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【インタビュー】中国で広がるデジタルサイネージ活用(1)人の気持ちを動かすものは「オフライン」にあった

上海の代名詞ともいえる「外灘」。その向かいに立ち並ぶ高層ビルの壁面はデジタルサイネージ(電子掲示板)化がすすみ、夜には何本ものビルがきらびやかな装飾をまといます。

デジタルサイネージは高層ビルの壁面だけではありません。スマホの普及を背景にネット通販の利用者が拡大する中、実店舗の集客に店頭・店内のサイネージが真価を発揮しています。

本特集では中国でデジタルサイネージを使った集客はじめとするイベントの実施を手掛けるD2C ChinaのCEO、近衛元博氏へのインタビューをお届けします。

最新の動向や、中国でデジタルサイネージがうける理由、運営のコツなどをお答えいただきました。(聞き手:トレンドExpress編集長大上、インタビュー日程2017年10月23日)

「中国広告長城賞」グランプリ獲得 D2C China CEOの近衛氏にインタビュー

まずは今回インタビュイーとなっていただいた近衛氏の経歴です。

▼D2CChina近衛元博CEO

近衛元博

【経歴】

2001年 デジタル・マジック・ラボ入社

2004年 D2C入社。メディア事業・デジタルソリューション事業などデジタルマーケティングビジネス全般に携わる

2011年〜D2C ChinaのCEOとして、D2Cにおける中国事業を推進、 欧米系、日系クライアントのデジタルマーケティング、ストアエンゲージメント事業を推進

中国国内外の広告賞を多数受賞され、2016年には中国で最も権威と影響力のある「中国国際広告祭において「中国広告長城賞- インタラクティブ・クリエイティブアワード」のグランプリを獲得。

D2Cのデジタルサイネージはモバイルマーケティングで後塵を拝するところから始まった

―御社の中国での歩みを教えてください。

ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、D2Cはドコモと電通の合弁会社です。2011年に上海のオフィスに総経理として赴任しました。現在7年目です。

当初、「モバイルマーケティング」を旗印に進出したのですが、正直申し上げると苦戦しました。理由は2011年に普及したあるデバイスの「日中間の普及ギャップ」でした。

2011年のモバイルマーケットのニュースといえば「スマホ」の登場がすべてでしょう。日本でのスマホ利用人口の伸びと比べ、中国ではすさまじい勢いでこの新製品の普及が進みました。

中国ではパソコンのユーザーが少なかったため、パソコンの所有を飛ばして、このモバイル端末に手を出す層がかなりいたんです。一方で日本ではこの変化に対し、ユーザーも、そしてモバイルマーケティングの業界も、キャッチアップが遅く…こうして両国の普及ギャップ、知識の蓄積にギャップが生まれました。

―丸腰で敵陣に乗り込むような形ですね…具体的にはどのような苦労を味わわれたのでしょうか?

進出した当初の当社の実績は…なんとゼロ円! マックのスマイルだねと笑って話せるのも今となってはです。

―業績が上向いたのはいつ頃だったのでしょうか? 何がてこになったのでしょうか。

それまでデバイスの中の「オンライン」施策に目を向けていたところ、ある案件をきっかけに「オフライン」での施策に着手したことがきっかけでした。

オフラインでの施策での、「クリエイティブの質の高さ」、そしてプロジェクトの進行における「チームの運営を意識すること」が当社を成功に導いたと思っています。

事業が上向くきっかけとなったプロジェクトは、2013年の後半に手掛けた、上海森ビル(上海環球金融中心、通称SWFC)の「展望台リニューアル事業」です。

エンゲージメントの高いデザインで観覧者に参加意識を構築する

―2013年の上海森ビルのリニューアルを起点に、「中国でのデジタルサイネージの成功」の第一歩を踏み出されたのですね。

デジタルサイネージとは、店頭に設置されたデジタル仕様のパネルを指します。

デジタルサイネージ

▲店内に設置されたデジタルサイネージ(D2C「SMILE+」資料より)

設置する際には「施設のどの部分をデジタルにするのか」「内装部分とのバランスをどう定義するのか」という点が勝敗を決めると思っています。

上海森ビルの展望台リニューアル事業では、訪問者のアクションがデジタルに「反映される」という展示を行いました。

こうすることで訪問者の訪問者に「作品に参加している」という意識を抱いてもらうことができ、結果として「体験の満足度」を高め、その施設への良好な印象を樹立することができるからです。

またクリエイティブそのものの完成度の高さは「人に話したくなるトピック」を提供することにもつながり、結果として施設の存在を広範に知らしめることになります。

当社は「クリエイティブ」、「技術」、「ハードウェア」それぞれの分野での完成度だけでなく、それらの有機的な結合に自信とこだわりをもっています。

味気ないインターフェイスではユーザーからのエンゲージメント(イベント、キャンペーンへの参加や購入といった、ユーザーからの働きかけ)は手に入りません。上海森ビルの事例ではこの強みを余すことなく発揮しエンゲージメントを獲得できたと思います。

オリンピックを見ればわかる、中国の強みと弱み

―「チーム」について教えてください

中国は個人個人を見れば、問題を突破する力のある人材が多くいます。しかし個人の能力が高いことでかえって、複数メンバーでの取り組みにおいてつまずきを生み出すこともあります。

そのことに気づいていた当社では、当初から「チームシナジー」の観点を意識してプロジェクトの進行をはかりました。複数のメンバーが互いの能力を引き出しあう、活かしあうためにとるべき道はどちらか? 常に考えていました。

オリンピックでも、中国がメダルを量産するのは個人競技であって、決して団体戦ではありません。こういったところにもヒントが隠れているのだと思います。チームシナジーを高めることが、個の能力が高い人材のあふれる中国において差別化できるポイントだと見据えていたのですが、まさにその通りでした。

―なるほど、「プロジェクトの進行」においても中国の特性、傾向を分析されて臨まれてらっしゃったのですね。デジタルサイネージの普及もまた、中国人の特性に向いた広告方式なのでしょうか?

デジタルサイネージはまさに、「中国人の好きな」形式だと思います。

「わかりやすい、インパクトがある」ものが好きな中国で、(デジタル)サイネージへの需要はかなり大きいです。上海の有名な観光スポット、外灘(ワイタン)で目に入る高層ビル群の壁面は現在すべてデジタルサイネージを備えています。

―デジタルサイネージの普及もスマホと同じく勢いがありそうです

デジタルサイネージの普及、発展は爆速ではなく「超爆速」ですね。今、どこのサイネージにもQRコードがついています。

サントリーの創業者鳥井氏の「やってみなはれ」精神が良くも悪くもいろんなシーンで発揮される中国なので、今後も躊躇ない試行錯誤が繰り返され、デジタルサイネージの技術が発展していくのではないでしょうか。

 

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