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【ダブルイレブン】 W11(独身の日)の見えないファイター 速達便業者が迎える戦いのとき

中国最大のECイベントである「ダブルイレブン(独身の日)」。同イベントに関して、日本では金額面ばかりがクローズアップされますが、中国国内では金額以外にも様々な部分で注目を集めています。その一つが「物流」。W11当日に向けて綿密な準備を進めているのはメーカー、店舗、EC業者、そして消費者だけではありません。「快逓(速達便、バイク便)」会社にとっても、まさに戦いの日なのです。W11の物流に関するデータを見ながら、速達便業者の変化を見てみましょう。

 

今回、中国トレンドExpressでは、昨年のW11についてのクチコミ調査を行いました。


▼前回の記事は
【W11特集】 2017年W11をクチコミ分析 見える中国消費者の心


その中で、「W11×配送」というキーワードで、商品が到着するまでの日数を聞いてみました。ちなみに、TaobaoやT-Mallを運営し、W11イベントの生みの親でもあるアリババでは、W11当日(11月11日)から多くの商品が消費者に届く6日間を「W11期間」としています。

W11、到着までは何日間?クチコミ調査で見える配送事情

さて、クチコミ調査では以下のグラフのような結果となりました。

【グラフ】2017年W11、商品到着までの日数

出所:中国トレンドExpress調べ

その結果を見ると、商品が届くまで「2日から3日」というクチコミが最も多く7割以上を占めています。それに次いで「4日」という回答です。また、広大な中国では「5日以上かかった」ケースも10%程度存在している様子です。

日本のECでも、即日発送のサイトも多くあり、遅くとも2日後には到着しているケースが多いと思います。それゆえ、この結果だけを見ると「まぁ順当」といった気はします。

しかし本当にそうでしょうか?

クチコミデータは確かに実態をつかむのに非常に有用なデータです。しかし、それを正しく読み解くには中国の社会、対象となるイベントや商品の背景を知らなければいけませんし、その状況をイメージする想像力も必要となります。

昨年のW11の売上はTaobao、T-Mallだけで1,682億元でした。では、その金額を生み出した商品は、いったいいくつあり、またこの商戦には何社のメーカー・店舗が参加していたのでしょうか? それらから、W11の物流状況を想像することができます。

W11商品配送に関するクチコミデータ解析のため、別の関連データを合わせて見ていきましょう。

1日で8億個! 物流にとっても熱い戦いの日

下のグラフは、中国W11期間に取り扱われる小包量の推移です。

これを見てみると、W11期間(11月11日から16日までの期間)取り扱われる小包の個数は年々増加していることが見て取れます。

その数は2017年には約14億個に達しており、そのうち、11月11日当日に取り扱われたものは8億個に上っています。

2017年時点の日本の小包の取扱量が40億個といわれていますが、その5分の1がわずか1日に集中して取り扱われることになります。

 

【グラフ】W11期間(11月11日~16日)とW11当日の取り扱い小包量  単位:億個

出所:中国のメディア報道を基に中国トレンドExpressにて制作

W11当日は各店舗では発注に対応に追われ、その後すぐに箱詰め、袋詰めの作業を行い、それを「速達便」業者に委託していきます。それを速達業者は、自社に集積し、中国各地の配送センターへ配布、消費者指定の場所(自宅、仕事場)へと配送します。

しかし、W11初期にはその物流量ゆえに、多くのトラブルが生まれました。続いて、それを示すデータを見ていきましょう。

「商品が届かない!」から「2日で届いた!」へ

では実際、どれだけの日数がかかってきていたのでしょうか?

下のグラフは過去のW11で、1億個の小包の配送が終了する(消費者のもとに届く)まで、どのくらいの日数がかかったか、というグラフです。

 

【グラフ】W11期間(11月11日~16日)1億個の小包配達終了までの平均日数 単位:日

出所:中国のメディア報道を基に中国トレンドExpressにて制作

初めて小包取扱量が1億個を突破した2013年、1億個を配り終えるまで9日間かかっています。当時のネット上でも「まだ届かない!」、「いつになったら届くの!?」という消費者のクレームが数多く見受けられました。

2012年や2013年はTaobaoが主流であったことから、小規模店舗が多く、店舗からの電話を受けた速達業者が店舗(企業や個人宅)を訪問し、受け取り、伝票を書いて処理する…という普通の速達業務を行っていました。

しかし、あまりの多さに集荷担当者の不足、また配送センターでも仕分け人員の不足、配送用の車両やスタッフの不足によって、各配送センターには未配送の小包がうずたかく積まれ、疲労困憊の速達業者と怒り心頭の消費者の声がメディアで報道されていました。

しかし、それが2017年には平均2.7日と5年間で一気に短縮されています。2.7日という時間は、前述の口コミと一致しており、平均的にかかった日数といえるでしょう。

ここにはW11を事実上、取り仕切るアリババグループの努力がありました。

というのも、消費者にとってスピーディな配送はそのまま「カスタマーサービス」への評価となり、割引などに並ぶ大きな購入決定要素にもなるからです。

アリババグループは、百貨店を経営する杭州の小売り企業「銀泰」、また日本では北海道のトマムリゾートの実質的オーナーとして知られる投資企業「復星」、ネットワーク構築を得意とする「富春」といった企業を集め、さらにそこに中国速達業者大手の「順豊(SFエクスプレス)」や、いわゆる「三通一達(申通、圓通、中通と韻達)」と呼ばれる主要速達会社と共同で、新たな物流プラットホームを作り上げました。

それが「菜鳥(Cainiao)」です。

菜鳥は集荷、配送業務だけの単純な物流会社ではなく、倉庫、配送途中の追跡サービス、商品代理受取サービスなどを、ITによって一元管理することで、中国国内どこでも24時間配達を可能にした巨大な物流ソリューション。TaobaoやT-Mallの出店企業を物流面でサポートしています。

この導入、さらにはその機能の充実化によって、2017年のW11でも大きな混乱なくスピーディに配達することが可能になったのです。

膨大な物流量~IT化せざるを得ない中国

さて余談ではありますが、このW11の物流事情から少しだけ中国の世相を読み取ってみましょう。

アリババでは菜鳥を「China smart logistics Network」と呼んでおり、いわゆるIoTを物流に応用した代表的な案例となっています。

昨今は中国のIT技術が注目されており、深圳市などを視察して刺激を受けて帰ってくる日本人ビジネスマンも多くいるようです。

W11でも電子決済が一般化しており、また物流に関しても菜鳥のようにIT技術を応用した、新しい物流システムの構築に果敢にチャレンジしています。

その姿に「日本の出遅れ感」を抱く人も多いようですが、中国にはそうせざるを得ない事情があります。その事情とはすなわちW11の物流量です。

いかに人口が多い中国でも、1日で8億、1週間で14億もの小包を裁く人員を確保することは困難でしょう。

つまり、中国が持つ圧倒的な数量に対応していくには、ITという最新技術に頼らざるを得ない状況にあるのです。

まさに「苦境の中で生まれたイノベーション」。社会の転換期にあり、解決を迫られる巨大な課題に多く直面している中国ならではの発展といえるでしょう。