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【中国地方都市】この世の楽園?ビジネスと文化の街~杭州市

中国でターゲットとなる都市と言えば、多くの人が「北京」、「上海」、「広州」、そして「深圳」などを上げると思います。いわゆる「一線都市」と呼ばれる都市は早くから外国に向けて開かれた街であり、商業においても成熟した街。また生活している消費者も高い購買能力を有しています。ただ、それが故に世界のトップブランドが集まり、苛烈な市場競争を展開。かえって参入のハードルが高い市場ともなっています。

しかし、目を転じれば広大な中国には、一線都市以外にも高い消費の意欲と能力を有した街が登場しています。

今回はそんな注目の地方都市から、上海からほど近い文化色漂う街・杭州をご紹介します。

杭州市は浙江省の省都。面積は16,596㎢、年間平均気温は17.0℃。上海からのアクセスも良く、高速鉄道(高鉄)で1時間半程度で到着できます。

 

さらに同市は「中国八大古都(歴史上、都となったことのある8つの都市)」の1つ。また風光明媚な街として知られ、「上に天国、下に蘇州・杭州。(上有天堂、下有蘇杭。)」と呼ばれるほど。

市中心部には世界遺産にもしてされる湖「西湖」があり、その美しさから国内外の観光客が集まる中国有数の観光地、上海市からの日帰りや一泊などのショートトリップ先ともなっています。

 


【動画】杭州西湖の蘇堤

 

西湖は中国の民間伝説『白蛇伝』(人類の男性と白蛇の化身である女性との恋愛物語。日本の『娘道成寺』の原型)の舞台でもあり、断橋、霊隠寺、雷峰塔など、ロマンティックなスポットが満載。

この物語は中国の若者でもファンが多く、西湖周辺では物語に登場する「白娘小(白蛇の精)」や妹の「青蛇」のコスプレイヤーが写真撮影を行っている姿が見られます。

成長中の消費。SNSで人気のスポットが起爆剤に

では同市の経済力はといえば、2019年2月に公開された中国の統計データの中から「可処分所得」、「社会消費品小売総額」を見てみましょう。

 

【グラフ】2018年各都市1人当たりの平均可処分所得上位10都市(単位:元)

出所:中国政府の発表を基に中国トレンドExpressにて作成

 

【グラフ】杭州市社会消費品小売総額の推移(単位:億元)

出所:中国政府の発表を基に中国トレンドExpressにて作成

 

可処分所得においては一線都市に迫る金額、また社会消費品小売総額においては、華東地区においては上海に次ぐ金額、成長率も前年比9.0%とトップクラスの伸びとなっています(上海市は前年比7.9%、北京市は2.7%増)。

 

そんな同市には武林商圏、湖濱商圏、呉山商圏といった商圏がありますが、そこでもっとも有名なのが「銀泰」ブランドの百貨店。ほぼどの商圏にも店舗を構えており、まさに「杭州市民の百貨店」となっています。

そのなかでも特に注目されているのが、敷地面積24万㎡をほこるショッピングモール「杭州湖濱銀泰in77」。2018年の店舗売上45億元(前年比22%増加)。客数も2018年には通算6000万人を達成する大型ショッピングモールです。

同店は特に若い年齢層の指示を集めていますが、特筆すべきは抖音(ドゥイン。中国版Tiktok)での「人気打卡(※)商業施設ランキング」で、成都、そして北京の「太古里」に次ぐ全国3位の人気を誇る商業施設となったことです。

 

その人気の秘密はイベントの多さ。

同店が2018年一年間で行った各種イベントは300回以上。

数だけでなく世界的に有名なサッカー選手・ジダン、ファッションモデルのベラ・ハディッド、中国国内のトップ歌手や俳優、人気アイドル、さらにはKOLなど、重量級の著名人を招いてのプロモーションイベントを開催し、それらを目当てに多くの報道陣、若者が詰めかけ、メディア、SNS上で発信。人気を呼んでいます。

ちなみに、ここで開催された日本のNARUTOアニメ展も含まれています。

※打卡(中国のネット用語:タイムカードを打つの意。転じて人気の場所へ行く、人気商品を購入、人気メニューを食べた、の意味として使う。同時に「行く(買う)べき」、「オススメ」の意味も含まれる。)

インフラ整備に後れも進む建設ラッシュ

さて、この杭州は2022年にビッグイベントを控えています。それは「アジア大会」。そのため街中は建設ラッシュ。国際会議、展示会場などの整備も進められています。

 

ただ、インフラ整備は「これから」といったところ。

地下鉄も運営しているのは3本のみ。最大の観光地である西湖周辺にも地下鉄駅はなく、車やバスでのアクセスとなっています。

これも整備が進められており、将来的には合計10路線が計画されています。

地下鉄内の線路表示図

 

新しい大型ショッピングモール「大悦城」。だが近くにはバス停のみ

 

大悦城では昨年上海で大人気となった『聖闘士星矢』テーマ展が開催

文化人の街・杭州。キャッチにもインテリジェンスが

杭州には注目市場という価値だけではなく、中国有数の文化都市としての一面もあります。杭州は隋代以降、江南地方の運河の終着点として経済だけではなく、文化もともに発達したのです。

また歴史上の人物としては三国時代の呉の初代皇帝・孫権、北宋中期の政治家であり学者であった沈括、唐代の詩人・書家の賀知章など、錚々たる名前が上がります。

 

さらに浙江大学は中国で最も早く創立された四大学府の1つであり、中国美術学院も「中国で最も難易度が高い三大美術学院」の1つとされています。

 

そんな文化的気風を受け継いでか、杭州のビジネス界でも「文字ゲーム」を好む傾向があるようで、あちこちの店舗名や料理名に現れています。

あるDIY家具店の婦人節ポスターは、「DIY」ではなく、DをPLAYのPに変えて「PIY」、また女王節の「王」を遊ぶの漢字「玩」に変えて「女玩節」と変えてあります。つまりこの日は女性がDIYを楽しむ日という意味を表しているようです。

またフレッシュジュース店の商品名は「りんごジュース」や「オレンジジュース」という普通の名前に混じって、梨ジュースだけ「永不分梨(「永遠に離れない」という意味の永不分離の離を梨に変えた。中国語で離と梨は同音)」というネーミング。

また上海などでは普通に「●●●●(豚足のネギ塩焼き」と呼ぶ料理名も、杭州では「中国語●●●●(神様がキスした豚足)」と書かれていました。

 

上海では見ることのできないインテリジェンスのきいた、文化的な遊び感を楽しませるのも杭州の魅力と言えるでしょう。

 

杭州は商圏と商圏の間も近く、風景もいいので休日は緑の下でピクニック気分も堪能できそうな、のんびりとした雰囲気の街。

「だから結局杭州に戻ったんです」。上海の大学4年、仕事3年、そしてアメリカで2年働いた経験を持ち、今回杭州取材のアテンドをしてくれたJessieはそう言います。

 

「現代化された便利な部分もあるし、大自然もすぐそこに。給料は上海より若干少ないけど、生活水準は高いですね。同じ内容の食事でも、2人で150元前後ですみます。上海なら倍の300元にぐらいじゃないかしら」(Jessieさん)。

 

ただ、バイリンガルである彼女には別の悩みも。それは「杭州は外資系企業が全然ないの。働いてる外国人も少ない。私の英語を披露する場がほとんどないの!(笑)」ということ。

 

はてこれを外資参入の障壁とみるべきか?それともチャンスととらえるか?

次回、杭州市最大の企業の状況を見ながら考えていきたいと思います。