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医師が薬用酒に提言したら即「逮捕」!?  中国で「広告」が信じられないワケ(1)

中国消費者は広告を信じない」、「中国では広告ではなく、KOLが信用される」など、中国マーケティングではよく聞く言葉です。しかし「本当に?」、「なぜ?」といった疑問も浮かんでくるはず。今回は前後2回に分けて、2017年末から2018年初にかけて起こったある事件――「薬用酒の効能を批判したら逮捕!」から、中国消費者が「企業広告」に不信感を抱く理由について考えてみたいと思います。

今回はその事件の経緯、問題点について説明していきます。

一体何が起こったのか?

事件は昨年12月に始まります。

広東省在住の医師・譚秦東氏が、中国で販売されている薬用種「鴻茅薬酒」についてブログで語ったことです。

ブログのタイトルは「中国の神酒・『鴻茅薬酒』は天国から来た毒薬」。ショッキングなタイトルですが、譚氏はその原材料や製法などを分析し、「一部の消費者には体に合わない場合がある。服用には医師の判断を」というメッセージを伝えた、医師としてはありがちな内容でした。

しかし、「鴻茅薬酒」の生産会社である内蒙古鴻茅国薬股份有限公司は、それに対して強い態度で苦情申し立てを行います。

申し立ては「鴻茅(HongMao)薬酒」に対し、公の場で悪意を持って批判、その信用と評判を貶め、重大な経済的損失をもたらしたと、名誉毀損罪および社会的危険性を備える」というもの。

ここまでであれば、「専門家VSメーカー」という、よく聞く図式で終わりますが、本件の異常さはその後の「行政の対応」でした。

2018年1月10日、広州在住の譚氏は、なんとその身柄を警察によって拘束されます。しかも拘束したのは広東省の警察ではなく、広東省から2000キロ以上も離れた鴻茅薬酒本社の所在地である内モンゴル自治区ウランチャブ市涼城県の警察によってであり、さらに譚氏は同地に連行されてしまいます。

そして同月25日に送検、そのまま訴追もないまま刑事施設に3か月以上拘留され、4月17日になって「証拠不十分」として釈放されました。

『鴻茅薬酒』とはなんなのか?

そもそも、この「鴻茅薬酒」とは何だったのでしょうか?

中国の伝統薬用酒とされる「鴻茅薬酒」は、白酒に67種の生薬を漬け込み(日本の養命酒は14種)、中高年に人気の老舗薬用酒で、宣伝では「関節痛や冠動脈性疾患などを治癒する」と謳っています。

「非処方箋医薬品」として認可も持っており、中国白酒産業のトップ100にも入っている薬用酒となっています。

「神酒」のコピーでブランディングをしている鴻茅薬酒(同社ホームページより)

しかし、北京大学医学部博士熱傷科副主任医師・寧方剛氏によると、「鴻茅薬酒は非処方箋医薬品の要求する条件に符合していない」と言います。

非処方箋医薬品とは、長期間の服用で治療効果が見られ、医療関係者でなくても取り扱いができる医薬品です。

認可の基本的な条件として、

1:長期的な服用

2:比較的安定した効果

3:使用説明に従い服用すれば安全

4:副作用が小さく、不良症状もあまり出ない

5:手軽に服用できて保存も簡単

などが挙げられます。

実は鴻茅薬酒はこれらを満たすデータが十分でないとの指摘がなされていました。そして同時に「データが不十分」であるにも関わらず、2003年に国家食品薬品監督管理総局から「非処方箋医薬品」としての認可を得ていたことから、当該機関の認可体制の在り方にも問題があると指摘する声も少なくありません。

国営放送にも広告出稿。「違法広告」の指摘もなんのその

さらにこの鴻茅薬酒、前述のようにライセンスにおける疑惑は生じながら、大々的な広告展開でも有名でした。

国営放送局・CCTV(中国中央電視台)をはじめとする各局のゴールデンタイムに放送され、その露出の多さは、2017年医薬品・日用消費財・健康商品の広告市場ランキングでトップを誇るほど。

有名芸能人を使った鴻茅薬酒のCM

天下のCCTV、その広告費は中国国内の媒体でも最高額にのぼります。調べによると、同社の2016年のテレビ広告費だけでもなんと150億元(2500億円)を費やしています。

食卓を囲んだ家族が、「鴻茅薬酒、毎日2口」と笑顔で訴えかけるこの広告は、中国人なら誰しも一度は目にしたことがあることでしょう。非処方箋医薬品なのに、「薬」のイメージが強く、まるで「万能薬」かのように謳われています。

これは中国の広告規定に照らし合わせればOUT。

人民日報社の『健康時報』によると、江蘇省、浙江省、遼寧省、山西省、湖北省など25の省や市の食品薬品監督管理局は、鴻茅薬酒の広告を「違法広告」と指摘。その回数も前代未聞の2630回、数十回にのぼる販売停止といった行政強制措置を取ってきました。

例えば、浙江省の当該管理局の見解によると

  1. 「適用症状の範囲を誇大、非科学的根拠で効用や効能を断言するなど、消費者を誤解させ欺くような内容を含む」
  2. 「医薬科学研究企業や学術機構、専門家、学者、医者、患者などの名義やイメージを利用して、それに真実味を与えている」

と指摘し、何年も繰り返し違法広告だと通告しています。

にもかかわらず、今年3月18日、同社の所在地の内モンゴル自治区の食品薬品監督管理局は「鴻茅薬酒の広告は『広告法』、『薬品広告審査法』、『薬品広告審査公布標準』の関連規定に符合する」と発表しました。

つまり、地元の管理局だけは合法だというのです。

鴻茅薬酒に限らず、中国では「医薬品広告」は近年、度々問題視されています。

広東国信信揚律師事務所・羅愛萍弁護士曰く中国の広告管理方法には「過去に違反行為があっても、それを理由に新規の広告を取り締まることができない」という抜け穴があるとのことです。

これをうまく利用し、同社は次々と新しい広告を流しているというわけです。放送局側も莫大な広告収入が得られるので、消費者の利益を無視した広告を流し続けるのです。

この事件に対し、中国ではネットから人民日報といった中央メディアまで「鴻茅薬酒は薬なのか?」「なぜ違法広告が放送され続けるのか?」「なぜ越境逮捕になるのか?」「なぜ刑事事件になるのか?」など、この事件を取り上げ、疑問を呈しました。

次回はこうした報道から本件の核心である「なぜ逮捕にまで至ったのか」を掘り下げ、さらに中国消費者が広告やメディアそして行政管理へどのようなイメージを抱いているのかを見ていきます。

つづきは

医師が薬用酒に提言したら即「逮捕」!?  中国で「広告」が信じられないワケ(2)