え、応試教育と真逆の選択をする流れも見られます。

近頃、素質教育に負けず劣らず関心を持たれているのは「STEAM」:Sience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Arts(芸術)、Maths(数学)の頭文字から構成され、アメリカ政府が提唱する科学・数学・芸術領域に力を入れる教育方針です。

中国初となるSTEAM教育を取り入れたインターナショナル幼稚園が今年上海に開設されます。

新しい流れはあるものの、現状の受験競争を理解、支持する親が多いのも確かです。彼らは現代の子供たちより過酷な競争の中を勝ち抜いてきた親たちなのです。

「プレッシャーは大きいが教育のクオリティは納得できる」

と公立校の応試教育を支持します。

表向きは、青少年の発育において適切な学習はその成長を助け、素質教育は中国の教育制度には適さないと主張しますが、その反面、独創性や創造性を育てる素質教育は必要だとも思っているようです。

また、都市と外地(地方)の経済的格差の下、外地では試験を受けて良い学校へ進学することだけが、人生を切り開くことができる唯一のチャンスです。

親たちは全財産を投げ打って子供を良い学校へ進学させようとします。都市部にはインターナショナルスクールや素質教育を重視する私立校などがありますし、海外留学という選択肢もありますが、外地では応試教育を受け入れるか、より良い人生を諦めるかしかないのです。

自分も通った道だからと子供に苦行を受け入れさせる「競争心溢れる親」もいれば、子供には同じ道を歩ませたくない、人間性や創造力を大事にしたいとする「理性的な親」もいます。

しかし、どちらにしろ、現在の中国の教育体系を考慮すると、大量の宿題や熾烈な競争を受け入れざるを得ないということでしょうか。親たちも明確な答えは出せないでいるのが本音でしょう。