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【中国APP】ソフトバンクも注目。 中国デリバリー業界を席巻する「餓了麼(E le me)」とは?

オフィスでのお昼休み。「今日はどこへ食べに行く?」や「今日のお弁当は?」というのが日本のオフィスでの話題。しかし中国では様子が異なっています。スマホを取り出し、「お昼頼むけど、だれか一緒に頼む人いる?」といった声が飛び交います。

ここ1~2年間に中国で登場した「フードデリバリー」が急成長。その人気を支えるNo.1フードデリバリーアプリにして、日本のソフトバンクも注目の「餓了麼(e le me)」に迫ります。


そもそも餓了麼とはなんぞや?

「餓了麼(e le me)」とは中国で利用されているフードデリバリープラットホームアプリ。その名前は非常にわかりやすく、日本語で「お腹すいた?」という意味から取られています。

ユーザーがアプリ上にある店舗のメニューをクリックし、注文(お店は現在地周辺の店舗が表示されます)。するとその情報が店舗に飛び、店舗は調理を開始します。調理が出来上がったタイミングを見計らって、餓了麼ドライバーが店舗に到着。料理をピックアップしてユーザー指定の場所まで届けます。

もちろん支払いはAlipayなどのツールを使ってキャッシュレスで簡単に終わるため、食べたい時に食べたいモノが自宅まで届くアプリとして人気を博しました。

特に上海や北京などの大都市は、ランチタイムになるとオフィスビル周辺がデリバリーに来た餓了麼ドライバーとバイクで完全に包囲されるという光景が見られます。

お昼時、上海のオフィスビルの前に並ぶ餓了麼のデリバリーバイク

さらに、お昼時だけではなく、店舗側が対応していれば24時間、深夜でもドライバーがデリバリーしてくれるという優れもの。中には1日の内、昼夜ともに餓了麼で注文するというユーザーもいるほどです。

これまでデリバリーに関しては、ケンタッキーやピザハットなどのチェーン店が独自の配送機能を整備して行っていましたが、その部分を餓了麼が肩代わりすることで、飲食店としては低コストでデリバリーサービスが可能になるというメリットがあります。

また小さな個人食堂などは、徒歩圏内や自転車圏内で店員を使ってデリバリーしていましたが、餓了麼との提携で、より広範囲に料理を届けることができ、ビジネスチャンスが増えているのです。

筆者の上海出張中も、路面のマーラータン店にいると新しいオーダーの知らせが届き(音声でオーダーを受けたことが知らされる)、わずか4人掛けのテーブル5~6卓の小さな店でも導入が進んでいることがわかります。

実は中国ベンチャーの老舗だったこのアプリ

この1~2年で一気に普及した感のあるこのアプリですが、運営会社の「拉扎斯網絡科技(上海)有限公司」は、2008年に上海で設立された会社。すでに10年を経ている、中国ベンチャーとしては老舗会社です。

創始者の張旭豪(現・会長)は1985年生まれなので、23歳で創業したことになります。設立の翌年(2009年)には、フードデリバリーアプリである「餓了麼(E le me)」をローンチし、事業を展開します。

その後、ベンチャーキャピタルやファンド、そしてテンセントやJD.comといった名だたる中国IT大手からの資金調達を経て、徐々に規模を拡大していき、2015年12月には中国ITの最大手・アリババからの出資を受けることになります。

そして2018年4月、アリババグループのフィンテック企業「アントフィナンシャル」が95億ドル(約1兆100億ドル)で完全子会社化。アリババグループの副総裁がCEOに就任し、アリババグループが推し進める「ニューリテール」を担うべく、展開を加速させていきます。

2017年末時点で、中国国内2000の都市で200万店のデリバリー加盟店をかかえ、ユーザー数も2億人を超えている模様。

さらに2018年10月に同じくアリババグループのクチコミアプリ「口碑」との合併も行われたほか、11月1日にはアリババグループのECサイトT-Mall同社旗艦店内で商品券の販売も開始。スターバックスやケンタッキー(中国国内のケンタッキーはアリババグループのアントフィナンシャル)の商品券を購入できるようになるなど、より消費者へのサービス充実化を進めているのです。

中国ベンチャー特有の持続力問題は?

しかし、最近はこのサービスにも徐々に問題が生じています。

一つは店舗の問題。

このデリバリーサービスが急速に拡大、普及したことで、店舗もデリバリーにシフト。これまでのコストがかかる店舗型のレストランや食堂ではなく、キッチンだけの店舗を開設したり、中には衛生許可を得ないまま、家庭のキッチンを使って調理したりといったケースも現れました。

こうした店は利益を求めるため、アプリ上に掲載している写真とは似ても似つかない粗雑な料理を送り届けたり、劣悪な品質の材料を利用していることも報告されているようです。

この問題はアリババ体制となる以前から生じていた問題で、2017年3月には基準に満たないレストラン5257件、四川省内では違法な操業を行っていた商店258軒を同アプリから除外するなど、定期的に登録されている店舗の調査を実施。ユーザーの信頼獲得に努めています。

 

もう一つの問題はドライバー。

実はドライバーの給与は出来高制。その価格は都市によって違いますが、高いところでも「5~6元/オーダー」、安い地方都市では「3元/オーダー」というところも。

地方都市でも平均的な月収である3000~4000元を稼ごうとすると、月に数千のオーダーをこなさねばならず、「休むヒマもなくなる」といった状況。また、餓了麼ドライバーのなり手が多く、注文に対してドライバーが溢れている感もあり、この事業で一定の実入りを期待するには相当な苦労が必要になっているようです。

そのため、ドライバー同士でのオーダーの取り合いもありますが、多く業務をこなそうと猛スピードでバイクを飛ばし、信号無視などの交通違反を繰り返してしまうこと。

2017年には餓了麼デリバリードライバーが信号無視によって大型車にはねられ死亡するという事故も起こっています。

現在はこうした事情を鑑み、「無人自動車」によるデリバリーなどのテストが進められています。

 

かつては中国学生ベンチャーの寵児ともいわれたシェアバイクブランドofoにも資金難のうわさが付きまとっていますが、餓了麼はこうした中国ベンチャーにありがちな「細部の見落とし」、「読みの浅さ」、「拡大によるひずみの拡大」から脱却できるのか、今後の動向が気になります。