【コンテンツBiz】夢ではなく、自分が「なるべき姿」! 美少女戦士が中国で世代超えて愛される理由
「月に代わっておしおきよ」の名台詞で90年代の日本を席巻した人気アニメ『美少女戦士セーラームーン』(武内直子・作)。その影響は遠く海を越えて世界レベルで広がっています。
もちろん、中国もその一つ。いわゆる80後からその次の世代へと、人気は受け継がれています。
しかしその人気の背景は、日本とはちょっと違っているようです。今回は人気アニメ『セーラームーン』人気と現代中国の女性たちをめぐる環境を考えていきましょう。
90年代の日本で一世風靡した
2019年5月、アメリカのファッションの祭典「メットガラ(Met Gala)」に登場した女優兼モデルのリリー・ローズ・デップ(俳優ジョニー・デップの娘)着用のドレスが、日本そして中国のネット上で話題となりました。
彼女がこの日選んだドレスは、1992年にシャネル(Chanel)が発表した春夏コレクションのうちのひとつ。しかし、このドレスが話題となったのはそのブランドによるものではなく、デザイン。
日本の人気漫画・アニメ『セーラームーン』に登場する「セーラープルート」こと「冥王せつな」が着用していたドレスと全く同じデザイン。
そこに中国の同作品ファンたちが気付き、Weibo上で熱い投稿を行ったのです。
『美少女戦士セーラームーン』(武内直子・原作)は講談社の少女漫画雑誌『なかよし』で1992年2月号から1997年3月号まで連載されていました。
ストーリーはセーラームーンに変身する中学生・月野うさぎたちと強敵が、強大なエネルギーを持つ「幻の銀水晶」をめぐり戦いを繰り広げるという、ファンタジー作品です。
同作品は1992年にテレビアニメ化。1997年にかけ、テレビ朝日系で5シーズン全200話が放映され、劇場版も複数制作。また変身アイテムの玩具やノベルティなど、派生商品も多く登場し、女の子を魅了しました。
現在でも子供用のお菓子はもちろんのこと、かつて同作品をみて成長した女性たちをターゲットに化粧品や美容機器などのタイアップも多くなされており、その影響力の強さがうかがい知れます。
海外でも同様にファンが多く、近年ではロシアのフィギュアスケート選手・メドベージェワがファンであることを公言し、一気に日本人の親近感を得ていました。
そんな同作品、中国でもやはり根強いファンが存在しているのです。
守られるより、現実で「戦う女性」に自分を投影
1990年初め、中国国内の書店では、台湾や香港から輸入した日本漫画の翻訳版が多く置かれていました。
当時の小学生や中学生、すなわち80後世代は学校のクラスで、自分が持っている漫画(親が買った、又は自分で借りてきた)を交換し読むことがブームでした。
タイムラグがあるものの、日本で人気ある漫画は中国でも普通に読むことができたのです。
しかし、その時代の漫画作品に登場するヒーローはほとんど男性。そうした意味では『美少女戦士セーラームーン』は特別な存在だったと言えるでしょう。
主人公とメインキャラクターはほぼ全員女性で、守られる側ではなく「宇宙」を守る戦う戦士だったのです。
以前、本コンテンツで「ジャンプ作品の女性ファン心理」を分析した際、中国の女性アニメファンは「『守られるヒロイン』よりも、『強大な敵と戦う主人公』に対する共感や、『戦いたい』、『自分もこういう能力を使いたい』という思いが強い」という傾向について紹介しました。
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中国トレンドExpressのコラム内でも繰り返し述べているように、中国における女性の社会進出は日本よりも進んでいると言えるでしょう。
例えば日本の経営者グループの会合、中国訪問時には「濃いスーツを着た年配男性」の姿が大多数を占めていますが、中国では女性の経営者は珍しくありません。
例えば有名な旅行予約サイト「携程(C-Trip)」、クチコミAPP「小紅書(RED)」、上海に拠点を置く乳製品の大手「光明」、民営企業だけではなく央企(中央企業)や国企(国営企業)などと呼ばれる政府系企業のトップクラスにも女性は少なくありません。
つまり生活の中で、「仕事(ビジネス)」に占める割合が非常に高く、ビジネスの世界でも「主役」として活躍するケースが少なくないのです。
伝統的に「静かに」、「おしとやかに振るまう」ことを求められがちの日本で、「セーラームーン」たちは女性の内に秘めた夢を投影するものであったかもしれませんが、職場・社会でガンガン活躍している大人の女性を見てきた中国の女の子において言えば、まさに自分たちが「なるべき姿」、「お手本」的存在だったのです。
つまり、「セーラームーン」は男性ヒーロー作品よりも共感しやすい内容だったわけです。
当時80後の女子なら誰でも変身してセーラー戦士になりたいと願い、「代表月亮消灭你!(「月に変わっておしおきよ!」の中国語)」と叫んでいましたが、そこには将来社会で戦うことについての決意があったのかもしれません。
ファッションリーダーとしてライフスタイルにまで影響
さて、『美少女戦士セーラームーン』の作者である武内直子氏は大のファッション好きで、オートクチュールからインスピレーションを受けて、アニメのイラストに様々なファッションアイテムを度々登場させています。実は冒頭のシャネルのドレスもそのひとつ。
20年以上前の作品なのですが、登場する服装の色合い、コーディネートは今見ても色あせた感覚がまったくありません。
そんなファッション性を持った作品は、あまりデザイン性を考えられていない中国のジャージ制服を着ていた中国の女の子たちにとってはあこがれの対象でもあったようです。
しかし、今、日本同様、「セーラームーン」世代はみんな大人へとなりました。そして、多くが子供の頃にあこがれ、磨いてきた「セーラームーン」ファッションセンスを実現できる条件がそろうことになりました。
近年は、前述のようにかつてのセーラームーン世代をターゲットにした、同作品とタイアップした高級なコスメやアクセサリーなどが多数発売されていますが、中国でもその情報は注目されており、SNS上でも盛んにアップされています。
さらに上海では2018年末、北京では今年5月末から『美少女戦士セーラームーン』テーマショップが期間限定でお目見えすることになりました。
フォトジェニックな内装はもちろん、同作品グッズのUFOキャッチャー、ガシャポン、またはアパレルファッション、コスメ、文房具、デジタル商品、おもちゃなどの限定グッズショップも販売されました。
オープン当日は平日であるにもかかわらず、それぞれのコーナーで30分待ちという人気ぶりが伝えられています。
もちろんWeiboなどのSNSにも「行った」というクチコミが写真付きでアップ。
Weiboの「話題」ページにおいても、書き込み数1600件あまり、閲読数368万という数字になっています。
そのクチコミの多くが「やっと行けた」、「子供の頃の夢がかなった」など、オフィシャルで同作品グッズを買ったり、世界観を体験する場がなかった中国のファンたちの歓喜の声が溢れていました。
今、80後の女性たちの大半は、母親となりました。中国では、そんな母たちの影響を受けてファンになったという子供も現れています。さらには動画サイトで見始めた90後の若者たちも現れているようです。
中国では「セーラームーン」は戦う女性、そして戦いつつオシャレで可愛らしい女性という、中国の女性たちが現実で描く姿の象徴。
この影響は世代を超えてまだまだ続きそうです。