【mini column】改めて考える中国の「3人っ子政策」と今後のベビマタ市場
2021年6月1日から「夫婦1組につき3人までの出産を認める」というお達しが、中国政府より発表された。
70年代から1人っ子政策という人口抑制政策を取り、2016年までは夫婦1組に1人の出産しか許されなかった政策が、また大きく転換することになる。
しかし、中国市民の反応は非常に冷淡。
その背景を中国のマクロデータを中心に振り返り、ベビマタ市場がどのようになっていくのかを考えてみよう。
「産んでよい」許可が必要な国情
筆者が中国における「計画生育」、いわゆる「1人っ子政策」というものを体感したのは、上海市在住時、自分の娘の戸籍登録に役所に赴いた時である。
その時の必要書類にあったのが
「准生証」
と呼ばれるものである。
日本語に直訳すれば「出産許可証」とでもなるだろう。
これが無いと娘は中国の戸籍が取得できない。生まれていても、中国の戸籍上は“存在しないこと”になってしまうのである。
当時はまだこの1人っ子政策のさなかであったが、幸いにも娘は第一子。准生証も取得しており、片親が中国国籍であったために順調に登録ができた。
しかし、もし第二子、三子であったらどうなっていただろう…?
この准生証を手に取ったとき、それまでは知識として知っていた中国の計画生育が、自分のものとして実際のものとして体感するに至ったのである。
同時に、「子供を産んで良いか否か」を国が判断するという点に、何となく腑に落ちない、モヤモヤしたものを感じたのも、この時である。
それが、大きく方向展開しようというのは、筆者個人にとっても感慨深い。
育生拡大も、かえって減少している出生数
では、中国の出生人口の推移を現代史とともに見ていこう。
1949年以降、大戦も内戦も集結し、中華人民共和国が成立したことで出生数も増加傾向に向いた。
しかしその後、大躍進政策が引き起こした「三年自然災害」によって一気に減少する。ただ、災害が一段落した後、リバウンド出産によって一転急増に。
1963年には建国後、最大の2900万人にまで達した。
【グラフ】中国出生数の推移
その後は緩やかに減少し、70年代末の1人っ子政策によって2000万~1500万人規模で推移してきた。
興味深いのは2016年、1人っ子政策が緩和され、2人目の出産を全国的に認めたのだが、それ以降、出生人口は急落。2020年には1290万人まで落ち込みを見せているのである。
負担の大きな中国における出産、育児
その背景にあるのは、一つは経済的な負担である。
さらには将来の大学受験を見越した早期教育の習い事、学校に入れば補講授業などの費用も少なくない。
その投資額も家庭同士での競争心が芽生える。他家よりも少しでも多くを投資し、子供を勝ち抜かせようとする意識が芽生えるのである。
また「子供が増えれば、その分広い家が必要」という悩みもある。
現在は大都市のみならず、その周辺の衛星都市でも不動段価格が上昇している。そこで1人子供が増えれば、1人分広い面積が必要になり、全体の購入価格も上がる。
経済的には大きな負担増となるのである。
また、女性の「負担」の大きさも問題である。
デロイトが行った、『職場女性調査報告』によると、オフィスなどで働いている女性の35%が「子供の面倒は自分が主に見ている」と回答しており、また61%が「家庭内で家事の主な担い手である」と回答。
オフィスで仕事をこなしながら、家事、そして育児に奮闘している姿が見て取れる。
中国では女性管理職比率などは日本よりも多いのだが、家庭家事に関しては保守的な傾向がみられ、それが女性にとっての負担になっている様子が見て取れる。
ここで子供が増ええれば、当然、手間も増え、負担増となる。
子供を増やすという選択の優先度が下がっても止むを得ないといえるだろう。
「夫婦2人で4人の父母を養いつつ、子供3人を養い、かつ将来的には9人の孫の面倒を見ることになる」
「3人子政策」発表後には、そんな冗談がSNS上で出回ったが、そこには笑ってすまされない現状があるのである。
少子化の反対に拡大する市場
国の政策とは相反して少子化が進む中国。そこで気になるのはベビマタ市場の状況である。日本の例でも見えるように、子供が減少すれば市場が縮小していくという結果がもたらされるからである。
しかし中国では若干様相が異なる。
ベビーマタニティ市場は拡大傾向にあるのである。
中国の調査会社iiMedia Research(艾媒諮詢)の調査では、2020年には4兆元、2024年には7兆6000億元超にまで達すると見られている
【グラフ】中国ベビーマタニティ市場規模の推移予測 (単位:億元)
出所:iiMedia Research(艾媒諮詢)
子供は少なりつつも、妊娠~出産~育児に関する投資は増加しているというわけである。
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ただ、こうした市場では消費者の心理も大きく変化している。
かつての「安心・安全」というニーズはすでに一般化しており、それが満たされているというベースの元、より高い品質の物や自身や子供のステイタスとなりえるものを求めていると見るべきだろう。
特に現在の90後や95後は成分にこだわりが強い。
子供だけではなく自分の肌に使うもの、服用するものなど、「どれがより高い効果がもたらされるか」という視点がある。
そうした消費者に、単純な「安心・安全」だけで心をひくことは不可能。より具体的に、「何がどのように良くなるのか、改善されるのか」を明確に伝えていく必要がある。
更に、妊娠から育児初期はどうしてもナイーブになる。
SNSを通じて多種多様な情報が一気に流れ込んでいる社会では、よりその使用する商品に対して慎重になりやすい。
そのため、サンプリングなどを用いて「まずは1回試してもらう」という場を設けることの重要度が増してくるだろう。
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そして同時に、家事育児をこなしつつ事業での成功をもたらす女性への配慮を忘れてはならない。
子育ての中にあっても自己実現を求める女性に寄り添い、サポートする姿勢を忘れると、一気にブランドそのものから離れて行ってしまう可能性もあるのだ。
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少子化と同時に拡大を続ける中国ベビーマタニティ市場では、そのコミュニケーションの在り方に知恵をぼらなければならない。