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2019年中国マーケ業界ホットワード 「盲盒」に2020年も注目

2019年には多くのキーワードが中国マーケティング業界で注目された。2線、3線都市市場を示す「下沈市場」、ダブルイレブンで猛威を振るった「ライブコマース」、「KOLからKOCへ」などなど、まさに猛スピードで変わり続ける中国消費者の心に刺さるマーケティング手法も、大きく変化をしている。

そんな中国のマーケティング業界でにわかに注目を集めたキーワードが「盲盒」。今回は日本ではあまり知られていないこのキーワードを読み解いていこう。

「盲盒」とは果たして何者か?

さてこの「盲盒」。中国語のできる人でも、ぱっと思い浮かべられる日本人は少ないのではないか。

 

「盲盒」の「盲(mang2)」とは見えない、わからないといった意味。「盒(he2)」は「箱」という意味であるため、直訳すれば「見えない箱」となる。

では何が見えないのかといえば「中身」である。

 

「盲盒」とは「消費者が、商品の中身がわからない状態で購入、もしくは特定商品・サービスの景品としてもらうことのできるグッズ」のこと。

日本で言えば「カプセルトイ」やお菓子についてくる「食玩」のことである。

 

この「カプセルトイ」や「食玩」のような商品が2019年に中国で大ヒット、多くの諸飛車がその収集に走り、一部の統計では「20万人もの消費者が年間で2万元以上を「盲盒」に費やしている」という報道までなされているほどである。

 

「盲盒」単独の人気もさることながら、その注目ぶりから商品とのタイアップなどのマーケティング手法として、さらに中国におけるIPビジネスの新展開モデルとして大きく注目されているのである。

突然のブームもマーケティング活用に動く企業

この「盲盒」の中心的な消費者となっているのは1995年以降に生まれた中国の新世代。

小紅書(RED)で同キーワードを検索すると9万件以上の投稿が存在している様子である。

このブームの火付け役となったのは「Molly」。香港の若手デザイナーである王信明(Kenny Wong)の生み出した、かわいい女の子のキャラクター。

「ちょっとわがままだが、才能あふれる画家」といった設定のついたこの彼女は、王氏が2006年に香港で生み出したものだ。

小紅書では「Molly展にいった」という投稿も見られる

そのMollyを中国大陸で販売しているPOP MART(北京市)がショッピングモールなどの場所で自動販売機を設置したところ、多くの若者が買い集めるようになった。

ただ実はキャラクターが流行ったのが先か、この自販機による販売から火が付いたのか、残念ながら定かではない。

確実なのは夏ごろには中国の若者の間で急拡大し、ネット上では59元の商品が40倍近くまで跳ね上がる「転売による値段のつり上げ」が事件として取り上げられるまでになったほどであった。

さらには「盲盒」市場全体が活況を得ており、日本の「Sonny Angel」などへも、中国消費者の熱い視線が向けられている。

 

ただ、単純な商品としての販売ではなく、「サービスや特定商品の景品」としての使い方も、2019年に火が付いた。

「盲盒」マーケティングである。

 

代表的な事例は日本では「中国ニューリテール・カフェ」として取り上げられることが多い「瑞幸珈琲(luckin coffee)」である。

同社は2019年夏、同社のチャージカード(スターバックスカードと同様のもの)などの景品として、同社のイメージキャラクターを務める95後世代の俳優「劉昊然」ミニフィギュアをプレゼントするキャンペーンを実施した。

こちらも同社の主要ターゲットである若者層にヒットし、小紅書上でも「全商品コンプリート」した消費者の写真付き投稿などが多くみられる。

こうした商品購入のおまけにキャラクターフィギュアという手法、中国では主にマクドナルドやケンタッキーなどのファーストフードが行ってきた。

そのキャラクターも「ドラえもん」や「ちびまる子ちゃん」、「ハローキティ」など、意外に日本のIPが多かったのだが、主には広く「子供向け」という設定にされていた要素が大きく、質もあまりよくはなかった。

 

だが、こちらの商品を見る限り、明確なターゲティングとそのターゲットが求める品質を整え、同時に現在の「盲盒」人気を活用したマーケティングだったといえるだろう。

この成果を見て、2020年は多くの中国企業が「盲盒」をマーケティングに活用してく気配が見える。

ここから見える中国消費者の進化

このカプセルトイのような中国「盲盒」ブーム、筆者にとっては極めて新鮮である。

 

そもそも中国の消費者は容易に財布を開かない。そのために多くのメーカーがあの手この手で消費者の興味・関心を引き、理解・納得してもらい、買ってもらっている。

消費者側もメーカーに「騙されないように」するために、慎重に慎重を重ねて購入する。

 

そうした消費者は、まず「箱の中身を確認して買う」というのがセオリーだった。GMSなどで消費者が売り物のシャンプーのフタを開けて香りを確認するなどいうのは、その現れであった。

 

つまり「中身の確認ができないものにお金を払う」文化がなかった。

そのため日本のガチャガチャやお菓子のカード・シールのように、お金を払って購入し「何が出るか…」といったドキドキ感や「ついに出た~!」といった達成感を購入するという感覚がない。むしろ「あ~、コレもう〇個も持っているのに…」といった失望感を買ってしまうというリスクが気になってしまったのである。

 

そもそも、実用的でないものをコレクションする、という意識も低かった。日本のような「収集癖」がなかった国なのである。

 

しかし、この「盲盒」ブームの中心となっているのは95後、つまり1995年以降に生まれた新世代。

彼らが成長した現在、中国の一線都市から新一線都市では国内商品の水準も大きく上がり、また企業のクリエイティブ能力も飛躍的な進化を遂げている。

かつてのように心理的駆け引きをしながら購入する必要が薄れているのかもしれない。

 

同時に経済状況がよくなり、好きなものに対しては前述のような「重複による無駄な投資」も気にならなくなっており、それよりも「集めることの満足感」へ投資する傾向が生まれていると考えることもできるだろう。

 

また同時に大都市で1人暮らしをする若者が増加しており、そうした消費者のコレクション願望やストレス・孤独感の軽減といったニーズの増加(「孤独経済」の成長)といった側面も見え隠れする。

 

この中国における「盲盒」ブーム、意外にも日本企業にとっても大きなチャンスなのではないだろうか。ハイクオリティかつ高い人気を持つIP、さらにはそうしたIPを作り出すクリエイティブ性を有する日本は非常に有利な立場にいるように感じられる。

 

現在は、こうした心理を利用した「盲盒」ビジネスを「賭博性がある」と批判的に見るメディアも現れ始めているが、肯定・否定双方の議論が高まることによって、「盲盒」ビジネスにも明確なルール、管理規定が現れ、市場が形成されていくことが予想される。

 

その市場の動きは2020年も中国トレンドExpressで追いかけていきたい。