【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(3)トークンエコノミーとECのこれから~日本企業が成功するには?~
中国トレンドExpressで月1回行っているセミナー。11月は「中国ビジネスの裏側に迫る 中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖! ~中国サイバーセキュリティ法からIoTまで~」と題し、株式会社クララオンラインの家本社長にご登壇いただきました。
会員様限定でお送りしている本セミナーレポート第2回では、「シェアリングエコノミーから見るNB-IoT」と題し、近年急成長を遂げたシェアサイクリング市場をはじめとする新ビジネスについてお伝えしました。第3回となる今回は、中国の越境ECは結局どうなのか? という点についてお伝えできればと思います。
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【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(1)China UPDATE~2017年の中国を知ろう~
【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(2)シェアリングエコノミーから見るNB-IoT
ユーザーを囲い込むトークンエコノミー
「微信支付(we chat pay)」や「支付宝(アリペイ)」に代表されるスマホ決済が一般化してきた中で、トークンエコノミーという概念が誕生しました。これは例えば、アリペイで決済をすればするほど、携帯電話の転送量を何GB分か進呈されるといった具合に、ひとつの自社サービスを使えば、消費者から必要とされる提携他社のサービスがプレゼントされるという仕組みです。
中国では携帯電話の料金システムが従量課金制であり、転送量に定額制がないため、上記の例は少しでも通信費を抑えたいというユーザーの希望と合致した特典となっています。企業側も自社の経済圏でユーザーの利用と得点進呈が回っていることから、特典のために大きな負担を強いられることがありません。
このように、キャンペーンなどで特典を付与して消費者に「お得感」を持たせると同時に、複数のサービスを併用してもらってその中でユーザーを囲い込む、というエコシステム=トークンエコノミー(特典ビジネス)が中国で始まっています。これは、損得勘定に大変敏感な中国人消費者を取り込むためには非常に有効です。
越境ECなどで中国市場へ出店しようとしている日本企業は、このトークンエコノミーを積極的に取り入れて、まずはユーザーを確保することが重要です。そして、消費者にとって大きなメリットとなりつつも、自社の負担にならないようなキャンペーンを打つような戦略が必要となってくることでしょう。
越境ECは実際に盛り上がっているのか
最近になって中国向け越境ECへ進出しよう、という企業の最も多い誤解は「日中間の越境ECが盛り上がっている。中国の若者は日本製品が好きだから、自社商品もこの流れに乗れば売れるだろう」といった認識です。
しかしECサイトに「日本製品が中国語で並べられているから」売れるといったことはなく、現在はすでに越境ECへ挑戦した企業の勝敗が決まりつつあり、売れないところは歯牙にもかけられていないのが現実です。
自社の得意な領域に絞るための「類型化」
越境ECと言えば、多くはTmall国際、京东商城(JD)などへの出店や海外向けECサイトの立ち上げ、といった狭義の越境ECが思い浮かぶかと思います。
しかしこのほかにもアプローチ方法は存在していて、それを広義、もしくは新業態の越境ECと分類すれば、
- 狭義の越境EC:Tmall国際、京东商城(JD)などへの出店・海外向けECサイト等
- 広義の越境EC:現地EC事業者への正規流通品の卸売・波罗蜜(bolome)、小红书(RED)のように、新しいモバイルアプリ、コンテンツにECを掛け合わせたもの等
と、分けることができ、自社が持つ強みを活かせるアプローチ方法に絞って挑戦する傾向になっています。
日本企業がいわゆる越境ECサイトで自社商品の小売りを行なおうとした場合の問題点として、
- 出店させてもらえない
- 出品しても売れない
- 出店コストが高すぎる
と言ったことがあります。このため、狭義の越境ECでのビジネスにおいて、中途半端な投資額では太刀打ちできず、失敗してしまう可能性があります。一口に「越境EC」といっても、卸売であったり、一般貿易を通して中国国内の業者にECサイト上で流通させてもらったりと、アプローチ方法の可能性を広げ、自社の強みを活かせる参入方法はどれか、といった点を的確に判断することが重要となっています。
盛り上がるコンテンツ産業
それでは実際に今の中国で売れている「日本」とは何なのでしょうか?
一昔前のゲームや漫画、キャラクター権利といったブームが一度落ち着き、日本のコンテンツが中国社会に広く浸透してきたこのタイミングにおいては、映画などのコンテンツ産業が注目を集めています。
もとより日中間の政治的な関係から映画などの大衆娯楽は非常に制限が厳しく、特に2012年の尖閣諸島問題以降2015年までは1本も映画が輸出できなかった背景があります。それより前であっても、アニメなどに限って年間2~3本ほどが輸出されていた状況でした。中国の輸入映画の大半はアメリカから輸入したものが占めていたのです。
しかし2016年には過去最多11本の日本映画が公開され、特徴的なことには、記憶に新しいように『君の名は。』など、日本での公開からさほど時期がずれずそのまま公開されています。
そもそも中国の映画の興行収入は世界トップレベルでもあり、また、国内映画の製作本数も増え続けていて、各都市に映画館が急増しています。第1回にも述べたように、娯楽の少ない中国において映画は非常に人気の高いコンテンツです。今後、そう遠くない将来に、中国の映画業界全体の興行収入はアメリカを抜くだろうと見られています。
そういった盛り上がりをみせる中国の映画業界に対して、日本のコンテンツ産業がとれるアプローチとは何かといえば、そのコンテンツそのもの、例えば映画作品そのものを輸出することも、以前よりは行いやすい状況にあると言えるでしょう。
しかし、実写作品など未だに規制が多いコンテンツの場合は、それ自体の企画であったり、ストーリーであったりといった「枠組み」のみを提供することも可能です。例えば『深夜食堂』の中国版など、日本でヒットした作品を中国人監督、俳優を使ってリメイクした作品がこの事例に当たります。
娯楽への関心が高まっている今、中国に対しては作品そのものの輸出よりも、映画化の版権、リメイク化の権利の販売が増加しています。今年2017年は日中国交正常化45年の節目にもあたり、引き続き文化面でも開放感が強い印象があり、コンテンツ産業界にとってはまだまだ中国に対するチャンスがあると言えるでしょう。
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中国を数字で見る(3)成長すさまじい中国映画市場、個人制作映画も流通
これからのアプローチ
映画以外で注目してほしいこととしては、一人っ子政策の廃止によって出生数が増加している、という現状です。2016年には出生数が年間1800万人に近づき、中国政府は、2020年には出生数2,000万人台に上ると予測しています。つまり、絵本や知育玩具など、これから増加する乳幼児、キッズに関する産業は、確実に需要が増えます。日本企業としても、すぐそこに広がる巨大マーケットを見逃すことはできません。
越境ECにしろコンテンツ産業にしろ、「デベロッパーからパブリッシャーまで」という言い方をよくされますが、そういった作るところから売るまでの全てを、日本企業が中国で担うことはあまり推奨されません。膨大な投資額が必要な上に、失敗しやすい傾向があるからです。何かひとつの自社の強みを持っていき、それを中国で売ることに長けた現地法人と繋がったり、一緒に作ることで、そこから広がるチャンスがある、と言えるでしょう。
次回、第4回では、近年中国が国策として推進する個人の「信用」ビジネスと、サイバー対策基本法から、いわゆる「チャイナリスク」を考察していきたいと思います。
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【セミナーレポート】中国事業のチャンスとリスクを徹底解剖!(4)信用と中国サイバーセキュリティ法。日本企業の明暗を分けるものとは