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越境ECで爆売れ!トレインの「アームカバー」の陣(4)~魅せるパッケージも日常で目にする情報も、消費者とのコミュニケーション~

(3)では、トレインが中国市場に向けて実際に発信した情報と、中国市場のリスクをチャンスに変える思考法について見てきました。

最終回となる今回は、長谷川社長のPRの価値、マーケティングの理想に対する理念を紹介いただき全体を総括します。

パッケージひとつでブランディングが決まる

実例 ~カロリーオフストッキングの場合~

トレインから以前発売したブランドに、『カロリーオフストッキング』というものがあります。パッケージには「この商品を履いて1時間歩けば消費されるカロリー」の数字と、映画「ゴーストバスターズ」のお化けになぞらえ、「FAT BUSTER!」(脂肪撲滅)の文字の入った交通標識の向こうに豚を配置するイラストをデザインしました。

カロリーオフストッキングパッケージ

お気づきとも思いますが、同商品は女性の「痩せたい」願望にアプローチしたパッケージです。もちろん日本では人気商品となりました。中国市場にも売り出しましたが、その際パッケージにさらなる工夫を施しました。

「豚」は中国でも好印象のキャラクターなのでここは変更せず、中国向けの商品のパッケージには中国で縁起の良い色である「赤」と「金」の色を採用しました。これにより中国人消費者が一目見て手に取りたくなる商品になれたのです。同商品は中国で、息の長い人気商品として好調な売上を記録しています。 

ブランディングとは

PRブランディングとは、消費者が商品を手に取る際、彼らにどんなイメージを抱いてもらう商品なのかを描き、商品をその描いた存在に到達させることです。その具体的な「イメージ」がビジョンであり、その「イメージ」を作る具体的な方策と順序が販売戦略となります。「イメージづくりの過程」がブランディング活動であり、実現に向けて動き出すことが重要です。

商品そのものが変わらなくても、パッケージで性能のひとつを徹底的に訴求し、話題性を作り、これにより消費者の中のイメージを変更することも不可能ではありません。訴求したイメージが中国人消費者に好まれ、受け入れられるかどうかは、インサイトが判断基準になります。

特に、「中国向けに売り出そう」というときに、商品開発の段階では営業と開発者でコンセンサスを得ることが難しいケースもあります。どちらも正しい両者主張を統合した着地点としてPRブランディングで解決を図るというやり方もあるでしょう。

ネット社会中国では「拡散の構図」を踏まえる

インターネット社会である中国ではネットを経由して情報が拡散されやすく、消費のブームのポテンシャルは高いです。

日本では「話題に上る」といえば新聞・テレビなどの大手メディアに取り上げられて、そこから広まっていくイメージではないでしょうか。一方、中国では事情が異なります。「話題」となるトピックスは、ほとんどネット発信です。

話題となる大半は、ウェブニュースに取り上げられたもので、拡散の経路はSNSです。ウェブニュースの記事はそのままSNSで拡散され消費者の認知を得ています。そのため、新聞などの従来のメディアにはまったく掲載されていないものでもブームとなり得ます。

信頼度の高い情報でファンを獲得することの価値

長谷川社長の考える、PRの価値とは「信頼度の高い情報」として、自社の伝えたい情報が消費者に届くことにあります。

誰でも少しは、テレビや雑誌に現れる「広告」に作為を感じて興味を抱けないという感情が理解できるのではないでしょうか。一方で、「広告」ではない日常何気ない場面で入手した情報がきっかけとなり、ある商品やブランドに興味がわき果ては購買に至る…といったことを経験したことのある方もいるはずです。

こういった心理をついて行われる「企業の情報発信」がPRです。

 PRの真価を発揮した成功事例

例えばどんな成功事例があるのでしょうか? ご存知、すしチェーン店の「すしざんまい」がその一例です。

毎年、年初の初セリでマグロを高額で競り落とすことで有名です。あまりに高額なので、多数のメディアで取り上げられます。そして報道ではマグロを高額で競り落としたというニューストピックスだけでなく、店舗のサービスや競り落としたマグロの提供方法なども取り上げられ、結果として認知が広まります。

同社はマグロ1尾に法外な金額を使うことで、同様の金額を使った広告よりも多くの露出を獲得するだけでなく、もっと大きな価値を手にしています。マグロ1尾を競り落とした1億5000万円よりもっと大きな価値とはすなわち「媒体に取り上げられる注目に値する企業という地位」、ひいては「同社の商品サービスは素晴らしいという認知」を手にすることです。もちろん、メディアでの露出を広告費換算しても1億5000万円を優に超えます。これが「PR」の価値です。

リスクはブログでの紹介にも

最近はウェブ上でのブロガーの情報発信も、商品の宣伝において存在感を増しています。人気のブロガーがブログ内で紹介した商品が、その読者から支持されて売り上げを伸ばす事例もあります。「日常の何気ない情報」には、ブログで紹介される商品情報も含まれています。

ただし、商品をブロガーに紹介してもらう場合にも「広告色」に注意しなければなりません。ブロガーがアフィリエイト(成果報酬型広告)に重点を置いていると読者に判断されると、「おすすめの商品の信ぴょう性」が薄れ、結果としてファンを失うこともありえます。

最強のマーケティング戦略は、人の集まる場所になること

広告を掲げなくとも、消費者がおのずと情報を取りに来る…それがマーケティングにおける一つの成功した姿です。ドラッガーの言葉に「マーケティングとは、販売を不要にすることである」というものがあります。

それでは、「ファンが情報を取りに来る」存在になるためには、何が必要でしょうか。

情報を求めて誰かがやってくる存在になるためには、人であれ、組織であれ、自分の「ブランド」を確立し、常にそれを発信し続けることが必要です。ソーシャルメディアなど人の目につくフィールドで、自身の「ブランド」(=私にはこんな面白いニュースがある)を発信し続ければ、それに興味を持った人が自然に集まってきます。

情報発信は、商品の宣伝だけに限りません。PR活動とは、世の中に情報発信し情報の受け取り手の理解を得て、そしてファンになってもらう過程とも言えます。そしてそのプロセスは、日本であっても中国であっても、変わらぬ価値を持っています。

まとめ

今年の初夏、トレインが中国で行った『女の欲望』のPR施策では、ECの外で、消費者から進んでアプローチしてもらえる話題性を重視した施策となりました。

「女の欲望」のPR施策では、データに基づき、ターゲット層が調べたくなるような話題性のある情報を発信し続けることに成功しました。これにより消費者側からのアプローチを得ることに成功し、結果として越境ECでの「売り切れ」という、成功のさらに先を実現したのです。

上記の情報発信のほかに、中国向けの商品は中国人消費者の好みやインサイトを適切に見極めた商品開発、パッケージも重要になってきます。中国国内では、日本発の商品でも中国製の製品となってしまうと見向きもされません。こういったインサイトを踏まえて「日本製という点は確実に保証する」という方向性を決定できます。パッケージは中国人からも愛される見た目を採用すべきです。

越境ECでトレインの「女の欲望」が大ヒットした理由は、上述の方策、理念を貫いたからにほかなりません。トレインでは2017年秋冬シーズンに向けて、このPR施策で新たな商品(ハラマキ)の売り出しを画策中です。今後のご活躍からも、目が離せません!

 

▼シリーズ全編はこちら

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