【中国人気女優事件】 ファン・ビンビン報道にいろいろな世相が反映されている件
猛烈な暑さも和らぎ、心地よい秋の空。中国トレンドExpress(通称:CTE)編集部では日夜、中国の最新情報を集めるべく緊張した雰囲気に満ちていた。
編集長もその一人。率先してデスクの上に足を投げ出し、スポーツ紙からネタ探しをする、フリに精を出していた。
編集長「スポーツ界でパワハラねぇ。いけねぇなぁ。権力ってのはどうしてこう人を腐らせるのかね。その点、ウチの編集部にはそういう心配はいらねぇよな。なんてったって、編集長(オレ)にパワーも権力もねぇからな。」
編集A「なに言ってるんですか。そんなことより、中国じゃまだあの件が続いていますよ!」
編集長「(オレに権力がないことを“そんなこと”扱い?)。お…おぅ、あの件???」
編集A「例の“某有名女優脱税事件”ですよ。ネット上だけじゃなくて、どんどん話が広がってますよ。」
編集長「あぁ、ファン・ビンビンの件な?ってか、某いらないだろ、もう。」
編集A「じゃぁ、テキトーに取っとけ。」
編集長「(あれ、今オレ、部下に命令された?)」
編集A「とりあえず、状況報告しますね(にっこり)。」
編集長「(気のせいか…)おう。」
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ファン・ビンビン事件の結果は?
編集長「この案件、とりあえず“結果は出た”んだったよな?」
編集A「はい。未納分、追加徴税分、罰金あわせて合計8億8400万元(約143.8億円)の支払いが命じられました。ただし刑事処分は受けていません。」
編集長「申告漏れが2億元強。意外に少なかったな。」
編集A「え?これ近年の個人による脱税事件としては最大級ですよ。中国国税局はファンと彼女の会社の4種類の脱税行為に対して、0.5から4倍の罰金。さらに年末まで全部支払わないと刑事責任を問われます。」
編集長「まぁ、それでも今回証拠として挙げられたのは、一部だろう。」
編集A「確かに、1作品分だけですもんね。でも、ネット上はかなり厳しい言葉で溢れてますよ。ファン・ビンビン個人への批判とか、あと刑事処罰を受けなかったことへの不満もありますね。」
- こんな事(脱税事件)はもう何回も発生しているのに、weiboの「熱捜(ホットトッピング)」にもなっていないなんて。
- 芸能人はただの職業、こんなに給料は必要ないでしょ。逆に国の英雄や技術者が無視されてる。
- ビンビン姉貴は普通の人間じゃないかも(背後に国の大物がいるという噂も)。
- 芸能界から出てけ!
- 法の厳格な執行はどこへ行った?泥を混ぜた(原則から外れても事を早く済ませるの意)中国ドリーム?
- 法律はもう子供だまし、「中華の道」(中国昔からの悪い習慣:賄賂、特権など)は古来変わらず、官僚有名人は特権がある。
編集長「彼女も謝罪文を公開したんだろ?」
編集A「そうですね。処罰が発表されたのと同日にWeibo上に掲載されています。」
編集長「あんまり洗練された文章とはいえんな。」
編集A「こら!」
編集長「いや、だって杭州の学校の国語の授業で添削されたらしいぞ?」
編集A「いや、これってどうなんだろ?」
編集長「でも、彼女のファンもまだ多いだろう。」
編集A「そうですね。ネット上はもう批判でいっぱいなんですが、一部のファンは“ビンビンLOVE”を公言してますし、芸能界復帰も望んでいるようです。ただ、批判派からは“金で買われたんだろう?”みたいな心無い声も多いようですが。あ、あとやたら国の英雄と比較する批判も多いですね。」
編集長「それは2010年に “国家精神造就者栄誉”ってやつを受賞しちゃったからな。」
編集A「なんです、それ?」
編集長「2007年に新しく作られた、文化や映像、芸術、企業などの各領域で国の精神を体現させる大きな功績をもたらしたとされる人物に与えられる賞だ。彼女は2010年に万科集団の王石や映画監督の馮小剛と一緒に受賞している。」
編集A「あちゃ~。」
編集長「国を愛する人たちからしたら、“その金、国のために使えや!”ってところなんだろうな。」
編集A「今回、二重契約ってかなり不名誉な内容でしたもんね。」
実は民間ではよくあった「二重契約」
編集長「でもなぁ、一昔前まで上海なんかでも二重契約ってのは民間で行われてたしなぁ。」
編集A「え?そうなんですか!?」
ほんの数年前まで、中国の民間において二重契約に近いものは行われていたのです。
例えば不動産。
なかでも中古物件の販売においては実際の販売価格より過少に記載することで不動産交易時の諸費用を抑えたり(この場合、物件価格との差額は現金で支払う)、また賃貸においても大家(個人オーナー)と不動産仲介会社、店子の間で行政に提出する契約書外に「覚書」を交わし、「建前の賃貸料」と「本音の賃貸料」を分けて書くことで、余計な出費を抑えていたのです。
ここでいう余計な出費というのは、雑費などではなくいわゆる「税金」のこと。
中国では節税や手数料節約の意識が強く、軽減させるためにはあの手この手を使っていたのです。もちろん行政としてもきちんとした税収を行うべく、印字型の領収書の設定、カード支払いの推奨などを行っています(カードでは支払い履歴が残る)。
編集A「なんでそんな風になってるんですか?」
編集長「いろいろな背景はあるが、納税後に国が公平に活用することをあんまり期待してないんじゃないかな。自分のために活用してくれるという保証はないわけだから、だったら手元において自分のために使おうとするだろう。」
編集A「あ、なんかそれ納得できます。」
編集長「まぁ、コッチだって国有資産がよくわからない理由で大幅値引きされて売却されたりしているから、大差ないんだがな。」
今回は発展途上の中国クリエイティブ産業大掃除?
編集A「でも、ファン・ビンビンともあろう大女優に、なんでそんな市井の契約方法がまかり通ってたんですかね?」
編集長「まぁ、今回の一件はそういうのを含めて、中国クリエイティブ産業の大掃除って気がするがな。」
編集A「クリエイティブ産業の大掃除?」
編集長「経済発展した中国では、これまでの工業や小売業以外に、クリエイティブ産業、文化産業の発展を奨励したんだ。政府の補助金なんかを大量に投入してな。アニメ産業や映画産業なんかがそうだった。政府やら企業やらの大量の資本が流れ込んだんだが、そもそもが新しい産業だったものだから、いわゆる“業界ルール”というものがあまりなかったんだろう。」
編集A「あ~なるほど。だから人気になると、もう天井知らずで値段が上がったわけですね。」
編集長「そうだな。そうやって急拡大したから税制度も追い付かない。それに、メディアは基本政府系だ。会社の監査や税金の計算なんかも甘くなる。」
編集A「だから、さっきのような二重契約がまかり通ったわけですね。」
編集長「おそらくな。でもここまで市場が大きくなると、不正の規模も巨大化する。そろそろ“手打とうか”って感じで、一番大きなところから手を付けた。」
編集A「そうすると、これはまだ続く?」
編集長「先日の通知が出ただろう。」
編集A「通知?」
中国の国税当局は先週(10月2日)、自発的な会計申告を促す通知を映画業界へ出しました。その内容は以下の通り。
- 2018年10月10日から、2016年以来申告した納税状況について自身で再度確認、精査する事。
- もし未納分がある場合は年内2018年12月31日に納めること。
- 期限内に納付した場合は行政処罰を免ずる。
- 2019年1月から2月末にかけて税務当局は業界関係者の自己精査・申告結果に基づき、個別に注意・督促、およびより一層の精査を呼びかける。
- その結果“自発的に”精査をした者に対しては、仮に未納分が」見つかったとしても行政処罰を軽減、場合によって免じる。
- 2019年3月から6月にかけて、当局の注意、督促を受けても従わない企業、業界人に対しては重点的に調査を行い、法に基づき処罰する。
- 2019年7月には、これらテレビ映画業界の綱紀粛正を完成する。
出所:国家税務総局関於進一歩規範映視行業税収秩序有関工作的通知(中華人民共和国人民政府ホームページ) 中国語
編集A「ひょえ~。これはもう通知っていうより勧告ですね。」
編集長「まぁ、もう“次にあげられるのは誰だ!”なんてメディアが騒いでるぐらいだからな。」
▼参考
税务总局下狠手,下一个“范冰冰”会是谁?出所:捜狐(中国語)
さてさて、彼女の今後は?
編集A「でも、どうなっちゃうんですかねぇ、彼女。」
編集長「どうだろうなぁ。でも数年たってほとぼりが冷めれば出てくるんじゃねぇかな。ネット上にはまだコアなファンがいるみたいだしな。」
10月7日、ファン・ビンビンの「あなたたちの思いを感じています!あなたたちを思っています!」という書き込みに、多くの返信がありました。
- ああああ あなたが元気ならいい!泣いちゃいます。待ってます。私たちはずっとここにいます。会いたいよ。ずっと傍にいます。本当に。
- 何度でも言います、道は長い、一緒に歩こう!ずっと一緒にいます。
- あなたが恋しい。
- この愛、余計な言葉は要らない、一生守ります。
- 道はいくら遠くても。永遠に傍にいます。必ず良くなります。
編集長「オレと違ってパワーあるからなぁ、彼女は。」
編集A「何言ってるんですか。十分にパワーあるじゃないですか?」
編集長「ホントか?」
編集A「そのパワー使って、次のネタ、集めとけよ。」
編集長「(え、だから命令?っていうかオレ、下っ端?)……はい。」
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