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【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(4)信用と中国サイバーセキュリティ法。日本企業の明暗を分けるものとは

中国トレンドExpressで月1回行っているセミナー。会員様限定でお送りしている11月のセミナーレポートの第3回では、越境ECの現状と、これからのコンテンツ産業の可能性についてお伝えしました

最終回となる今回はチャイナリスクをテーマに、話題の中国サイバーセキュリティ法への対応やこれからの日本企業のあり方について、株式会社クララオンライン家本社長の見解をお伝えしていきます。

▼セミナーレポート、ここまでの3編はこちら!

【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(1)China UPDATE~2017年の中国を知ろう~

【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(2)シェアリングエコノミーから見るNB-IoT

【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(3)トークンエコノミーとECのこれから~日本企業が成功するには?~


ライフスタイルが信用に。「芝麻信用」

個人をどうやって信用するかについては、いわゆる職業や社会的地位であったり、収入であったり、周りの評価であったりといった、その人が生きていく中で培われたヒストリーデータが一つの判断基準になってきます。例えば日本において、クレジットカードを作る際に職業と年収は必須のデータですし、ローンを組むにあたってはそれに加えて過去に破産や返済滞納などのブラックデータがないかどうかを審査されます。

しかしマーケットによっては、顧客となる消費者の、サービスに必要なヒストリーデータが蓄積されていないことがままあります。例えばレンタカーやホテルの予約などで、事前に利用者に「保証金」が課せられるのも、こういったヒストリーデータがなく、個人を信用できないためです。

アリペイを運用する阿里巴巴(Alibaba)では、アリペイを通して支払った過去の記録や利用しているSNS、アプリなどから得られるビッグデータをもとに、こういった個人の信用ポイントを数値化し、このポイントによってさまざまな特典が得られるサービス「芝麻信用」を開始しました。

詳しいポイント基準は明らかにされていませんが、例えば天猫(Tmall)や淘宝でのネット決済の履歴、家賃・公共料金の支払い、SNSでの評価などを統合して、350点~950点でその人を評価します。そして一定以上の点数を獲得しているユーザーは、ホテルやレンタカー利用時の保証金が無料になったり、賃貸契約時の敷金が不要になったり、といった特典が受けられます。

実はこの、様々な面でのライフスタイルがそのまま個人の「信用ポイント」として点数化される、といった新しい動きは、中国の国策として始まっています。これはある意味、個人情報やビッグデータを基に国民生活を監視・コントロールすることが可能と言えるのではないか、といった懸念もあります。しかし実際は、今まで銀行口座やクレジットカードを持てずに社会的信用の獲得が難しかった農民や発展後進地域の住民、就業前の若者といった層が、信用を可視化できることによるメリットの方が評価されています。

また、この信用評価は、中小企業にとっては大きなメリットとなり、上場企業のような知名度がなくても、自社の信用ポイントを消費者や就職活動中の労働者にアピールできるのです。そして、信用ポイントに関連した、新しいビジネスチャンスもまた生まれるだろうという期待が高まっています。

中国のネット事情は日本とは違う

中国のインターネット規制といえば、身近なもので例えばYoutube が見られない、LINEやFacebookが使えないといったSNSへの規制が思い浮かぶかと思います。最近ではGreat Firewallの挙動が活発になり、イラスト投稿サイトpixivも規制され、検索エンジンYahoo! Japanからの検索が遮断されました。

前提として、中国のWEBサイトのすべては登録制であり、外資系企業のインターネットサービスは大半が規制されており、ネット上の情報管理においては厳格化が続いている、ということがあります。

そもそも、中国側のISSPが国際接続性を買わないため、日中間のインターネット回線は細く、料金も高くなります。これを回避するために、例えばアメリカや香港を経由して接続するとなると、今度は遠回りのために接続スピードが非常に遅くなる、というジレンマがあります。中国の外に通信インフラを置いた日本の企業から、中国向けにインターネットで情報を発信しようとしても、こういったネット事情の差によって、思ったほどのアクセスがない、というのが現状です。遅くて見づらい日本企業のWEBサイトには、中国のネットユーザーはまずアクセスしない、と言えます。

それでは中国にサーバを置けば、このような影響は受けないのかと言えば、それは誤りです。

上記のような、サイトの閲覧規制や検索の遮断といった通信遮断を行う法的根拠として、そもそも電信条例において「電気通信事業者に対して通信内容の確認を義務付けている」という点が、日本の電気通信事業法との最大の相違点です。

例えば、送信される情報が中国国家の安全を脅かすもの、機密の漏洩、民族間の対立や差別意識を扇動する、政権の転覆を企てるもの、といった内容であった場合は、伝送を中止して保存、政府関係機関に届け出なければいけません。

Great Firewallは電信条例に抵触する恐れのあるサイトを遮断し、また一度でも遮断されるとこちら(日本企業側)から元に戻す方法はほぼありません。中国向けの情報発信の際には、初期段階からコンテンツに注意が必要です。

中国にサーバがあれば監視や制限を受けない、ということはなく、中国向けにWEB上で情報発信を行う際、また、中国での通信、中国との通信においては、中国法を考慮、遵守する必要があります。

中国サイバーセキュリティ法の考察

2017年6月1日に施行された『サイバーセキュリティ法』は、インターネットにおける中国の安全保障、国家の情報管理と、中国国民の個人情報保護を目的として制定されたものです。簡単に言えば、中国国内の重要情報や、重大情報に含まれる個人情報は中国サーバに置く(外国へ勝手に持ち出さない)、といった内容が決められています。

実際には、ネットワーク空間における国家の情報管理が優先されており、個人情報保護の側面は世界的な流れに合わせて付属的に盛り込まれたもの、といった印象が強いです。しかし、日本や諸外国の企業が中国で活動をする際に最も触れているのは中国人消費者個人の情報が多く、この新しい法律のこの項目が自社の業務にどう影響するのか、については注目すべきです。また、サイバーセキュリティ法の施行日までに「個人情報の越境移転」に関する規則が公表されず、解釈に幅のあることから、将来の突然の適用を避けるため、リスクアセスメントを先行させる取り組みが始まっています。

サイバーセキュリティ法の重要な5点

特に企業が注意すべき点としては、セキュリティ保護義務としてログの保存やネットワークの監視、個人情報においては、業務上海外へ提供する場合(越境移転)に、セキュリティ評価が必要になる、という点です。

サイバーセキュリティ法フロー 企業が特に注意する点

自社の事業やサービス内容で扱う情報の範囲がどこまでであるかを今一度精査し、法律に基づいた適切な対応をとることが求められています。特に、重要情報に該当するものを取り扱っていないか、という点については、中小企業で該当するケースは少ないとみられていますが、日系企業のうち大企業では該当するケースは多いとみられています。

また、暗号法というものの存在も、日本ではあまり知られてはいませんが、これから制定される動きが始まっています。従来の『商用暗号管理条例』が実務に合わず、現場での解釈が曖昧であったために、法令へと格上げされた形です。暗号の分類や復号化を政府が求めることなどの規定が定められていますが、草稿では条例で曖昧だった点の多くが解消されていません。公布後に公表される適用例などで確認し、それによって対処しなければならなくなる可能性もあります。

中国は法律のアップデートが頻繁に行われるため、少なくとも月に3~4件の更新があります。思わぬ形で検挙や業務停止の憂き目を見ないよう、法の施行前に出る情報などにアンテナを張って、モニタリングしていくことが、これから必要になっていくことでしょう。

まとめ チャイナリスクとこれから

法改正が行われた際や政治的影響で日中関係が悪化した際など、日系企業にとってリスクがあるとはいえ、中国市場は世界が狙う魅力的な市場であることは間違いありません。

中国で失敗してしまう企業には共通点があります。例えば、年功序列などの日本的なマネジメントで、古参の社員であれば能力を問わず上に立っている会社。若くても優秀であればどんどん抜擢されて、空気の入れ換えが頻繁に行なわれているような会社の方が、何かが起こった時の対処が早かったり、「新中国」と呼ばれるような中国企業との関係構築が上手くいったりします。

また、中国が経済的に日本を追い抜いてから久しい現在、昔のように、日本が進んでいて中国は遅れている、といった、中国を下に見た考えでは、容易に足元を掬われます。天安門の前をたくさんの自転車が走っているような古いイメージは捨て、ITやキャッシュレス化の進んだ先進国として向き合う姿勢が重要です。

逆に成功している会社に見える特徴としては、マネジメントを中国の人に任せる、給与体系をローカルルールに合わせる、現地でもインセンティブを付けるといった、中国の事情に合わせた働き方が出来る点などでしょう。中国市場という大きな場所に出た以上、「郷に入れば郷に従え」といった姿勢のほうが、うまくいくのではないかと考えられます。

シェアリングエコノミーコワーキングスペースと言った、欧米への留学経験のある若い世代が立ち上げる新しいビジネスモデルや、政府が主導する信用ポイントやキャッシュレス決済の普及など、日本企業が戦うために理解したり、取り入れていかなければならない新しいものがどんどん生まれてくるのが中国です。

それらが自社とどう関わり、どういったサービスと繋がっていくのか。

日本では中国のように電子決済や信用ポイントが国家主導でインフラとして整備されることはまだ現時点では考えにくいです。しかし中国の経済圏はすでにアジアに広がりを見せていて、支付宝を使える国も増えています。そして、世界の潮流は明らかに中国と同じ方向に進んでいます。

流れに乗り遅れないよう、また法律などによる規制で足元を掬われないよう常にアンテナを張り、そして日本のすぐそばにこんなにも巨大で魅力的な市場が広がっていることを強みとして、日本企業としての戦略を打っていくことが重要ではないでしょうか。

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