中国トレンドExpress

【中国消費動向】大塚家具の中国側パートナー「居然之家」って? 頼みは「アリババ」ニューリテール?

日本の大手家具・インテリアショールーム「大塚家具」が先日、中国の同業者である「居然之家(英語名:Easy Home)」との事業提携を発表しました。

日本で知られている中国企業には大手コングロマリットの「中信集団(CITIC)」や「アリババ」、「テンセント」といったIT企業、そして今話題の「華為(Huawei)」などがありますが、こうした家具・インテリア業界となると「どんな企業?」という人も多いはず。

そこで中国トレンドExpressでは、この知られざる中国家具インテリアショールーム「居然之家」、そして中国の家具市場についてまとめてみました。

「居然之家」とは?
中国の大手家具・インテリアショールーム「居然之家」を運営するのは「北京居然之家投資控股集団有限公司(董事長:汪林朋)」。北京に拠点を置き、1999年に設立されてから約20年で、中国国内に200店舗を展開、2018年の総売り上げは850億元(約1兆3860億円。2017年の売上は750億元)と、この業界においては上海に拠点を置く「紅星美凱龍」やスウェーデン著名企業である「IKEA」と肩を並べる業界TOP10にまで成長した企業です。

同時に、家具の販売だけではなく、グループ内に住宅内装の設計、施工を一貫して提供できる内装企業や主にそうした内装消費者に対しての小口金融業務を行う金融会社、さらには自社で土地開発(商業施設や住宅、オフィスビル)を行うデベロッパーといった企業を有し、まさに内装をコアとした不動産総合企業となっています。


日本とは異なる不動産市場

同社が事業を展開する中国の家具市場を知るには、中国独特の不動産市場を知る必要があります。

 

「中国ではマンションもスケルトン状態で引き渡される」

という話は中国に関わったことのある人であればもはや常識。近年は簡易内装の物件も増えましたが、それでもスケルトンでの引き渡しが一般的。

また購入も、日本のように不動産仲介を介してではなく、新築の場合は不動産デベロッパーから直接販売されることがほとんど。

購入者は引き渡されてから自身で内装業者と契約し、デザインから施工までを発注するのです。そのため、入居できるのは引き渡されてから2~3か月後であることが普通です。

 

この理由はひとえに「デベロッパーが信用できないから」というもの。

実際に初期建設で引かれている水道管や排水管、電気の配線などは非常に廉価なものが多く、それをそのまま使うとトラブルになることが多いのです(漏電、漏水)。

そのため、購入者は信頼できる内装業者に頼んで、そうした見えない部分からすべて敷設しなおします。

「中国では建材はBtoC」と言われるのはそのため。

ちなみに、日本のマンションなどを購入する中国人も増えており、日本で不動産仲介の方からも「最近は中国の方、増えていますね」(都内大手不動産仲介会社営業)と言った声が聞かれます。

筆者がその営業さんに「中国の方って、壁紙の素材とか水道管のメーカーとかについて聞いてきませんか?」と質問すると、驚いた顔で「あります!どうしてわかるんですか?」と聞き返されたことがあります。

中国では、デベロッパーだけではなく内装業者も、意図的に劣悪な建材を高く売ることもあるため、中国では消費者が業者レベルまで建材のブランドや性能を知っているケースがあり、それを確認するのが習慣になっているのです。

日本でも中国でも、「家は一生で非常に大きな買い物」。中国ではまさに「自分の家」を細心の注意を払って、予算をかけて裏側までこだわって内装していくのです(ただし、貸し出す投資用の住宅に関してはこの限りではないのですが…)。

アリババ資本の元、家具版ニューリテールを?

居然之家はそんな中国家具インテリアの販売事業をコアとして成長してきました。

競争の激しい家具・インテリア市場でも着実に成績を伸ばし、拡大を続けてきた同社でしたが、近年は新しい領域へと展開を加速させています。

その大きな動きがアリババとの提携です。

 

2018年2月11日、中国IT業界最大手であるアリババグループと関連投資者は、同社に対して54.53億元(約890億円)の出資、15%の株式取得を決定。同時にアリババの推し進めるニューリテール戦略において戦略的提携を行うことが発表されました。

居然之家はすでにT-Mallで旗艦店を開いてビジネスを行っていましたが、この提携ですでにキャッシュレス決済システムやTaobaoアカウントを利用した「内装3Dデモ」システムの体験、購入した商品の配送状況をT-Mall上で確認できる追跡システムなどが一部店舗で導入されているとのことです。

また2019年早々に武漢の上場会社を買収し、いわゆる「backdoor listing(裏口上場)」を計画していることが明らかになっています。

アリババという強い後押しを付けたことで上場し、中国市場への攻勢を強めようという意図が見て取れます。

 

その同社が日本の家具大手との提携を模索したのも、こうした市場戦略の一環と考えられます。

特に中国の消費者は嗜好の変化が早く、同時に近年は「消費昇級(消費のレベルアップ)」と呼ばれるような、より品質の良いものを求める動きが強くなっています。

こうした消費者に対して常に新しい商品、高品質の商品を提供する必要もあり、その点において大塚家具の持つハイクオリティ家具がサポートするといったメリットを狙ったと考えられます。

不動産市場が停滞している報道もあるけど…

懸念されるのは、昨今言われている中国経済の停滞や不動産バブルの減退です。すでに上海や北京など、大都市では不動産市場の「冷え込み」が報道されています。

不動産業界と密接に連携している家具・インテリア市場も、こうした影響を強く受けるものと思われ、そこへの進出に勝機はあるのか、多くの人が注目しています。

大きなチャンスと見られるのは中国で不動産購入ブームになった2000年前後から20年近くが経過していることで、リフォーム需要があることでしょう。

中国の住宅は、内装や外装ともに日本よりも傷みやすいことから、特に内装に関しては一定期間(15~20年)経過するとリフォームするケースが多くなります。

大塚家具としては、20年前などに購入した物件のリフォーム需要を狙うという戦略もとり得るかもしれません。

実際に海外からの輸入家具ニーズは増加しており、同社のライバルである紅星美凱龍の劉中露・副総裁は中国メディアに対し「中国の輸入家具市場は、保守的に見ても最大3000億元規模まで拡大すると思われるが、現時点(2018年8月時点)では500億元にしか至っていない」と語っています。

それが事実であれば、今からでも中国市場に攻勢をかけるには遅くはないといえるでしょう。

 

しかし、気になる点もあります。

一つは価格。

報道では大塚家具は「越境ECで」と言った言及がありますが、家具・インテリア類を中国へ発送する場合、どうしても輸送量もかかり、また高級家具である以上瑕疵防止のための包装などを日本国内より厳重にする必要があります(もちろん、越境購入金額5,000元を越えれば課税対象にもなります)

そのためコストもかさみ、販売価格も日本国内で販売するよりもだいぶ上がるように思います。

この部分で居然之家がどのような役割を果たすのか気になるところです。

 

もう一つは嗜好。

中国の消費者は比較的家具やインテリアに日本とは異なる嗜好を持っています。

たしかに日本の無印良品(中国では「MUJI」で展開)のような、日本のシンプルデザインは若者を中心に受け入れられていますが、高級家具を購入するかと言えばいささか疑問です。

中国の消費者はごく一部のいわゆる「富裕層」と呼ばれるゾーンを除けば、内装に細かな予算を立てることを(㎡単位で)望んでいます。

そのため、大塚家具が中国市場に臨むにあたって、どこまで商品の購入価値(≠商品価格)を訴求できるかが重要になってくると考えられます。

今後の同社の動向に注目です。