【セミナーレポート】双十一の振り返りと2018年春節対策(3)~成功した企業、5つの共通点とは
中国トレンドExpressで月1回行っているセミナー。12月は「双十一の振り返りと春節対策! 売上を拡大した事例から探る中国で有効なマーケティング手法とは?」と題し、中国最大のECサイトイベント《双十一》を振り返りました。(2)では、なぜ双十一がここまで盛り上がるのかについて中国の現在と照らし合わせて考察し、実際の戦い方について概略を述べました。
今回は、成功した企業の共通点と戦略について、具体的に迫っていきたいと思います!
双十一イベントのプロセス
双十一商戦は、11月11日の当日だけではなく、その前からすでに始まっています。この点については以前のセミナーでもお伝えしていますが、改めてお話ししておきたいと思います。
10月中旬から予約販売が開始され、そこから10月30日まではウォームアップ期(予熱期)と呼ばれ、双十一の認知を高めたり、値下げ商品、注目商品などのPRが始まります。
11月1日から、11日の当日までは本番期です。ECサイト内での企業の広告活動やポップアップが活発になってきます。
本番後の11月12日以降は、ブランディング期とされ、双十一で認知が高まった商品や人気のあった商品、またその企業の他の新商品などが、その後もさらに売れ続けることがあります。
双十一発祥の大手ECサイト天猫(T-mall)では、ユーザーが企業のページをフォローすることが出来ます。気に入ったブランドのページへ簡単にアクセス出来、新商品など、双十一ではない時でも同ブランドの商品が購入しやすくなる機能です。そのため、双十一でブランディングに成功し、新規フォロワーを獲得した企業は、その後も商品が売れやすくなります。
UU数と売上の相関関係
ユニークユーザー数(以下、UU数)とは、ECサイト内に出店している企業の、その企業ページを訪問したユーザーの数を指します。以下のグラフは、今回の双十一に参加したある日本企業の、天猫(T-mall)内での企業ページ内におけるUU数です。
予熱期のころから徐々に増え、増減を繰り返しながら当日までに一気に閲覧者数が上がった様子がわかります。UU数と売上には相関関係があり、この数字が増えれば予約販売数も増えていきます。
予約販売数の増加については以下の化粧品ブランドの事例も顕著でした。途中停滞があるものの、最後の双十一本番では一気に売上が加速し、最終的な売上は予算比400パーセント超を達成しています。
ここに示したそれぞれの企業は前年比、予算比をはるかに上回る売上を達成していますが、これら成功した企業には、どのような共通点があるでしょうか?
成功した企業の5つの共通点
それぞれの企業の共通点として、まとめると以下の5つに大別されます。これらについて、詳説していきたいと思います。
- 予約販売と同時にプロモーションを加速
- 期間中の継続的ブランディング
- 期間外の継続的ブランディング
- ECサイト(モール)内だけでなく、そのモール外でのブランディング
- 参加しやすいシンプルなキャンペーン内容
①予約販売と同時にプロモーションを加速
双十一に参加している多くの企業が、本番期(11月1日~11日)での広告戦に力を入れがちですが、予約販売の開始される予熱期にすでに双十一の商戦はスタートしていると言えます。
予約販売時に一気にプロモーションを仕掛けることがなぜ重要なのかといえば、この予約販売の時点ですでに多くのものが買われている(カートに入れられる)傾向にあるからです。
決済は双十一当日としても、この時期からユーザーは欲しい商品を自分のカートに入れていきます。当然、ユーザー側も予算は無尽蔵ではありません。先にある程度買ってしまえば、それ以降は知らない商品、新商品への興味は薄れていきます。
また、11月1日以降からたくさんの企業が広告活動に力を入れるため、その時期に初めて広告を出したとしても、すでに周りでは多くの企業が同様にプロモーションを行っており、自社のものを見つけてもらえる可能性はどんどんと低くなります。他社のプロモーションが少ない時期に広告を出した方が断然有利です。
本番期にも盛り上がるのはもちろんですが、競争は激化します。そのため、それより前から認知度を上げ、予約販売開始時には予約されておくことは非常に重要です。
②期間中の継続的ブランディング
双十一の期間中は、「継続的なブランディング」が必要になってきます。
中国市場で有効とされるインフルエンサー・マーケティングについては、KOL(Key Opinion Leader)と呼ばれるインターネットタレントを起用した動画等のプロモーションが多くあります。しかし例えば動画をひとつ制作して流す、それだけでは、双十一において有効だとは言えません。動画の多くはSNS上で展開されますが、タイムラインは情報の入れ替わりが激しく、すぐに画面外へと流れて消えていってしまいます。
このSNS上でタイムラインに流れていく情報を「フロー情報」と言いますが、KOLマーケティングはこのフロー情報そのものです。打ち上げ花火のように、一瞬はとても大きな盛り上がりを見せるため、期間限定のキャンペーンにおいては有効な手段のひとつではありますが、その分熱しやすく冷めやすい、効果が継続しにくい側面があります。
ブランドというものは、消費者の間で積層されるものであると考えられます。ひとつのブランドの広告を「今日も見た」が何日も続くことで「このブランド知っている」と変わります。また、口コミにおいても、人が人を呼び、良い評判が共有されていくことでブランドの力が強まっていきます。
そのため、双十一のように多くの企業が広告を出し、情報が頻繁にアップデートされる状況下においては、常に話題に上るように、常に広告が表示されている方が有利です。購買意欲が高まっている中、継続的に消費者の目に留まることで、ブランド力が高まり、消費者が買いやすい状況になっていきます。
③期間外の継続的ブランディング
今回の双十一で売上があったケースには、「双十一以前からよく売れていたものが、双十一当日には更に売れた」というものが多いことも見逃せません。消費者の心理としては、「以前から興味はあったが買うきっかけがなかったものを、双十一を機に買う」といった形で、年間を通じてブランディングがされていた中で購入につながったケースです。
双十一のみでプロモーションを行っても、認知や購買意欲獲得までに時間が足りず、売上につながらない場合もあり、双十一以前からの口コミの形成や、継続したプロモーションが重要となります。
④ECサイト内だけでなく、そのモール外でのブランディング
(2)で、他の媒体や口コミで商品を知り、ECサイトで検索して購入する「指名買い」について少し触れましたが、売上を伸ばしている企業には、この「指名買い」へと消費者を導くことに成功している企業も少なくありません。
ECサイト(モール)内で欲しい商品を探すのではなく、その商品名で検索するため、そのほかの類似した商品はあまり目に付くことがありません。モールに入った時点で消費者は欲しい商品が決まっています。いかに、「指名買い」をしてもらうか。商品のブランディング競争は、モールの外ですでに始まっているのです。
⑤参加しやすいシンプルなキャンペーン内容
今年の双十一で課題として残った点に、「複雑な仕組みで結局どのキャンペーンに参加すれば一番安くなるのかがわからなかった」というものがあります。
中国国内モールと、越境ECサイト内で同一商品を出品した際に割引率が異なっていたり、そもそもの値段が異なっていたりといったことから、偽物を疑われてしまったケースもありました。悪い口コミが広まってしまうと、その後のブランディングにも影響しますので、このようなことで傷がつくことは避けたいものです。
自社のキャンペーン内容は統一されているかと言った確認や、T-mallなど自社が出店しているECサイトのキャンペーンについても理解が必要です。
実際のプロモーション事例
それでは、先ほどUU数の推移を示した企業は、どのような戦略をとったのでしょうか。
予約販売開始と同時にPR記事を配信し、予熱期から本番期にかけて複数回の記事を配信します。そして本番期、双十一間近でKOL施策、同時に11月1日以降はECサイト(モール)内での広告も展開しました。図に示された通り、PR配信とUU数の増加は相関関係にあり、UU数はPR配信と同時に一気に増え、その後収束し、またPR配信によって上昇する、を繰り返していることがわかります。
どのタイミングで記事配信を行うか、そしてその訴求する内容が重要にはなりますが、一度上がったUU数は、必ず下がります。期間内に何度もユーザーの関心を引き寄せるよう、継続的なプロモーションが必要です。
また、予約販売数についての先ほどのグラフに、化粧品ブランドのとった施策を重ね合わせると、以下のような形となります。
ここでは、記事配信とKOL施策を同時に行ない、予約販売が急激に増えました。そして配信後はすぐに下がります。他の企業も広告を出しており、興味関心がそちらへ流れていくためです。第3回の記事配信時は予約販売数の伸びが低迷しましたが、最後のKOL施策配信時には再び大きく売上を伸ばしました。
最後に売上につながった理由としては、第1回、第2回の配信時に認知度を上げており、蓄積されたブランドが消費者の知覚に届いていたことが大きいと考えられます。例えばこれがこの本番期一度だけの配信であれば、ここまで売り上げは伸びません。いきなり知らない商品の広告を見ても手を出しづらい、ということが消費者の心理としてあります。
しかしこのブランドがその前から継続的に打っている広告をユーザーが見ていたことによって、知っている商品だという安心感から購入につながったともいえるのです。一度だけ大きな広告を打つよりは、予熱期からの数回にわたった継続的なPRのほうがより効果的だといえるでしょう。
まとめ
継続的なブランディング、プロモーションは、双十一で売上を伸ばすためには欠かせない施策です。PR動画や記事など、配信直後は大きな話題になったとしても、熱しやすく冷めやすい中国市場ではすぐに鎮静化してしまいます。
今やECサイトのモール内は、欧米や韓国など世界中の企業を相手に競争が激化したレッド・オーシャンとなっています。すでに大量の情報がある枠組みの中で、新たな情報を出したところで、多くの人の目には入りません。モールの中のみで広告戦を繰り広げても、予算のわりに消費者に届かない消耗戦となってしまいます。
ほとんどの企業は、モール外でのブランディングに重きを置きません。それは、効果が数字では測れないからだと言われます。モール内での広告展開であれば、コンバージョンや広告経由のアクセス数などが数字としてわかります。効果測定のしづらいオフラインイベントやSNS拡散といったプロモーションには予算があまり割かれていないのが現状です。
しかし結果的に売上を伸ばす、という最終目標を目指すのであれば、いちモール内での広告効果の計測ではなく、様々なSNSでの「バズ」を生み出すことに重点を置く方が有効ではないでしょうか。媒体はどうであれ、広告が届いて消費者に「欲しい」と思わせることで、直接商品を検索してたどり着く「指名買い」が生まれます。モール内でのユーザーの取り合いではなく、外から顧客を呼び込む方が、最終的に大きな売上につながることでしょう。
以上のように、双十一で成功した企業についてその共通点を見てきましたが、この中にある戦略は、実は他の時期でも、中国EC市場で戦う際非常に有効です。
十一が終わった今、これからの中国市場でどう戦うべきなのか。
今回の双十一総括や他の成功事例をもとに、2018年・春節や他の商戦期ではどういった対策を打つべきか、次回以降お伝えしていきたいと思います!
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【セミナーレポート】双十一の振り返りと2018年春節対策(4)~2018年春節とこれからの中国市場をどう戦うか