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【column】どう動く?2020年の中国人訪日観光客(前編)

2019年も残るところ2か月余り。今年は改元、新天皇即位といった時代の変わり目であり、さらにはラグビーワールドカップに開催という巨大なイベントがあった。

それらはいずれも大過なく過ごすことができたが、しかし、来るべき2020年にはさらに大きなイベントが控えている。

東京オリンピックである。

このビッグイベントは、単なるスポーツの祭典というのだけでなく、世界各地の訪日観光客を迎えるインバウンド業界注目のイベントでもある。

ここで気になるのは、その外国人訪日観光客の中核をなすと期待されているのが中国人観光客。ただSNSやインターネットを見ていると、あまり楽観視できない内容も…。

今回中国トレンドExpress編集部ではSNSやネット上の書き込みを基に「オリンピックのために日本に来るのか?」という疑問を考察してみたいと思う。

間違いなく「訪日観光客」のトップを走る中国消費

まずは2019年の中国からの訪日観光を振り返ってみよう。

1月は韓国に2万5000人ほどの差をつけられていたが、翌2月以降順調に増加。7月、8月の夏休みシーズンには初めて単月100万人を超え、通年で昨年越えも見えてきた。

 

特に今年は香港の騒動によって中国大陸の観光客が香港、台湾を避けて日本にやって来るという現象も重なり、2018年を超える水準で推移している。

また「日韓関係の悪化」という突発事故によって韓国からの観光客が減少した関係で、中国人観光客増加イメージがより強まっているともいえるだろう。

【グラフ】訪日観光客の月ごとの推移(2019年8月9月は速報値)

出所:日本政府観光局(JNTO)の発表を基に中国トレンドExpress編集部にて作成

また、外国人訪日観光客における中国人観光客が占める割合も、9月までの時点で全体の30%と、相変わらずトップとなっている。

【グラフ】訪日観光客中、中国人観光客が占める割合(2019年8月9月は速報値に基づく)

出所:日本政府観光局(JNTO)の発表を基に中国トレンドExpress編集部にて作成

このように、日本に観光目的でやって来る外国人の中では、中国消費者は最大の人数であり続けている。そのため、ビッグイベントのある2020年夏においても、それを目的として「今以上」の来日観光が期待されているのである。

SNSを覗いてみると…

心に暗雲が首をもたげてきたのは、Weiboをチェックしていた際に「東京オリンピックオフィシャルアカウント」を見たときである。

東京オフィシャルアカウント:https://www.weibo.com/tokyo2020official?is_hot=1

最初こそ、「さすがきちん“とV認証”も取ってPRしている」と感心したのだが、よく見ると…。

ん?フォロワーの数が何かおかしい…。いち、じゅう、ひゃく、せん、と数えてみた結果、「2万人?」。

何度か数え直してみたが、何度数えても2万人であった。日本ならまだ大きな部類に入るが、中国では、KOLで例えるならば「マイクロ」レベルの数字である。

 

中国における東京オリンピックのチケット販売は、ドイツ系旅行会社のCAISSA(凱撒旅行)が行っており、特設サイトも開設している。

しかし、同社のWeiboアカウントを見たり、百度検索を行っていても、あまり「オリンピック推し」という印象が薄い。

ひょっとして、中国の人はあまりオリンピックに興味がないのでは…?

そんな疑問さえも浮かんできてしまった。

オリンピック中の東京行き、いくらかかる?

では、「東京オリンピックを見に行きたいと思っているか?」という疑問である。

 

答えを言えば「興味はある」と感じる。しかし大きな現実問題が中国消費者の眼前に立ちふさがっている。

それは、「高い」という現実だ。

 

すでにインターネット上では「東京オリンピック訪日観光」に関する情報が散見できる。その中には旅行サイトやその他のBBSサイトの「東京オリンピック見に行く?」というスレッドも含まれる。

試しに、中国でも人気の高い旅行予約・情報サイト「蚂蜂窝」のスレッドを開いてみると、こんな書き込みが見られ、他のユーザーから好評を得ている。

要約すると以下のような内容だ。

  • もしオリンピックもしくはスポーツファンで十分な経済的な実力があるならいいと思う。近いし、時差もないし。
  • でも「日本に旅行に行きたい」というのであればお薦めしない。理由は簡単。人が多くてホテルが高い。フライトとホテルだけで普段の30~50%のコストアップ。この時期に行くなら、50%からひょっとしたら倍増しのお金を払わなきゃいけなくなるかも。
  • オリンピックの後に行った方がいいんじゃないかな。オリンピック用にホテルとかきれいになってるし、中国語表示も増えているし。

それ以外にも、「見に行きたい」という声もあるものの、多数が「高いから行きたくてもいけない」、「終わってからなら…」といった、あえてオリンピックシーズンを避ける内容(中国語では“錯峰”。ピークを避けるという意味)の投稿が多く見られた。

実際そうなのだろうか?CAISSAの東京オリンピックツアーサイトを見ると以下のような価格となっている。

一見すると、「まぁ、オリンピックチケット込みなら安い方なのでは?」とも思える金額だが、よく見ると頭に「東京出発」の文字が。

そう、ここで含まれているのはホテル代とオリンピック観覧チケットで、中国から東京までのフライト代は含まれていないのである。

もし前出のようにフライトチケットが値上がりすると仮定すれば、それにかかる費用もバカにならない。「ざっと普段の訪日観光より1万8700元多くかかる」といった試算をしてるブロガーも存在しているほどなのである。

中国消費者と真面目に向き合ってきた中国トレンドExpress読者であればお分かりと思うが、とにかく「お金を使うこと」に慎重で、「使うだけの価値があるか?」ということを考え抜く中国の消費者。

 

そんな中国の消費者たちは普段の価格より高い金額を支払ってまで東京オリンピックを見に来るのだろうか?それに関しては、どうしても消極的な回答しか見当たらなくなってしまう。

はたして本当にそうなるのだろうか?

次回は、中国のスポーツ環境や消費者心理をベースに、2020年の訪日中国人観光客の動向を考えていこう。