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【2019年アーカイブ】 中国に新たな市場も 2019年EC商戦から見る注目ポイント

2019年の中国EC商戦、618でもダブルイレブンでも注目されたキーワードがある。中国における新たな消費市場を示すそのキーワードを、ECおよび今年のEC商戦から見ていこう。

「下沈市場」がEC業界のホットワードに

2019年の中国EC業界、注目されたキーワードと言えば「下沈市場」、すなわち地方都市市場だろう。

この言葉が中国のEC業界で大きくクローズアップされたのは618商戦の結果報告からである。

T-Mallは「三線から五線都市のユーザー数、オーダー金額ともに昨年の618の100%増」を伝え、同時に「オーダー金額の伸びTOP10都市のうち、大部分が三線および三線以下の都市」であることを公表している。

 

そうした結果から、日本の企業でも北京、上海、広州、深圳という一線都市だけではなく、成都(四川省)や杭州(浙江省)、武漢(湖北省)、長沙(湖南省)といった新一線都市、さらにその衛星都市である二線、三線都市の市場への展開が視野に上ってくる結果となった。


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そしてやってきた、2019年のダブルイレブン。下沈市場は商戦の帰趨を占う市場として、商戦が開始する前から激しい駆け引きが続いていた。

最も注目を集めたのはJD.comの団体購入用チャネル「京喜」であった。

まさに「PDD(拼多多)」の向こうを張って投入された「団体購入」モデル(一定人数の共同購入と値段が安くなるシステム)の同チャネルは、WeChatの小程序(ミニプログラム)機能とも連動し、11月11日に6000万件の商品を販売。新規ユーザーの70%を3線~6線都市から獲得するなど、大きな成果を上げている。

 

また、もともと下沈市場に根差したECアプリであった「PDD」も、JD.comの長生に対抗するように値下げサービスを強化、売上金額の公表はしていないものの、リサーチ会社・星図数据の調べで、ダブルイレブン第3位の売上を上げるまでになっている。

同社はコピー商品や商品品質等、問題は指摘されているものの、かつて中国で人気を博した「団購(団体購入)」のモデルをECに活用したことで販売価格を下げ、一気に地方都市の消費者を取り込んでいたのである。

ECが地方市場にシフトした理由

こうした中国ECにおける地方市場の開拓、実は今になって始まったものではない。T-MallやJD.comは早くから地方市場に目を向けており、2013年頃から動きを見せてきた。

しかし、その市場の違いから大きな成果を上げられずにいた。

 

かれらEC業界を戸惑わせたのが「インフラ」の整備だ。

 

当たり前の話だが、EC上ビジネスはオンライン上だけで終了するものではない。たしかに商品の閲覧や購入、支払いなどはオンラインで完結するが、商品の配送はオフライン世界の話。

この商品配送がECにおける地方開発の大きな課題となっていた。

 

長く中国市場に関わっていた人であれば、中国の地方都市の交通状況をイメージできるだろうが、過去、中国の地方の都市へ商品を運ぶというのは、それが消費財であれ生産設備であれ、非常に気を使った。

 

運送業者のモラルや技術的な問題も大きかったが、高速道路網の普及も現在に比べてはるかに乏しかった。

また路面舗装の質も劣悪なものが多く、都市を離れて農村エリアに至ると、舗装自体がされていないこともザラだった。こうした路面環境によって輸送過程で商品を傷つける恐れが高いことが中国事業者の悩みのタネだったのである。

中国物流業界の「ラスト・ワン・マイル」の問題は非常に大きく、商品を発送しても手元に届くまでに時間がかかったりと、ECの持つ強みを一線都市のように最大限発揮できなかったのである。

 

しかし、2016年以降、中国ではこうした地方都市から農村部に至るまでの道路整備が急ピッチで進められ、高速道路から各都市、特に3線以下の土地に至るまでの道のりも整備され、

 

アリババグループもJD.comも、これまでに心血を注いで構築してきた物流システムがようやく発揮できる状態が整った、待ちに待った攻勢に出られる場を得たのである。

中国地方市場を攻められるか?

こうした地方都市への消費市場の拡大に、日本企業も熱い視線を注いでいるのだが、なかなか攻めきれないでいるのが現状だ。

 

その理由は、日本ブランドが浸透しきっていない、という点であり、原因は市場開拓が後手に回ったことにある。

北京や上海の苛烈な市場競争、成熟した市場での展開に注力しすぎるあまり、地方都市市場が目に入らなかったのである。

 

その結果、成長してきた国内ブランドに市場を押さえられることとなった。

2019年のダブルイレブンを見てみると、家電においては「海爾(ハイアール)」、基礎化粧品においては「百雀羚」などと、主に中国国内ブランドが大きな売上を上げている様子である。

これらのブランドはダブルイレブンでオーダーの60%を下沈市場から得ており、「百雀羚」では下沈市場からのオーダーが昨年比で100%以上の伸びを見せている。

 

こうした3線以下の都市では、リアル店舗の時点で日系ブランドの進出が少なく、ブランドや商品認知度が低い。見たこともない日本のブランドより、常に見かける国内ブランドの方が身近な商品なのである。

また売れ行き商品も、いまだ家電やデジタル商品、自宅の家具・インテリア(建材含む)といったものが多くプロモーションを行っているせいか、興味の方向がこうしたものに向きやすい。

高品質・嗜好品路線を得意とする日本ブランドは、やや分が悪いのかもしれない。

 

ただ、発展途上とはいうものの、急速に成長している中国にあって、消費者の意識や嗜好がこのままの状態でいるとは考えにくい。

徐々に上海や北京を目標に、「消費昇級」が進んでいくはずであり、政府もそのための政策をおしすすめるだろう。

 

その時になって後悔しないためにも、今のうちに市場獲得に動くべきだろう。

 

ただ、一線市場と異なる点も多い。例えばキャンペーン時の「価格」である。

ダブルイレブンと言うと、T-MallやJD.comなどのキャンペーンが年々複雑化している。すでに商戦慣れしている一線都市の消費者にしても、時に理解できないほど多種多様なサービス、割引計算方法が広がっている。

さらにそこにブランドのプレゼント攻勢がかかり、多くの消費者が「結局、安かったのか分からない」と語るまでになっている。

 

しかし下沈市場ではこうした手法は「受け入れられにくい」と中国のメディアでは指摘されている。

ゲーム感覚に近い複雑な割引キャンペーンではなく、単純な「通常小売価格〇〇元が××元に!」といった、通常時との価格差を押し出した方が消費者の心をとらえられるのだと言われている。

 

2019年ダブルイレブン期間中、京喜びは団体購入システムによって売り値「1元」という商品を1億個販売していたという。

このように計算しての「安い」ではなく、一目見て「安い!」と理解できる明快なキャンペーンに、下沈市場の消費者は敏感なのである。

 

この下沈市場、2020年においてもEC市場の注目を集めることは間違いない。この流れに乗るためには、これまで行っていた消費者ニーズの把握、理解を地理的に広げていく必要がある。

中国トレンドExpressでも、こうした地方の消費者ニーズを引き続き追いかけていく予定だ。