【column】 転換する中国EC、SNS環境の中で何が求められるのか
今年も中国における最大の商戦「ダブルイレブン」がスタートした。昨年は新型コロナウイルス後の消費動向を見る意味でも重要な商戦だったが、今年は異なる意味でその結果が注目されている。
今回は2021年ダブルイレブンのオープニング状況を把握しつつ、今、中国のマーケティング業界が置かれている状況をもう一度見つめなおしてみよう。
相変わらずの盛り上がり? 2021年ダブルイレブン初日。
2021年のダブルイレブン、T-Mall、Taobao は前年同様、深夜ではなく20:00に予約期がスタート。
その直前から2大KOLの李佳琦および薇婭もライブコマースを展開。翌朝まで、大量の商品を紹介、販売していった。
数字をチェックすると、李佳琦は合計12時間26分のライブコマースで439種類の商品を販売、そのオーダー金額は115億元余りに達した。
またライバルである薇婭は合計14時間28分のライブコマースにおいて499種類の商品を販売し、約85億元のオーダーを受注している。
2人合計で200億元を超えるオーダーを初日で獲得したこととなり、ライブコマースおよび2人のカリスマKOLの健在ぶりをアピールするまでになっている。
また注目されるのは抖音における商戦の行方であろう。
今年5月には「興趣電商(インタレストEC)」という概念を提唱し、自社のEC機能である抖音小店を強化。
さらには越境による抖音小店も展開を始めるなど存在感を増しており、今商戦の結果にも注目されている。
2021年に入り変わりゆくEC、SNS環境
さて、今年のダブルイレブンにおける注目ポイントは、プラットホームの壁が徐々に薄まっていることである。
それはECにおけるプラットホームだけでなく、SNSや決裁アプリのプラットホーム間でのコンテンツ共有の道も開かれつつあるという点である。
その一例がTaobaoにおけるWeChat Payの導入である。
Taobaoは独自の決裁システムである「支付宝(Ali Pay)」を有している。
そのライバルであったのはビジネス上でもアリババのライバルであるテンセントの微信支付(WeChat Pay)。
Taobaoはアリババグループであるため、買い物は自然に支付宝を使用するようになっていた。そこにライバルの決済システムが使用できるようになったのである。
壁が打ち払われたのは支払いだけではなく、情報も、である。
そもそもアリババグループとテンセントグループはライバル同士。そのため、Taobaoの商品情報をWeChatで共有する場合などは、「直接開く」という事ができず、いったんTaobaoアプリを立ち上げURLをコピーしなければ商品情報を見ることができなかった。
しかし2021年9月、政府当局はそうした壁を取り払うように指示。ついにアリババとテンセントとの間の壁にメスが入る形となった。
これによって、ユーザーはTaobaoで見つけたり買ったりした商品を、より気軽にWeChatで友人に共有できるようになったのである。
同時に、同様の「壁破り」は長年争ってきたWeChatと抖音の間でも行われようとしている。
これまで抖音コンテンツの直接的共有を拒んできたWeChatだったが、その壁が取り払われることによって、抖音は元来のトラフィックに加え、クローズで入り込めなかったWeChatのトラフィックにまで進入することになり、コンテンツのさらなる拡散性が見込めるのである。
プラットホームの壁崩壊で何が起こるのか
こうしたEC、SNSプラットホームにおける各種「障壁」の緩和。中国市場に向けたビジネスを展開する我々には、何が得られ、何が求められるようになってくるのだろうか?
まずマーケティングという領域においては、確実に情報の拡散性は上がる。
これまでプラットホームによって区切られていたコンテンツが、その壁を乗り越えて共有できるようになるのであれば、これまで届きにくかったエリアまでコンテンツを届かせることができるようになる。
それは認知拡大といった点で大きなメリットとなるだろう。
もう一つが、個々のプロモーションに対して広告効果が見やすくなるといった点も考えられる。
これまでは、ECプラットホームとSNSの間には、前述のTaobaoとWeChatのような企業間の暗黙のルールがあり、連結の可不可といった現象が付きまとっていた。
しかしコンテンツが自由に連携されるようになり、かつプラットホームの垣根を越えて刈り取り先(EC店舗)へ誘導可能となると、そのプロモーションが本当に効果があったのか測定がしやすくなる。
簡単に言えば、ROIが図りやすくなるのである。
ただ、注意点も存在する。
それは消費者の情報取得・共有行動、つまりカスタマージャーニーの複雑化が予想される点である。特に複数のプラットホームを同時に視野に収めての戦略策定が必要になるということである。
かつては「認知はプラットホームAで」、「理解促進はプラットホームBで」、そして「刈り取りはBからCに遷移させる」とコマ切れ状態で設定することで対応してきた。
しかし、垣根が取り払われればプラットホームごとにコンテンツを作戦を立てていくのではなく、「中国の情報環境すべてに対応できる」戦略を立てることが必要になるのである。
予算策定においても、SNSプラットホームごとに設定しているケースが多かったが、もしコンテンツの垣根が無くなることになれば、販促費・マーケティングプロモーション費という区切りではなく「中国におけるビジネス全体費」として考える必要が出てくるだろう。
(その分、投下した施策が刈り取りにつながりやすく、前述のようにROIがより明確になる)
これらの状況へと自体が変遷した場合、中国消費者の行動理解がより重要になってくるのは言うまでもない。ある意味では、より「中国力」が試される時代へと突入しようとしているともいえる。
もちろん現段階ではプラットホーム間の壁は完全に取り払われたわけではないが、現在の政府の施策を見る限り、撤廃への動きが進むと予想される。
その準備のためにも、今回の商戦をしっかりと見て、そして分析しておきたいところである。
昨年(2020年)の618、ダブルイレブンなどの商戦情報を含めた中国マーケティング環境は
をご参照ください。