【column】 収束が見えない新型肺炎 中国の消費者はどう生活している?
普段とは全く異なり、緊張感で満ちた春節となった2020年。上海などではすでに出勤が始まっているものの、在宅勤務をするなどいまだに以前の状況に戻ったとはいいがたい。
このコロナウイルスという大きな災害を前に、中国の消費者たちは春節中どのような状況にいたのだろうか?
日本の報道では見えてこない、普通の消費者の状況を中国の報道やインタビューを通じてみてみよう。
トレンドViewerでも見えた2020年春節の特異性
2月14日15:00公開のトレンドViewer週次ランキングでは、中国SNSでつぶやかれた「買いたい」、「買った」日本商品で「マスク」というクチコミが急上昇した。
すでに日本側でも多く報道されているように、中国消費者は日本のマスクを多く買い求め、さらに日本国内の需要の高まりを合わさり、ドラッグストアやコンビニの店頭からマスクが消えた。
日本国内でも買い占め、不当な値を釣り上げての転売などのクレームが相次いだが、中国の一部でも同様に悪質な商売を行う者もおり、日本人のみならず日本で生活する中国コミュニティから非常に厳しい糾弾の声が上がっている。
両国をまたいでの頭の痛い問題ではあるが、マスクや除菌グッズなどの日本商品は、その効果から高い人気を得ており、こうした緊急状態において「もっとも安心できる商品」として中国消費者から買い求められている。
また中国のある調査会社のパネル調査において、「今後半年間に購入する予定の商材」という設問では「消毒/抗菌商材」がトップとなっており、今後もこうしたニーズが続くものと予想される。
【グラフ】今後半年に購入予定の商品類
出所:《新冠肺炎疫情下的美粧消費者調研報告》(青眼情報調べ)
ネット上に渦巻くデマ。中国ネットの今後は?
国家インターネット情報局は「網絡信息内容生体治理規定」を公布。2020年3月1日から施行される予定であった。
日本以上の規模とスピードでネット社会、特にSNS社会となった中国でネット上に公開される情報のモラル管理が大きな問題となっており、一部のネットユーザーによる個人情報を公開しての攻撃、いわゆる「人肉捜索」などが社会問題になっていた。
そうした行為を法的に規制し、一般市民、法人、その他組織の合法的な権利を保障し、国の安全と公共利益を維持することを目的として定められた法律である。
もちろんその中には「デマの拡散」に対する規制も定められている。
しかし、今回の災害はその規定の施行直前となってしまった。
日本でも一部報道されているが、「コロナウイルス生物兵器説」、「大都市封鎖説」などが、さも真実であるかのような説明とともに流れていたり、また「〇月〇日、××市では上空から消毒剤の散布が行われる」といった荒唐無稽な情報、さらには動画によって「これが武漢の真実だ」といった情報が飛び飛び交ったりしている。
2月13日も「上海で3000人の患者が出現」という情報がSNSを中心に拡散され、上海市政府が即、否定情報を発信するなどの対応に追われることになった。
2003年のSARS時期には現在のようなSNSがまだなく、携帯電話の「短信(ショートメッセージ)」が中心であった。
その手法では電話回線を使っているため、デモ拡散と思しき一斉に数百人規模での送信をすると中国電信や聯通などのキャリアが察知でき、その判断で当該ユーザーの回線を切るなどの対応がとっていた。
しかし現在のSNSで同様の対応は極めて難しい。それがゆえに、SARSの時にはなかったデマ対応に政府、一般市民も苦慮する結果となってしまった。
現在もBaiduやテンセントなどの大手が政府の公式発表に基づいた「デマ判定サイト」などを設置し、デマの打ち消しを行ってはいるが、新しいデマとのいたちごっこが続いている。
浙江省在住の30代男性はインタビューに「温州が封鎖されたが、それがデマなのか事実なのかわからず戸惑った。いつもSNSを見ているけど、こういう時はかえって不便」とこぼしている。
ただ、別の20代女性は「デマかもしれない。でも万が一本当だったら?と考えてしまう」と語り、情報が限られた中、デマでも収集せざるを得ないという状況でもあるようだ。
中国の消費者はこの春節をどう過ごしたのか
とはいえ、すべての人が新型肺炎にかかっているわけではなく、健康な状態の消費者のほうがあるかに多いのである。
そんな罹患していない消費者にとって最も苦痛だったのは、この春節期間、中国国内では外出を控え、自宅で過ごすことが求められたことである。
「もう半月も街を歩いていないんです」。湖南省在住の女性だけではなく、山東省、広東省の女性からも、全く同じ言葉がついて出る。
中国の調査会社によると、春節期間中にWeiboの「♯暇つぶしの面白い方法♯」、「♯家でどう時間をつぶす♯」といった話題ページ上で最も多くつぶやかれたのは「吃(食べる!)」という言葉だったと報じている。
そして食べながら同時にできることといえば「ゲーム」である。
七麦データによると、過去7日間で最もダウンロード数が増加した1000のアプリのうち、40%以上がゲームアプリであった。トップ4は「玩吧」、「我是謎」、「狼人殺」、「口袋狼人殺」といったソーシャルゲーム。
面白いのは、玩吧、推理大师などのアプリは今までそれほど人気がなかっただけに、急激なダウンロードの増加に負荷がかかり、すぐにサーバーがダウンしてしまったことだ。Weiboでも「#玩吧ダウン」のハッシュタグでユーザーは続々と「#プログラムの復旧求む!」とツイートしていた。
ただ徐々にゲームにも飽きが来ているようで、2月11日には「NASAから地球の引力が最も弱まると発表された」という情報が流れ、引力の弱まりを試すため”ほうき”を立てて遊ぶ写真がSNS上にアップされている。
残念ながら現時点では病気の収束は見えておらず、それへの恐怖は感じつつ、また引き続きマスク不足やデマにも悩まされているものの、そういった中でもたくましく生活していこうという中国消費者の強さも垣間見える。