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素早く効いて体に優しい 日本の普通の風邪薬が神薬になるわけ

中国消費者から熱い視線を注がれている日本の商品は多々ある。スキンケア、ベビーマタニティ、そして「薬」。特に日本ではあまりに一般的過ぎて気にしたことのない「風邪薬」も中国では「日本の神薬」の列に加わっている。

今回はクチコミデータから中国消費者の日本の風邪薬への印象を紐解いてみよう。

おさらい、中国消費者の日本神薬人気

中国の消費者の間で日本の薬、特に処方箋のいらない第1類から第3類までの医薬品(中国では「非処方薬」「OTC」などと呼ばれる)人気は広く知られている。

2015年ごろからのいわゆる爆買い初期には、「日本神薬」として多くの薬がドラッグストアなどで購入されていた。

 

その状況は現在も変わっておらず、トレンドViewerの医薬品クチコミ件数を見ても増加が続いていることが見て取れる。

【グラフ】「買った」ランキング「医薬品」クチコミ総数の推移

また医薬品でも数多くの種類があるのだが、クチコミの比率を見てみると「皮膚薬」、「小児用・幼児用の薬」(風邪薬など)、そして大人用の「風邪薬」の比率が大きく、3種類で半数を占めている。

【グラフ】2019年最終週の「医薬品」セグメント内商品数比率

よく「中国にはないお役立ち医薬品」が人気になることがあるが、医薬品のなかでも最もポピュラーといえる「風邪薬」までも、中国では「神薬」の仲間入りをしているのである。

「日本の風邪薬」の代名詞となったのは…

そんな日本の風邪薬の評価を知るために百度や小紅書で「日本 感冒薬」(中国語で「感冒」は「風邪」の意味)と検索すると、写真付きでずらりと並ぶのは金色のパッケージ。

「パブロンゴールドA」(大正製薬)である。ランキング上では錠剤になっているが、SNSでは錠剤・顆粒双方の投稿が見られる。

日本国内でも数ある風邪薬からなぜ「パブロンゴールドA」なのか?

 

ある投稿では「訪日旅行の際に風邪をひき、ホテルスタッフに相談したところ同製品をもらった」という内容も見られる。

インバウンドでは多くの日本商品に接する機会があるのだが、食やファッション以外にも、日本製の薬との接点も生んでいる様子である。

 

その最大の理由となっているのが「早く効く」という点である。

小紅書の投稿でも「熱があったけど、これを飲んで静かにしてたら次の日にはよくなっていた!」という文章が少なくない。

 

さらにウェブ上の紹介では、効果の速さについて「日本人は風邪でも会社を休めない。だから飲んですぐ効くのであれば、すぐに会社に行ける」と分析。一部では「工作狂(ワーカーホリック)の日本人らしい」と納得の書き込みがあった。

 

広くポジティブな書き込みが多いなかで、ネガティブな記述がないわけではない。

それは「効かない」「効果がない」といった否定的な意味でのネガティブではなく、「効き目はいいんだけど、味が…」という、味覚に関する話題である。

 

同製品の味、日本のツイッターなどではポジティブ、ネガティブ双方があり、どちらかに偏っているという印象は受けない。

しかし中国消費者の味覚には合わないらしく、味に関してのみはネガティブな表現が多く、「早く効くけど不味い日本の神薬」といった印象が根付いているようである。

成長中の中国「風邪薬」市場も、中国消費者の目は日本に

ところで、風邪薬は前述のとおり最も身近な薬。中国でも数多く作られており、薬局で手軽に手に入れることができる。

上海などでは一部の風邪薬も「医療保険カード」を利用することで保険が適用され、定価より安く購入することも可能だ。

メーカーも国内の国営会社以外に、Johnson&Johnsonの「タイレノール」、GSKの「コンタック」、Bayerの「白加黒」など、欧米系風邪薬も数多い。

 

市場規模を見てみても順調な拡大が続いており、今後もさらなる成長が見込まれている。

【グラフ】中国の風邪薬市場規模の推移(単位:億元)

出所:前瞻産業研究院

それでいながら日本の風邪薬を求める理由は何なのだろうか?

 

上海在住の30代女性は「日本の風邪薬のほうが効果ももちろんだけど、体に優しいように思う」と語る。

前述のように、日本の風邪薬は薬の種類や服用者の体質にもよるが、最近は「眠くならない」、「胃に優しい」など、体への負担を気にする商品が多い。

 

それに比して「強すぎて、風邪は治るけど胃を痛めた」や「猛烈な眠さ」など、中国国内で流通している風邪薬の強力さに、中国の消費者もややネガティブな印象を受けているようだ。

「普通の風邪の時は水分を多くとって、暖かくして寝ることにしている。飲むとしても“板藍根(風に効く漢方薬)”ぐらいかな」。蘇州で働く40代の男性はそう語る。

 

また副作用に対する意識だけでなく、製薬会社に対する不信感もある。

 

例えば広東省を拠点にしている大手国営製薬会社「三九集団」は、風邪薬や胃薬などで高いシェアを誇り、製薬以外にも自動車や不動産など、他業種に展開していったが、同社トップの横領、無計画な投資により経営が悪化。

最終的には国営企業を束ねる国務院(日本の内閣府に相当)が同社の経営再建を支持。国内最大級のコングロマリットである華潤集団が同社の再建を引き受け、「華潤三九」としてスタート。

現在は日本の龍角散と事業提携をするまでに回復したが、そのほかの製薬会社に対しては国営による経営体制の面から不信感をぬぐえない消費者も多いのである。

 

こうした社会的背景も、日本の医薬品、日本人にとってポピュラーな風邪薬に対しても市場を開いているのである。

 

こうした医薬品、中国では広告露出に関して日本以上に厳しいレギュレーションを設けているため、簡単にプロモーションを打つことはできない。

しかし、それでも高い人気を誇るのはSNSに一般消費者が投稿する自身の体験、風邪のつらさから解放してくれた日本の風邪薬に対する親近感によるもの。

 

そうした声が、さらなる日本医薬品人気を呼んでいるのである。