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【中国クチコミ分析】 中国で広まるウイスキー市場。人気日本ブランドから読み解く ―『サントリーシングルモルトウイスキー山崎』 Vol.3

中国で近年急速に伸びているウイスキー市場と、その市場でのブランディングを事情を探るべく、中国トレンドExpressでは長らく人気商品としてランキングに存在感を示していた『サントリーシングルモルトウイスキー山崎』のクチコミ調査を今年1月から7月の期間で実施。中国消費者が同商品、そしてウイスキーになにを求めていたのかを探り出します。

第3回目の今回は「中国消費者にとってのウイスキー」を、同じくクチコミ調査から探ってみたいと思います。

 

▼前回はこちら
中国で広まるウイスキー市場。人気日本ブランドから読み解く―『サントリーシングルモルトウイスキー山崎』 Vol.1

中国で広まるウイスキー市場。人気日本ブランドから読み解く―『サントリーシングルモルトウイスキー山崎』 Vol.2

 

2018年1月にFT中国版が発表した記事によれば、2017年の中国におけるウイスキーの輸入量は約1740万リットル。2016年比19.5%の伸びとなっており、そのニーズの高さがうかがえます。

そもそも中国で最も飲まれた蒸留酒と言えば、麦やコーリャンなどから作った「白酒」。有名な「茅台酒」などの銘柄で知られる中国独自の蒸留酒です。

しかし健康志向も相まってワインの人気が上昇。アルコール度50%以上という強いお酒より、より体に優しいワインが好まれ、2009年にはワイン消費量が白酒を抜いたことも話題になりました。

また、中国ビジネスメディア『胡潤百富』創始者ルパート・フーゲワーフは自身の中国ウイスキー消費調査報告に基づき、「きわめて猛スピードで発展している市場。5年前に比べて中国ハイエンド消費者のウイスキー興味度合いは85%も上昇。洋酒人気のトップに立っている」とコメントしています。

求めるのはウイスキーの「蘊蓄」?

では中国の消費者はウイスキーにどのような印象を抱いているのでしょうか?クチコミキーワードから見ていきましょう。

【グラフ】「ウイスキー」に関するクチコミキーワード(2018年1月~7月 各月の上位20位)

先の「サントリーシングルモルトウイスキー山崎」では、比較的「手に入れる」ことが目的になっていましたが、ウイスキー市場自体は「産地」やその「種類」、「飲み方」さらには、ほかのお酒との違いなどに興味が向いています。逆に「味」についてのコメントはあれど「美味しい」というキーワードはまだまだ少ない状況となっています。

これは、中国のウイスキー市場そのものは大きくなっているものの、いまだ新しい市場、消費者にとってもまだ多くの知識を必要としている市場であることを示しています。

上海の洋酒を専門に扱っている輸入代理店のオーナーは「中国はまだ洋酒の違いを“楽しむ”ところまでにはいっていない」と語ります。それでも中国の富裕層のウイスキー需要が高まっている理由について尋ねると、思わぬ回答が返ってきました。

それは「“イケてる男性”の定義が変わってきたからじゃないかな」というもの。

つまり現在は不動産や株、投資話をする男性より、ウイスキーを片手にそのお酒のうんちくを語る男性が、教養のある男性とみられ、尊敬される、いわば「モテる」というのです。もちろんそこには経済的背景も必要ですが、どうも男性を評価するポイントが「経済的実力+教養」であり、その教養という部分に「ウイスキー」が引っ掛かった模様です。

今後はこうした心理を利用して、具体的な銘柄がブランドを浸透させるか、また本当の意味でウイスキーの個性を楽しむ市場を作り上げていくかが、メーカーにとっての課題となるでしょう。

「ウイスキー」産地はスコットランドより日本?

さて、上のグラフを見てみると、「日本」というキーワードが意外にも上位に来ていることが見えます。ウイスキーと言えばまずは「スコットランド」、そしてバーボンウイスキーの「アメリカ」が挙げられそうですが、日本がそれらの国名を抑える形になっています。

「日本」と「スコットランド」というキーワードの半年間の推移を見てみましょう。

【グラフ】キーワード「日本」と「スコットランド」の口コミ数の推移

この半年間、つねに日本はスコットランドの上位にいます。同じく輸入酒であるワイン市場では国名分野では「フランス」が常にトップを走り、日本はそれに及ぶべくもありません。しかしウイスキー市場においては、本家であるスコットランドを抑えています。

これにはいくつかの要素が考えられます。

1つは前述のように、中国のウイスキー市場がいまだ未成熟であり、消費者が大量の基礎情報を欲していること。

どこのウイスキーが有名で、どの銘柄の認知度が高くて…といった情報を中国の消費者は吸収している最中。そこに、近年そのクオリティが世界で認められ、すでにスコットランドやアメリカ、カナダに並ぶウイスキーの産地として認められたジャパニーズウイスキーの情報も飛び込んできた、という背景があります。

そしてもう1つは、中国が未成熟かつ中国消費者が日本の流行に注目している時期に、日本国内においていわゆる「ジャパニーズウイスキーブーム」が巻き起こったことです。

「サントリーシングルモルトウイスキー山崎」が注目されたのも、日本国内のジャパニーズウイスキーブームが過熱し、それに目を付けた中国消費者が買い求めたことでした。

つまりは日本国内のブームによって未成熟市場である中国でその知名度を落とし込むことができた、ということのようです。

中国のウイスキーブームは日本のメーカーにとっても追い風となっています。今後にも注目していきたいと思います。