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今ドキ中国消費者解体新書 「カスタマージャーニー」で見える中国市場攻略法 Vol.9 ~買いか否か。購入ボタンは熱く冷静な戦いの結果~

これまで見てきた中国消費者の情報収集、比較分析。これらはすべて商品を「買う」ための努力であった。では実際に「買う」時には、気楽に購入ボタンをクリックしているのだろうか?

そこには、情報分析と同じかそれ以上の熱き“冷ややかな”戦いがあったのである。

複雑化がますます進む購入チャネル。中国消費者は?

まずはおさらいとして、中国消費者が購入する「場所」を整理してみてみよう。

中国でのショッピングといえば、まずはECであり、すぐにアリババグループのTaobao、T-Mall、そしてそのライバルであるJD.comなどを思い浮かべる。

ただ近年は家電量販店である蘇寧(Suning)、若い女性から圧倒的な支持を得ているクチコミメディア小紅書(RED)のEC機能、さらには団体購入モデルによって2線都市市市場で拡大し、今や中国EC界No.3となった拼多多(PDD)など、個性的なECチャネルが登場している。

 

しかし近年はさらに複雑化。BtoC型のプラットホームだけではなく、ソーシャルバイヤーを代表とするCtoCチャネルも拡大中。

ソーシャルバイヤーたちは個人であるフットワークの機敏さを生かし、従来のWeChatモーメンツやTaobaoだけでなく、日本のメルカリに相当するフリマアプリ「閑魚(Xianyu)」、また一部は「抖音(Douyin)」といった新型のアプリも活用し、中国の消費者に向けて販売活動を行っている。

【イメージ】中国消費者の購入チャネル環境

ちなみにWeChatのミニプログラムを使うことで、ブランド単位で販売チャネルとして活用が可能なため、B to C的な活用もできる。

中国ブランドHome facial ProのWechatミニプログラム店舗

またTaobaoも個人ではなく、企業が店舗を開設しているケースもあり、こちらもB to Cチャネルとしての要素も備わっている。

意外なことだが、ネットの世界だけでなく「リアル店舗で」という消費者も少数ながら存在している。

先に行ったメイクアップに関するクチコミ調査でも、購入場所に関しては「天猫(T-Mall)」、「旗艦店」などについて「お店(リアル店舗)」が3位、またドラッグストアの「Watson’s」も4位となり、商品によってはリアル店舗の需要が依然として存在している。

【グラフ】メイクアップの購入場所に関するクチコミ調査

コスメなどは、色などを自分で試して購入するといったニーズがあるためでもあるが、特に地方都市の消費者は「直接手に取ってみたい」という習慣があり、リアル店舗の利用率は高まるようだ。

ある地方から上海へとやって来て、小型のイベント会社を立ち上げた女性(30代前半)は、「化粧品などは百貨店のテナントで買うことが多い。ECはどこか信頼しきれないから」と語る。

さらに、別の金融投資家の女性(30代前半)は、「ちょっとした日用雑貨はECで買うけれど、化粧品などは大きな百貨店やモールで。あとは自分や友人が海外に行くときに購入する」と、対象商品(自分に合うか試してから購入するもの)に関しては、リアル店舗という選択も生きているようである。

 

ちなみに上海の女性消費者にインタビューをした際、普段のネットショッピングで利用する率が最も多かったのがTaobaoであった。

 

日本で一般に広まっている認識としては「T-Mall、旗艦店のほうがTaobaoより信頼されているため、利用率は高い」というものがあるが、インタビューをしていると一概には言えないようで、「信頼できる店が見つかればTaobaoでも」と話す消費者は少なくない。

20代後半の会社員は「初めて購入するときは旗艦店。でもTaobaoでもう少し安く本物が買える店が見つかればそちらに…」という。

 

信頼をベースに起きつつ、それぞれのニーズや目的に合わせた店選びをしているのである。メーカー側からすれば、自社の運営する店舗に誘導したいところだが、そのためにはより魅力的なコンテンツ、メリットを消費者に見せていく必要があるだろう。

情熱と冷静のはざまで、購入ボタンを押すまで葛藤

さて、これまで見てきたように情報収集し、分析し、購入したい商品を決め、こうしたチャネルの中からお店を決めるのである。

T-Mallなどに関してはメーカーの旗艦店での購入となるが、Taobaoではそこに店舗選びというプロセスが加わる。

こちらは店の信用を示す星や王冠マークなどを見ながら、評価の高い店をあたっていくという手法で探していく。

そしてTaobao内のチャットで対応、配送時間などをヒアリングし、購入する店舗を決める。

 

こうした過程を経て「購入」まであと二歩のところまでたどり着くのである。

そう、ここまで来てもあと二歩、なのである。

 

まず購入するか否かを店舗の書き込みをチェックして決める。通常のSNSと異なるのは、店舗の書き込みは基本的に「買った」人の書き込みであるため、一つは店舗の性質の見極め、もう一つは商品の良しあしを決めるチェックポイントとなりえるのである。

 

ここで消費者がチェックするのがT-Mallなどに備わっている「追評」と呼ばれる書き込み。これは「購入から〇日後の追評」と赤字で明記されるが、購入直後の書き込みではなく、一定期間たってから追加書き込みをした内容。

この追評への信頼度は一般の書き込みよりも高くなる。

IT企業に勤める20代の女性は「基礎化粧品などは使ってから一定期間たたないと効果がわからない。だから買ったばかりのクチコミだけでは参考にならない」と話している。

 

またチェックポイントとしての価値が高いのは「ネガティブコメント」である。

「ポジティブコメントばかりを見ていると“酔う”ので、それを“醒ます”」と前出の会社員女性はいう。

つまりポジティブ評価の合間に表れる「使ってもよくなかった」という評価は、自分自身をいったん冷静に戻すのに有効な要素なのである。

 

またどうしても「刷単」や「偽評論」といった、メーカーがお金で購入したクチコミ。これらはすべてポジティブなものになるため、「ポジティブ書き込みばかりの商品、ブランドは怪しい。その中、好きな人ばかりじゃないはずだから」(20代会社員女性)と極めて現実的だ。

 

方法はともあれ、某KOLの「OMG!买买买!」といったポジティブメッセージは参考にしつつも、いったんそれから頭を離すことを心がけて購入を進めていくのである。

 

そして最後の1歩は中国消費者はECでの購入時、「カートに入れる=即購入」ではないということは知られているが、その期間である。

上海で話を聞いてみると、通常でも2~3日、長いときは1週間以上カートに入れっぱなしというケースがあった。

それは、ネガティブコメントを見るときと同じように、いったん冷静になる期間を置くためだそうで、その時間を使って最後の情報収集、身近同商品を使ったことがある人への最中確認である。

リアルなクチコミの結果が「買い」であれば、カートに戻り購入ボタンを押し、決済となるのである。

 

ちなみに、これで安心できないのが中国。

中国では基本「7日以内であれば理由なしの返品」が可能。決済もAlipayにいったんお金を預ける形になるため、返品すれば確実に戻る。

この返品率、一般的には10%程度といわれているが、ダブルイレブン時などには2割程度まで上がるといわれている。

 

どこまでも「冷静」になる期間を小刻みに挟みつつ購入にたどり着くのである。

こうした冷静期間中でも「買い」と思わせる情報、信頼性を消費者に与えられているかが、購入ボタンを押してもらうために極めて重要な要素となりえるだろう。